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トランプ弾劾は近い。署名は100万超え目前、オッズは2/1!反逆罪、脱税、偽証罪、収賄罪のどれ?

山田順作家、ジャーナリスト
完全に「迷走状態」に入ったトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

これまで、アメリカ大統領が弾劾裁判にかけられた例は2例しかない。

1例目は、リンカーン大統領の暗殺で大統領職に就いた第17代大統領アンドリュー・ジョンソン。南北戦争後に南部に寛大な政策を取り、陸軍長官を罷免したことから議会の怒りを買って、「テニュア法」(政府高官は罷免されない)を破ったという口実で弾劾裁判にかけられた。

大統領の弾劾は、下院において過半数の賛成により発議され、上院において3分2の賛成を持って採決される。ジョンソン大統領のケースは、賛成35票で3分の2の36票に1票足りずに否決された。

2例目は、「不適切な関係」で大統領の「品格」を問われた第42代大統領ビル・クリントン。このときも上院採決では賛成票は3分の2の60票に達せず否決された。

ただし、弾劾されなかったとはいえ事実上、弾劾されたに等しかったのが第37代アメリカ大統領リチャード・ニクソンだ。発端はウォーターゲート事件で、弾劾されれば確実に罷免されるのは間違いなかったため、潔く辞任した。これは、アメリカ史上、大統領が自ら辞任した初の例である。

つまり、大統領が弾劾罷免された例は歴史上1例もない。にもかかわらず、トランプ大統領に対する弾劾の機運は日に日に高まっている。就任前から、「弾劾ムーブメント」は起こっていたが、先日、FBIのコミー長官を解任してからは、メディアの論調も「弾劾はやもうえない」に傾くようになった。

すでに、ネット上には、「インピーチ・ドナルド・トランプ・ナウ」(トランプをいますぐ弾劾せよ)」という市民団体が署名をつのり、その署名は5月16日時点で97万2754人に達している。サイトで署名人数の動きを見ていると、ここにきて急増しているので、間もなく100万人を超えるだろう。

→「インピーチ・ドナルド・トランプ・ナウ」のサイトhttps://impeachdonaldtrumpnow.org

もともとトランプの発言は思慮分別に欠けるうえ、自慢話が多かった。なぜコミー長官を解任したのかに関して、まともに答えていないうえ、5月15日には「ワシントンポスト」紙に、ホワイトハウスでロシア外相らと会談した際、「イスラム国」(IS)に関する重要機密情報を外相らにリークしたと書かれたのだから呆れるほかない。

→「Trump revealed highly classified information to Russian foreign minister and ambassador」

https://www.washingtonpost.com/world/national-security/trump-revealed-highly-classified-information-to-russian-foreign-minister-and-ambassador/2017/05/15/530c172a-3960-11e7-9e48-c4f199710b69_story.html?utm_term=.f705472a5dbc

もっと驚くのは、「タイム」誌のインタビューで、マティス国防長官が2月に東京を訪問した際、35機の最新鋭ステルス戦闘機F35が日本上空を飛行したと述べたことだ。 

F35ライトニングは現在、岩国基地に10機しか配備されていないから、これは耳を疑う発言だ。しかも、彼は就任前、「F35は高額すぎる。F18スーパーホーネットで十分」などと発言したため、ロッキード・マーチン社は値下げを約束させられていた。

だから、自慢したかったのだろうか? 公式上ではありえない35機の飛行を記者に述べ、「レーダーに探知されなかった。上空を飛行した際、皆が『一体どこから飛んで来たんだ』と言っていた。これがステルスだ。すごいだろ」と言ったのである。皆とは誰だ?

