Yahoo!ニュース

またもミサイル発射も、朝鮮戦争「休戦協定」違反はアメリカ。「あらゆる選択肢」などない。

山田順作家、ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 今朝方、北朝鮮がまたミサイルを発射した。今回は飛行距離が3700キロでグアムに到達可能だというので、朝から大騒ぎになっている。いまもテレビのワイドショーは、お得意の専門家を交えたプログラムを放映している。

 しかし、もはやこれは毎週の恒例行事と化して、なんら新しい情報、見解もない。いまさら、大変だ!大変だ!と騒いでみても、日本はなにもできないのだから、どうしようもない。

 また、アメリカが取るべき選択肢も2つしかない。

 力で北朝鮮を潰すか、このまま容認するか。このどちらかだ。「あらゆる選択肢」などとトランプ大統領は言っているが、これは嘘だ。彼もアメリカの政権中枢部も「やるか、やらないか」で、悩んでいるだけだ。

 今週の火曜日、8月29日の弾道ミサイル発射を受けて、国連安保理で制裁決議案が採択された。しかし、アメリカの素案は、中ロの反対を受けて大幅後退、骨抜きにされてしまった。石油禁輸といっても、単に上限を設けただけ、金正恩の個人資産の凍結さえ盛り込めなかった。「全会一致」というカッコをつけただけだ。

 だから、金正恩は「なんだ、もっとやってもいいのか」と受け止め、目標に向かって計画を粛々と実行している。安保理決議は、かえって北朝鮮を勇気づけたにすぎない。かねがね、国連大使のニッキー・ヘイリーは「安保理決議などしないほうがマシ。北に誤ったメッセージを与える」と言ってきたが、そのとおりになっている。

 北が核・ミサイル開発をするのは、核保有国となって体制維持をする。そうして対等にアメリカと交渉するのが目的だと、今日もまた多くの専門家がテレビで言っている。

 本当だろうか?

 サダム・フセインもカダフィも核を持たなかったからアメリカに潰された。そこから北は学んでいるというのだ。しかし、北朝鮮はリビアやイラクとは決定的に違う状況にある。

 それは、北朝鮮はそもそも韓国を正当な国家と認めず、朝鮮半島を統一することを国家目的にしているということだ。そのために、米韓同盟を崩壊させ、アメリカ軍を朝鮮半島から追い出すのが彼らの最終ゴールだ。つまり、核保有国と容認されてアメリカと交渉しても、彼らにはその次のステップがある。

 対米従属でアメリカと一心同体でなければ国を守れない日本では、このことを大声で言う人は少ないが、朝鮮戦争が終わらないのは、アメリカが1953年の「休戦協定」を破っていることが根本原因である。

 そもそも休戦など必要がないのに、バックの中国、ソ連に怖気づいたアメリカは、これを結んで、これ以上犠牲を増やさない道を選んだ。マッカーサーを解任し、対中戦争に踏み切らなかったのだから、これは仕方なかっただろう。

 歴史にイフはないが、あのとき、アメリカが冷戦を本当に戦って勝つ気になっていれば、いまの中国も北朝鮮もなかった。明らかなアメリカの政策ミスだ。

 これと同じことを、アメリカはベトナム戦争でも繰り返した。アメリカのほうがなにも学んでいない。

 戦争回避だけを目的とした休戦は、なんの解決にもならない。結局、アメリカは休戦協定締結から3カ月以内に、朝鮮半島にいるすべての他国軍(国連軍)を撤退させることで合意した。しかし、アメリカだけは撤退せずに今日まで韓国に駐留している。

 アメリカと交渉の席に着けば、北朝鮮は必ずこのことを持ち出してくるだろう。そうでなければ、北朝鮮の存在意義がない。よって、彼らと話し合いなどは、どんな状況になろうとできないのだ。

 今回のことでまたも安保理が緊急招集されるという。しかし、いったいなにをやろうというのだ。こんなものいくらやっても、結果はわかっている。トランプ大統領も、もう“怒りのツイッター”を繰り返すのに疲れたはずだ。彼から見たら悪ガキにすぎない男と、これ以上、ゲームをしても無駄だとわかっただろう。

 今後アメリカは、用意周到に、北から先に手を出させるように仕向けるかもしれない。しかし、石油禁輸によって日本がついに真珠湾で暴発したようなことにはなりそうもない。なにしろ、後ろに中ロが控えている。

 また、ピッグス湾やトンキン湾のようなこともできそうもない。それでも、なお、世界を救い、アメリカの世界覇権(パックスアメリカーナ)を維持するなら、トランプ大統領は最終決断をしなければならない。

 トランプ大統領のツイッターが北に対して沈黙するとき、そのときがなにかが起こる前触れだ。「沈黙」がやってきたときが、本当に怖い。

 

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

山田順の最近の記事