■最大の争点は「コロナ対策」ではなく経済政策

 現時点で、自民党総裁選の候補者たちの政策を比べると、その経済政策に大きな違いは見られない。河野太郎・行革担当相(57)、岸田文雄・前政調会長(64)、高市早苗・元国務相(60)の経済政策は、いずれも現状踏襲にすぎない。そればかりか、3候補は、量的金融緩和の副作用についてほとんど考慮していないうえ、財政赤字に対しての危機感もないように見受けられる。

 メディアは、今回の選挙の最大の争点を「コロナ対策」としている。しかし、1年半以上も続いたコロナ禍で、もう答えは出尽くしているのではないだろうか。

 逼迫した医療体制を構築し直し、ワクチン接種を進めながら、治療薬と治療方法を確立させる。そのうえで、安心できる「ウイズコロナ社会」をつくる。これが目指すところなら、各候補者のアプローチに多少の違いがあるだけで、やることは同じだ。

 となると、コロナ対策よりも大事なのは、やはり、経済政策である。こちらのほうが、国民の暮らしに直結する。長期的に考えれば、はるかに重要だ。

■河野太郎氏は、金融政策を日銀に丸投げ

 河野太郎氏は、立候補表明会見で、これまでのアベノミクス的政策とは距離を置くと表明したが、財政出動については「有事の財政(支出)は避けられない」と述べた。しかし、その規模に関しては、「もう少し研究させて欲しい」と、明確にしなかった。

 菅首相が宣言した「脱炭素」(カーボンニュートラル)政策に関しては、これを経済政策の中心に据え、原発を維持しつつ、太陽光発電などへの投資拡大で経済成長を目指すと述べた。ただ、これらの財源については、触れなかった。

 4月の気候サミットで、菅首相がほぼ独断で宣言した二酸化炭素削減目標(2030年に2013年度比で46%)は、相当ハードルが高いうえ、実現には莫大な費用がかかる。現状では、炭素税などの導入による増税か、日銀の国債の買取りによる“財政ファイナンス”しかない。そうすれば、財政赤字はさらに拡大する。

 しかし、河野氏は、金融政策に関しては、かつて金融緩和「出口戦略」を提言したこともあるにもかかわらず、「日銀に任せる」と述べるにとどまった。

■岸田文雄氏の「新しい日本型資本主義」とは?

 岸田文雄氏は「小泉内閣以降続いてきた新自由主義的な政策を改める」とし、「新しい日本型資本主義」を提唱した。

 しかし、その中身となると、具体性に乏しい。

 岸田氏は、持てる者と持たざる者の格差が広がったことを懸念し、「成長と分配の好循環を実現する」と言ったが、目指すのは地方や中間層への分配を手厚くするということだから、これもまた、結局はバラマキ政策である。

 アベノミクスは菅政権によって踏襲され、今日まで続いてきた。有名なのは「3本の矢」だが、岸田氏はなんと、デフレ脱却のために、この3本の矢を堅持するとした。

 となると、成長戦略として掲げた、10兆円ファンドの年度内設置による研究支援、産業再編、地方のデジタル関連インフラの整備の財源は、結局は、日銀の財政ファイナンスに求めるほかない。これでは、赤字国債の発行は際限なく続く。

 それでも岸田氏は「財政再建の旗は降ろさない」と述べた。しかし、どのように財政再建をするのかは示さなかった。

■「サナエノミクス」は極左もひるむ経済政策

 高市早苗氏の「サナエノミクス」は、アベノミクスを継承してさらにパワーアップしたものだから、MMT理論を信奉する極左でもひるむ超大型バラマキ政策である。言葉を変えれば、完全な「大きな政府」政策である。なぜ、保守で右翼、極右とまで言われている人間が、このような大きな政府指向なのだろうか。

 高市氏は「十分な経済対策を数十兆円規模で速やかに実施する」と述べた。また、大規模災害に備えた「危機管理投資」と、ロボットや半導体技術などへの「成長投資」で機動的な財政出動を図ることを提唱した。

