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テキサス州では10日から解除。マスク「しない」「する」で分断されるアメリカ

山田順作家、ジャーナリスト
「もうマスクは必要ない」アボット、テキサス州知事(写真:ロイター/アフロ)

 3月10日、グレッグ・アボット州知事の宣言どおり、テキサス州では「マスク着用義務」(mask mandate)が解除された。ヒューストンのナイトクラブでは、「マスクオフ・パーティ」も企画されたが、さすがにこれはキャンセルされた。

 とはいえ、テキサス州では、この日からマスク着用の義務はなくなり、多くの人々がマスクを着けなくなった。

 しかし、これは、大統領令に違反する。バイデン大統領は1月20日の大統領就任と同時に、アメリカ国民すべてに対してマスク着用を義務づける大統領令を出している。にもかかわらず、なぜ、テキサス州はマスク着用義務を解除したのか?

 じつは、マスク着用義務に従わなかったのは、テキサス州だけではない、今日まで、全米で16もの州がマスク着用の義務を解除している。

 2月8日にはアイオワ州、2月12日にはモンタナ州、2月22日にはノースダコタ州がマスク着用義務を解除した。これに続いたのが、アラスカ州、フロリダ州、オクラホマ州、ミシシッピ州などだった。

 そして、3月6日にはアイダホ州が、州議会において、どのような健康危機が起ころうと将来にわたってマスク着用義務を違法とする法律を可決させた。アイダホ州の場合、マスク着用義務に反対する運動はすさまじかった。州議会議事堂の前で、幼い子供たちを連れた親たちの集団が抗議デモを行い、子供たちに命じてマスクを燃やさせたのだ。ゴミ箱に火が放たれ、子供たちは喜んでマスクを投げ込んだ。

 アメリカで新型コロナウイルスのワクチン接種が始まってから3カ月あまり。すでに1回以上接種した人口は6200万人(3月10日)に達し、それとともに新規感染者数も減ってきた。

 したがって、マスク着用義務が解除されるのも、社会の正常化への流れと言えないこともない。しかし、連邦政府は、まだひと言もマスクを外していいとは言っていない。

 「CDC」(米疾病対策センター)も、ワクチン接種と並行してマスク着用を続けることを推奨している。さらに、二重マスクのほうがより効果があると発表したため、これを受けてニューヨーク州では、連邦裁判所などが二重マスクでの入場を義務化してしまった。

 バイデン大統領にいたっては、テキサス州の決定に対して、「重大な間違いだ。科学に基づくべきだ」「ネアンデルタール人のような(愚かな)考えだ」と、厳しく批判した。

 マスクの着用は、昨年、コロナ禍が始まった当初は、効果がないとされてきた。「WHO」(世界保健機関)は、あのテドロス事務局長が「いかなる種類のマスクの利用も推奨しない」と言っていた。しかし、6月になると、「公共の場でのマスク着用を推奨する」と、180度方針を転換した。それにともない、世界中でマスクの着用が義務化された。

 しかし、欧米人は、日本人と違ってマスクを着ける習慣がないうえ、マスクに対しての考え方、見方が大きく違う。

 日本では「目は口ほどにものを言う」として、顔の部分のなかで「目」を重視する。これに対して欧米人は「口」を重視する。欧米人は、口の動きで、相手の心を推しはかるという研究調査がある。よって、口を隠すマスクをすることは、相手に不信感を抱かせる。マスクを着けている人間を不気味と感じるのだという。

 そういう背景もあり、マスク着用への不満が溜まっていたのも、テキサス州などがマスク着用義務を解除した理由でもある。

 しかし、本当の理由は違う。

 マスクは、科学的、文化的な理由より、もっと大きな理由によって着用義務が解除されたのだ。それは、政治的理由。民主党と共和党の政争である。

 次は、アメリカの州で、知事が共和党の州である。これを見れば、今日までマスク着用義務を解除してきた州が、すべて共和党知事の州であることがわかるだろう。

出典:Republican Governors Association
出典:Republican Governors Association

 これまで、共和党知事の州では、民主党知事のカリフォルニア州やニューヨーク州のような厳しいロックダウンをしてこなかった。しても、一時的だった。共和党はトランプ前大統領がそうだったように、新型コロナウイルス感染症を「たいした病気ではない」と考える傾向が強い。

 しかも、厳しいロックダウンをやったカリフォルニア州やニューヨーク州が、テキサス州やフロリダ州に比べて感染者が大きく減ったわけではない。共和党はロックダウンに関しても反対が根強いのだ。

 となると、今後も共和党知事州と民主党知事州では、マスクをめぐって「分断」が続いていくだろう。アメリカはいろいろな意味で分断されてきたが、この「マスク分断」がどうなるか? 目が離せない。

 アメリカの状況を見るにつけ思うのは、日本ではいつになったらマスクを外せて、元の生活に戻れるのかということだ。ワクチン接種も世界有数で遅れているので、今年いっぱいは無理だろう。

 信用できない「WHO」は、現在問題になっている変異株について「マスクが引き続き有効」という見解を示している。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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