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「森友学園ドラマ」の真犯人は「忖度」で本当にいいのか?

山田順作家、ジャーナリスト
国会で証人喚問を受ける籠池氏(写真:つのだよしお/アフロ)

このところ、ずっと「森友学園ドラマ」をウオッチングしてきたが、「忖度」という言葉が登場したのには本当に驚いた。 

先の国会の証人喚問で、籠池泰典理事長はじつにいろいろな言い方で、今回の認可の経緯を説明した。「神風が吹いた」「大きな力が働いた」「はしごをかけてもらった」「口利きがあったと思います」などである。

そして、飛び出したのが、「忖度」だ。

そのくだりは、国有地の売買をめぐり、安倍晋三首相の口利きがあったかを問われた時で、籠池理事長はこう答えたのである。

「口利きはしていない。忖度をしたということでしょう」

さらに、現在、自分に逆風が吹いていることに対しても「今度は逆の忖度をしているということでしょう」と言い、忖度をした具体名を挙げるよう求められると、「財務省の官僚の方々でしょう」と言ったのである。

忖度とは、辞書的に言うと「他人の心を推し測ること」となり、「相手の真意を忖度する」というような使い方をする。すると、今回の問題は、役人たちが安倍首相の心を推し測った結果、こうなったということになる。

つまり、真犯人は「忖度」ということになる。

この2週間、「森友学園ドラマ」に大きな貢献をして、私たちに「忖度」を知らしめてくれたのは、菅野完氏と「週刊新潮」である。菅野氏がすべての保守勢力から見捨てられた籠池ファミリーを動かさなかったら、こうはいかなかった。これは、どんな既成メディアの記者にもできなかったことだ。

また、「週刊新潮」は、昭恵夫人がじつは「私人」ではないこと、しかも夫とともに大きな影響力を持っていることを浮き彫りにする記事を掲載した。

先々週は、「第2の森友学園問題」とされる「加計学園」の獣医学部新設の認可や、安倍首相の遠戚・斎木陽平氏が代表を務める団体が主催する「全国高校生未来会議」への支援について、昭恵夫人から文科省へ要請があったことを明らかにした。

また、先週は、なんとタイトルが「死ねばモリトモ」で、NGOの「日本国際民間協力会」理事の松井三郎・京都大学名誉教授が、昭恵夫人の仲介で外務省から8000万円の資金を調達したと講演で述べていたことを書いている。

これらのことは、籠池理事長が言った「忖度をしたということでしょう」であり、どう読んでも同義だと思われる。

籠池理事長は、国会での証人喚問の後、日本外国人特派員協会(FCCJ)で記者会見を行った。このときも、「忖度」という言葉が出て、これを通訳者はうまく訳せなかった。 

そのため、出席した記者たちに次のような説明があった。

《「忖度」という言葉が英語通訳で少々混乱を招いているようです。何通りかの言い方がありますが、「conjecture(推測)」「surmise(推測する)」「reading between the lines(行間を読む)」「reading what someone is implying(誰かが暗示していることを汲み取る)」などがそれに当たります。英語で「忖度」を直接言い換える言葉はありません。念のため申し上げました。》

このことをもっと詳しく知りたければ、「ハフィントンポスト」の記事《【森友学園】「忖度」は英語でどう通訳された? 籠池氏会見で外国人記者に》を読んでほしい。 

http://www.huffingtonpost.jp/2017/03/23/moritomo-sontaku-in-english_n_15572790.html

会見後に出た「NYタイムズ」の記事では、「忖度」は“powers at work behind the scenes”(舞台裏の力)のように噛み砕かれて書かれていた。

しかし、「忖度」の本当の意味は、上記のいずれでもないと、私は思う。一般的に「忖度」は、上記した辞書的な意味で解釈され、たとえば上司の顔色、意向を伺う、その場の空気を読んで物事を進めるというように思われている。

しかし、そんなバカなことがあるわけがない。なぜなら、もし役人が上司の意向、空気を読み違えたらどうなるのかを想像してみてほしい。そうなったら、そんな組織は崩壊してしまうだろう。

つまり、忖度というのは、日本の役人の場合、「言葉にはなっていないが確実に下された命令」に従うことを指すはずである。つまり、「unspoken order」(暗黙の命令)は確実に存在するのだ。忖度で役人の世界が成り立っているなんて、それは体のいいフィクションに過ぎない。

というわけで、「森友学園ドラマ」の真犯人は、結局「忖度」には違いないが、そうさせる「力」「命令」は確実に存在している。メールがどうの、ファックスがどうのと言っても、そこには「忖度」は残っていない。

都合が悪くなれば嘘をつく、そうした人間の心に確実に刻まれて残っている。

「森友学園ドラマ」の結末は見えない。ただ、もう学園ドラマでは済まなくなった。政権が飛ぶ可能性もありえなくはない「国会ドラマ」になった。。なぜなら、「100万円寄付」に関しては事実は一つであり、どちらかが嘘をついているからだ。これを「水掛け論」と言っている方々がいるが、間違っている。

水掛け論は議論がどまでも平行線になることであって、事実認定の話ではない。事実は一つしかないのだから、この問題は解決する。早く、どちらが嘘つきなのか解明してほしい。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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