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北朝鮮ICBM発射実験に成功で「時間切れ」迫る。憲法改正より「抑止力」を!

山田順作家、ジャーナリスト
北朝鮮が「ICBN(金星14号)発射実験に成功」と発表(写真:ロイター/アフロ)

7月4日、北朝鮮は新型の弾道ミサイルを発射し、日本海の日本のEEZに落下させた。当初の報道によると、飛距離は約930キロ。北朝鮮は「ICBMの実験に成功した」と発表したが、まだ中距離ミサイルの改良型ぐらいの雰囲気だった。しかし、今日、なんとティラーソン国務長官がICBMだと認める発言をした。

米メディアの報道によると、射程は5500キロという中距離ミサイルの範囲を超え、アラスカまで届くという。

はっきり書くが、ここまでの経緯は、トランプ大統領の惨敗である。「あらゆる選択肢」などと言って「脅し」をかけたにもかかわらず、金正恩にやりたい放題やられてしまったからだ。一度は「なかなかの切れ者」と持ち上げたが、効果なし。今度は「この男は人生で他にやることはないのか」(Does this guy have anything better to do with his life?)だから、お手上げということだ。

金正恩のほうカサにかかって、ICBMを独立記念日の贈り物とし、「今後も大小の贈り物をしばしば送ってやろう」と言っているのだから、余裕十分だ。

彼は、アメリカは絶対攻撃できないと確信して、このゲームをやっているのだろう。

それにしても、朝鮮半島海域にいるはずだった2つのCSG(空母カール・ビンソンと空母ロナルド・レーガン)はどうしたのだろうか? 「SOUTH FRONT」の最新の「US Carrier Strike Groups Locations Map June 16, 2017」によると、カール・ビンソン(CVN70)は単に「U.S. 7th Fleet Area of Operations」となっているだけ、ロナルド・レーガン(CVN76)は「South China Sea」となっているだけだ。

https://southfront.org/us-carrier-strike-groups-locations-map-june-16-2017/

北朝鮮がアメリカ本土まで届くICBMを本当に開発・保有すれば、これまで日本の平和と安全を守ってきたアメリカ「核の傘」は消滅する。すでに、ロシアと中国の間には「相互確証破壊」(MAD)が成立しているが、これが北朝鮮との間にも成立すると、アメリカは本当に北朝鮮を攻撃できなくなる。

したがって、軍事オプションを取るなら、時間はあとわずかしかない。時間切れは目前だ。

時間切れになって最悪なのは日本である。

アメリカの場合、ICBMの迎撃態勢も整いつつあり、将来的には、レールガン、マイクロウェーブ兵器、高出力レーザー兵器の開発・実戦配備により、ICBMを無力化できる可能性がある。しかし、日本にはそれがない。

北からの「脅し」に屈する以外の選択肢がなくなる。これは、日本にとって最悪のことで、彼らになにを要求されても従うしかなくなる。

そんなことはない。アメリカが日本を守ってくれるというのは「お人よし」すぎる。いくらアメリカにその気があろうと、現実にはできるわけがない。

これは、中国との間に「日中尖閣戦争」が起こったとき、アメリカが参戦しないのと同じ理屈だ。アメリカはいくら口では「日本を守る」(尖閣の場合は「安保の適用範囲」)と言っても、それを実行できない。中国のICBMがアメリカ本土に飛んでくるからだ。

こうした状況が目前だと言うのに、安倍首相は憲法改正にこだわって、2020年の東京五輪開催の年を新憲法の施行の年とし、それに向かって進んでいる。

5月に発表されたビデオメッセージでは、9条の1、2項(「戦争放棄」と「戦力の不保持」)はそのまま残して、3項を加え、そこに自衛隊の合憲化を明記するというという案を提示した。本当に、姑息で、その場しのぎとしか言いようがない。なにより、憲法を改正して軍を正当化すれば、それで日本が「独立国家」となり、安全と平和が確保できると考えている点が、認識違いもはなはだしい。

なぜなら、憲法は国内法であるから、国際法によって日本の「主権」が認められない限り意味がないからだ。いまの日本は不完全主権しか持っていない「半独立国家」である。しかも、アメリカに安全保障を丸投げするしかない「従属国」である。

憲法改正と言うと、多くのメディアや識者がいつも決まって言うことがある。「十分な議論を尽くすべきです」である。しかし、「どんなことでも話し合えば解決できる」というのは一種の“宗教”で、話し合えば話し合うほど本筋から遠ざかる。とくに、憲法に関しては、改憲派と護憲派の溝が深まるだけだ。

それに、改憲が本当に必要だったら、もうとっくにできていたはずだ。なぜできなかったか? それは、日本人に現在のような危機感がなかったからだ。

戦後70年以上、あまりに長くアメリカによる庇護が続き、それによって平和と安全が保たれてきた。その結果、私たちはこの状態を「自然環境」のように思い込み、平和と安全は自分たちの力でつくり出すとものだということを忘れてしまった。そのせいで、いくら憲法改正などと言われても、「知らぬ存ぜぬ」で通してきたのだ。

しかし、もう「知らぬ存ぜぬ」ではすまない。憲法もそうだが、いずれ、自分たちで自分たちを守る、そのための「抑止力」を持たねばならないということになる。つまり、敵の核に対抗するための核を持つということだ。さらに、日本独自でレールガン、マイクロウェーブ兵器などの開発を進めなければならない。

そうして、最終的に、北朝鮮、中国、ロシアとの間に「MAD」を成立させない限り、日本の独立も安全もない。それに比べると、憲法改正などじつに小さな問題ではないだろうか?

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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