 しかし、これをするためには、増税か赤字国債の増発しかない。高市氏は「プライマリーバランスは凍結する」としたので、財政悪化など考慮外なのだろう。

■なぜ失敗したアベノミクスを踏襲するのか

 アベノミクスは、どう見ても失敗である。7年余りで、日本人の平均給与は下がり続け、IMFの統計では、1人あたりのGDPは世界26位まで転落してしまった。これは韓国とほぼ同レベルで、購買力平価による1人あたりのGDPでは、すでに韓国のほうが上回っている。

 経済成長率は、ほぼ横ばい。よくて年率1%で、欧州2%、アメリカ3%、中国7%と比べると完全に見劣りし、日本は先進国から転落してしまった。

 デフレ脱却のため、インフレターゲットとして目指した2%の物価上昇は達成できず、日銀はおカネを刷り続けたあげく、株まで買い占めた。その結果、日本の株価は上がったが、日本の資本主義、市場経済は歪み、国家社会主義経済に変質してしまった。

 「ユニクロ」のファーストリテイリング、TDKなどの名だたる大企業は、日銀が大株主になってしまい、いまや国有企業と言っていい有様だ。それなのに、高市氏は、これを継承すると言うのである。

■野党の政策も「大きな政府」で与党と同じ

 自民の総裁選にぶつけて、野党・立憲民主党も政策を発表した。しかし、これもまた「少なくとも30兆円規模の補正予算を編成する」というバラマキで、差別や格差是正を目指すという「大きな政府」政策だ。

 枝野幸男代表(57)は、9月12日、党のネット番組で、近く「アベノミクスの功罪」を検証するための党組織を設置することを明らかにした。そして、「検証はわれわれが打ち出す政策の前提となる」と述べた。

 とすると、いちばん気になるのは、量的金融緩和の功罪をどう位置付けるかということだ。

 枝野氏は、かねて「新自由主義的路線を菅政権は加速しようとしている」と主張し、新自由主義的な経済政策の転換の必要性を訴えてきた。その立場から、「格差是正による分厚い中間層の復活」を党の看板政策として打ち出したが、これは岸田氏の政策とほぼ同じである。

 それにしてもなぜ、この国は、与党も野党もそろいもそろって左翼的な「大きな政府」指向なのだろうか。大きな政府ほど、自由経済を圧迫するものはない。経済回復は自律的に起こるものであり、国家が経済に手を突っ込めば突っ込むほど、経済は悪化する。国家がやるべきことは、経済の統制ではなく、規制緩和やイノベーションの手助けをすることだけだ。

■FRBもECBも緩和縮小に方針変更

 日本がコロナ対策と経済政策で迷走するなか、アメリカも欧州も、金融緩和の縮小に向けて動き出した。

 FRB(米連邦準備理事会)のパウエル議長は、すでに、8月27日のジャクソンホール会合で、「テーパリング」(量的緩和の規模の縮小)を年内に開始するのが適切だという考えを示した。これが実施されれば、米国債などの債券買取りは減少し、金利が上がる。FRBとしては、コロナ禍からの経済回復が順調に進んでいると解釈したのである。

 このFRBの公表を受けて、英イングランド銀行も緩和縮小に向けた方針を公表した。カナダ中央銀行も、同じような方針を示唆した。さらに、オーストラリア準備銀行は、9月7日の理事会で資産購入の減額を決定した。

 ECB(欧州中央銀行)も、9月9日、テーパリングを決め、金融正常化に向かうことを公表した。ECBは、コロナ危機に対処するため、総額1兆8500億ユーロ(約240兆円)の債券緊急買い取り制度を設け、これを少なくとも2022年3月まで続ける方針だった。しかし、景気が回復に向かっていると判断し、買取り額の減額を決めたのである。

 しかし日銀は、これまでの「異次元緩和」と併せて6月に決定したコロナ対応の資金繰り支援策を、2022年3月まで継続する方針を変更していない。

■日銀の現状維持政策では円安が加速する

 欧米が「出口」に向かうなかで、日銀が現状維持政策を続けると、なにが起こるだろうか? 当然予想されるのが、円や株価に悪影響をもたらすことだ。まず、円は間違いなく下落する。

