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どうなる中国。米中戦争の敗戦を受け入れ体制転換をするのか?それとも衰退か?日本の選択は?

山田順作家、ジャーナリスト
「習近平とはもう友人でないかもしれない」国連演説後トランプ米大統領が会見(写真:ロイター/アフロ)

 9月27日のロイター記事「Trump's election meddling charge against China marks U.S. pressure campaign(トランプ政権、中国向け「圧力戦略」が新局面入りか)によると、ワシントンでは、対中強硬派(China hawk)として知られるジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が中心となって、貿易摩擦の枠を超え、サイバー活動や台湾、南シナ海の領有権問題なども含めて、中国に対して「より強硬な姿勢」(tougher approach)を取るようトランプ大統領を説得しているという。

 これは、はっきり言って非常にいいことだ。トランプは、自分がしていることが単なる「貿易戦争」(trade war)で貿易赤字を解消することではなく、中国の覇権挑戦を潰すことだと、自覚せねばならない。

 その意味で、「習近平とはもう友人でないかもしれない」(“Maybe he’s not anymore”)発言(国連総会後の記者会見)は、ドンピシャだった。

 トランプは、どこからどう見ても史上最低の大統領だが、対中強硬路線や知的所有権防衛に関しては史上最低ではない。この点では、史上最低のオバマ前大統領のはるか上を行く。オバマには、アメリカが世界のリーダーであるという自覚がなかった。アメリカの宿命は、世界のルールをつくる唯一の覇権国(hegemon)であり続けるということだ。

 ボブ・ウッドワードの内幕本『Fear』によれば、ジム・マティス国防長官はトランプを「小学5、6年生並みの振る舞いと理解力」の持ち主と言い、ジョン・ケリー大統領首席補佐官は「馬鹿物だ」と言うが、かえってそれが、中国を追い詰めていることを、日本は歓迎しなければならない。

 トランプは日本に対する自動車関税をまだふっかけようとしているが、日本は中国とは違う。「日本はあなたが言うようなガラクタ輸出国ではないし、技術も盗まれるほうだ」と言い続けるべきだ。はたして、安倍首相にそれができるだろうか?

 9月28日の『ウォールストリート・ジャーナル』(WSJ)が報じたところによると、トランプはワシントンで開いた非公開の会合で、日本と韓国、中国は「アメリカにガラクタばかり輸出している」と発言したという。これは、最悪だから、ともかく、トランプにこの考えを変えさせなければならない。日本製製品はガラクタではない。世界でもトップクラスの超優良品だ。なぜ、外務省は抗議しないのか?

 いずれにしても、これまでの経緯と、ロイター記事などからわかるのは、現在のアメリカ政府内部が一枚岩ではないことだ。「中国との貿易摩擦がさらに激しくなることはどちらの利益にもならない」と考える穏健派(China dove)と、「ここで中国を徹底的に叩かねばならない」とする強硬派の綱引きがまだ続いていることだ。

 前者の代表が、かつてゴールドマンサックスのCEOとして中国案件でさんざん儲けたムニューシンである。後者は、ラリー・クドロー国家経済会議(NEC)委員長、ピーター・ナヴァロ通商製造政策局(OTMP)局長、ロバート・ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表などだ。日本は、この後者と徹底して付き合っていくべきだ。

 『FT』の記事(9月23日)「US trade hawks seize their chance to reset China relations Latest tariffs look more like the start of a cold war than a trade war、by Rana Foroohar」(米国の通商タカ派、対中関係リセットの好機つかむ 貿易戦争というより冷戦の始まり、企業は政治を超越できるのかbyラナ・フォルーハー)や『WSJ』の記事(9月27日)「An Economic Cold War Looms Between the U.S. and China、by Greg Ip」(米中の貿易摩擦、経済冷戦の様相に近づく 米国の目的は交渉による解決ではなく米中を恒久的に切り離すことだとの見方もbyグレッグ・イップ)などによれば、今回の米中戦争がまさに覇権戦争であることは明確だ。そして、この戦争の敗者は、中国だとすでに確定している。

 なにしろ、中国は食料もエネルギーも、そして技術もすべて海外に依存している。この点、戦前の日本と本当によく似ている。おそらく、このことは北京もわかっているはずなのに、メンツからこれを受け入れられない。1度決めた「中国製造2025」「一帯一路」などの看板を下ろせない。

 となれば、ワシントンとの報復合戦を続けて、じょじょに衰退していくほかないだろう。慌てて、所得税を減税する、人民元を切り下げないなどと言い出したが、もう手遅れである。

 衰退から逃れるには、体制を一新し、たとえば人民元を変動相場制にし、外資規制を撤廃するなど、大胆な改革をしなければならない。そうしなければ、アメリカは攻撃をやめないだろう。

 『FT』記事にもあるように、アメリカは今後、中国に世界市場へのほかの資本主義諸国のような「イコールアクセス」を認めない。さらに、アメリカ企業を中国のサプライチェーンから切り離していく。すでにワシントンは、アップルなどに対してそれを要求している。国防総省は、サプライチェーンをアメリカ国内に戻すことを推奨する「白書」(guidance)を作成しており、ホワイトハウスはそれを間もなく発表するという。となれば、日本企業も、本腰を入れて中国から撤退すべきだろう。

 

『WSJ』の記事は、中国に拠点を置く調査会社ギャブカル・ドラゴノミクスのアーサー・クローバー氏の見解を掲載している。クローバー氏は、今回の米中貿易戦争はトランプだけによるものではなく、ワシントンの「安全保障や経済両分野の当局者らの強力な協調」によるものだとし、「アメリカは中国との間で、世界の経済、技術、地政学的支配権をめぐる、存亡にかかわる対立に突入しようとしている」と述べている。

 さらに、記事は最終的にこうも述べている。

「中国は、アメリカが持つもっとも強力な競争上の利点を依然として欠いている。それは、法規範と信頼できる機関の監督下にある、懐が深くかつ開放的で透明性の高い市場、そしてアメリカの軍事力に保証されている同盟ネットワークだ。米中どちらの側につくか選択を迫られれば、企業や国の圧倒的多数はアメリカを選ぶだろう」

 日本はTPPが中国包囲網になるとして、これに注力していたときは、中国との対立姿勢を強めていた。しかし、ノーテンキなトランプにTPPを離脱されてからは、中国に再接近、いまは、習近平主席の誘いにのって経済関係を再構築しようとしている。これは、どう見ても最悪の選択だ。

 今月末の安倍訪中は、その意味で日本の今後に大きな意味を持つ。いったい、ここで安倍首相はなにを言うのだろうか?

 この際、日本は中国を少しもサポートしてはいけない。世界の貿易体制にタダ乗りして勢力を伸ばし、2049年の中国建国100年までに「世界一の強国」になるなどと言っている国と、なぜこれ以上、経済関係を強化しなければならないのだろうか。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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