→「これがステルスだ。すごいだろ…」トランプ氏 謎の「F35日本上空飛行」発言 マティス国防長官訪日時 真意めぐり臆測(産経新聞5月14日)

http://www.sankei.com/world/news/170514/wor1705140044-n1.html

こんな状況だから、弾劾機運が高まるのは当然と言えるだろう。そんなか、アメリカン大学のアラン・リヒトマン教授が弾劾シナリオを具体的に示した本「The Case for Impeachment」を出した。リヒトマン教授はトランプ当選を予測したにもかかわらず、トランプは任期の4年を全うできないと述べているのだ。

このリヒトマン教授を私の友人のジャーナリスト・矢部武氏がインタビューし、その記事が「ダイヤモンドオンライン」で公開されている。

それによると、トランプが弾劾訴追される理由は「反逆罪」「収賄罪」「偽証罪」などいろいろ考えられるが、ロシアンゲートによる「反逆罪」が有力のようだ。

→トランプは任期途中で弾劾!直近9回の大統領選を当てた学者が大胆予測(ダイヤモンドオンライン)

http://diamond.jp/articles/-/128055

はたして、トランプが弾劾罷免されるかどうか? その答えは現時点ではわからないが、その確率が高まっているのは確かである。そこで、その確率はどれくらいか、ブックメーカーのオッズで見てみたい。

トランプに関するベッティングでもっとも充実しているのが、アイルランドのブックメーカー「パディー・パワー」(Paddy Power)で、ここでは「トランプスペシャル」(Trump Special)として、何種類もの賭けが行われている。

そのなかで、代表的なのが、シングルベットの「トランプが1期目の任期中に弾劾されるかどうか?」(2017年12月31日締め切り)である。シングルベットだから「イエス」に対してのオッズしかないが、これは現時点(5月16日)で2/1だ。就任前は4/1だったから急上昇している。

「パディー・パワー」の広報担当に聞くと、「FBIコミー長官解任で賭ける人間が急に多くなり、オッズを2/1下げました。一時は3/2にしようかとしましたが、現時点では2/1です」とのこと。3/2だと2ベットして支払いは3+2=5、2/1だと1ベットして支払いは2+1=3で、競馬で言えばかなり固い本命馬のオッズである。

また、「弾劾の時期当て(弾劾法案が「下院」the House of Representativesを通過するのはいつか?)」という賭けもあり、こちらのオッズは次のようになっている。

2017年:3/1

2018年:6/1

2019年:16/1

2020年:20/1

先に行くほどオッズが高いということは、多くの予想家が2020年までトランプは持たないと考えているということだ。

では、トランプが弾劾されるとしたらどん罪状なのだろうか? これに関する賭けもある。以下がそのオッズだ。

Treason(反逆罪):10/3

Tax evasion (脱税):4/1

Perjury(偽証罪):7/1

Bribery (収賄罪)10/1

やはり、「反逆罪」が1番人気である。

なお、これ以外にも「トランプスペシャル」のメニューは充実していて、たとえば「セックステープがオンラインで公開される」は14/1となっている。また、「ゴルフを2017年度中にどれくらいやるか?(CBSの報道する回数)」では、51回以上と45-50回が1番人気で5/4となっている。

これらの賭けで極め付けは、トランプが“オレさま”大統領(=ナルシスト)だから、どれほどそれを発揮するかという賭けだ。題して「TRUMP NARCISSISM SPECIALS」(トランプ・ナルシズム特別)。その項目とオッズは次のとおりである。

海軍の艦船に自分の名前を付ける:9/1

米軍基地に自分の名前を付ける:12/1

ラッシュモア山に自分の顔を刻ませる:100/1

任期中に米国の硬貨に自分の肖像を描かせる:100/1

→「トランプスペシャル」(Trump Special)

http://www.paddypower.com/bet/politics/other-politics/donald-trump

最後に、トランプの賭けをやっているのはこの「パディー・パワー」だけではない。大手の「ウイリアムヒル」(William Hill)、「ラドブルックス」(Ladbrokes)、「スカイベット」(Sky Bet)、「ベットヴィクター」(BetVictor)など、ほぼどこでもやっている。興味のある方は、ぜひ、のぞいて見てほしい。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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