 この現象はすでに起きている。たとえば、オーストラリア準備銀行が「国債購入のペースを週40億豪ドルにする」と公表したとたん、外為市場では豪ドルが買われ、対円では20銭ほど円安・豪ドル高が進んだ。

 豪ドルに対してこれだから、アメリカで本格的なテーパリングが始まれば、円安・ドル高が一気に進むだろう。

 現在、外為市場には、「年内に円は1ドル115円まで下落する」という見方がある。しかし、実際に下落するときのスピードは速いので、1ドル120円、130円もありえるだろう。そうなれば、輸入品(資源、食料など)は軒並み値上がりしてデフレはインフレに変わり、そのインフレが高じて、最終的に制御できなくなる可能性まで考えられる。

■株価3万円超えで逆に高まる下落懸念

 円安、インフレとともに懸念されるのが、株価の下落だ。

 先日の株価3万円超えは、日本の実体経済の現状からは説明がつくものではない。金融緩和でおカネが余っているので、なにかのきっかけがあれば上がるとしか言いようがない。すでに、日銀などの買い占めにより、市場にある株数は少ないので、火が点けば弱火でも燃え上がる。

 今回は、それが、菅首相の退陣表明だった。先導したのは外国人投資家である。

 それにしても、ここまで一気の3万円超えを誰が予想しただろうか。「ワクチン接種が進めば経済は正常化する」という見通しが崩れた時点で、株価の上昇はないと思われていた。8月20日に、日経平均が2万7000円を割り込んだとき、多くの個人投資家は「さらに下抜けするのではないか」と怯えた。しかし、3万円超えを見ると、「早く買わないとさらに上がってしまうのでは」と慌てている。

 しかし、それだからこそ、いずれは本当に下がるという懸念も高まっている。株価は、すでに2度3万円超えしたが、その都度下落している。

■「効率的市場仮説」が通用しない世界

 現在の市場を支配しているのは、行動経済学が言うところの「アンカリング・バイアス」ではないかと思える。これは、モノやサービスの価格が、最初に提示された価格に左右されるということ。その価格が不合理に形成されたものでも、いったん定着してしまうと、以後、一貫して判断を左右する。これを「最初の価格」(アンカー)との比較で判断されるということで、「アンカリング・バイアス」と呼んでいる。日本的な言い方をすれば、「刷り込み」現象だ。

 ドル円価格にも、株価にも、いや、あらゆる資産に、この理論は通用する。いったん価格が刷り込まれると、人々はそれによって「高い」「安い」を判断し、実体経済のことなど重視しなくなる。

「効率的市場仮説」が正しければ、株価や為替レートは実体経済の状況に敏感に反応しなければならない。物価も同じだ。しかし、最近はまったく違う。世界中で金融緩和をやり過ぎて、人々は、この状況が異常とは感じなくなってしまったようだ。

■バブル崩壊に備え大胆な経済政策をやるべき

「アンカリング・バイアス」は、いつか必ず、実体経済、財政悪化によって消滅する。バブルの崩壊が起こる。それがいつかとは言えないが、このところの状況を見ていると嫌な予感がする。すでに、賢い資産家は、資産を金融資産から実物資産に移している。金(ゴールド)や宝石類、鉱物資源、石油などの天然資源、穀物などのほか、土地や不動産などの実物資産のほうが、インフレには強い。

 そして、いまの日本経済だが、金融緩和の副作用が効きすぎて経済成長できない体質になってしまっている。いまや、あらゆる産業がリスクを取らなくなってしまった。

 日銀による資金供給とゼロ金利で、成長性に乏しい産業、旧態依然の産業が生き延びている。この流れを断ち切り、金融緩和の出口戦略に入らないと、日本の将来は限りなく暗い。

 たとえば、公務員の給料とボーナスを大幅にカットし、人員も大幅に削減する。もちろん、政治家もそうしたうえで、年功序列制度をなくし、実力主義を霞が関と永田町に導入する。肥大化した省庁は解体し、権限と財源の多くを地方に移す。そして、金融緩和だけで生き延びてきた企業はみな潰す。さらに消費減税、所得税減税をやる。これくらい大胆な経済政策をやらないと、日本経済は復活しないだろう。