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属国を完成させ、トランプと運命をともにするしかなくなった日米首脳会談の哀しさ

山田順作家、ジャーナリスト
握手19秒間がっちり(写真:ロイター/アフロ)

「個人的関係に関しては120点、安全保障に関しては100点満点、経済に関しては90点。大成功だった」というのが、今回の日米首脳会談の大方の評価だ。

ほぼ全メディア、識者、コメンテーターがそう言っている。固い握手、ハグ、別荘招待、ゴルフ27ホール、ランチとディナーで食事5回、北朝鮮のミサイル発射でトランプ大統領も同席記者会見と、表面的にはまさに言うところなしの出来であり、気持ち悪いくらいのもてなしぶりだったからだ。

しかし、これで日本は本当に安心していいのだろうか?

まず、個人的関係だが、安倍首相はどう見てもトランプの弟分として認知され、大歓待されたようにしか見えなかった。「タイム」誌(電子版)が「日本の首相はトランプの心をつかむ方法を教えてくれた。へつらうことだ」と言ったが、こちらの見方の方が正鵠を射ているように思える。

しかし、弟分となったのは事実だ。安倍首相はじつにうまく振舞った。ならば、今後、それなりの温情ある処遇を受けるだろうから、120点は120点で問題ないと思う。

次に安全保障だが、尖閣が日米安保の範囲内というのは、これまでと変わりない。ただ、今回トランプは「通常戦力」に「核」まで加えて日本を守ると言い、さらに、「米軍駐留を感謝する」とまで言った。過去、ここまで言った大統領はいない。

となれば、回答としては100点ではなく、120点ではなかろうか。

3番目の経済の90点もおかしい。日本側は貿易摩擦や為替を持ち出されたらまずいと思っていたが、それが表向きは出なかった。これだけで100点である。

ということは、「異次元緩和」を続けられる、円安を維持していけるということだから、短期的に見れば90点ではなく120点だろう。 

というわけで、水面下でなにがあったかはわからないが、報道を見る限りにおいては、今回の日米首脳会談は大成功ではすまない、とんでもない大成功である。

ただし、ある点においては、哀しいまでの大失敗だ。

それは、これで日本は完全にアメリカの属国としてのポジションを完成させてしまったことである。安倍首相と日本国民が悲願とする「独立国家」への道が遠ざかった。だから「哀しい」のだ。そして、この“オレさまファースト”大統領と、今後、運命をともにせざるをえなくなったということも哀しい。アメリカという「自由と平等」の共和国とではない、トランプとだからだ。

日米首脳会談前の1週間で、トランプは「ドット・フランク法」の見直しを求める大統領令に署名した。中国の習近平に電話をかけ、「一つの中国を尊重する」と言った。さらに、「(2、3週間以内に)税に関する驚くべき発表」をすると言い、公約である大幅な法人減税策の実施を表明した。また、例の入国禁止令を一時差し止めた連邦地裁の判断に怒りを露わにした。

この大統領は、本当に物事を考えてやっているのだろうか?

公式な日米首脳会談はたった40分。記者会見ではイヤホンを付けず、終わるとすぐに「さあフロリダに行こう」だった。これでは、この大統領は初めから会談などどうでもよかったとしか思えない。週末にゴルフをしたかっただけではないのか。

2月9日の日経も記事にしたが、「ハフィントンポスト」は、複数の関係者の話として、トランプが夜中にマイケル・フリン大統領補佐官に電話して、こう言ったということを伝えた。

「強いドルと弱いドル、米国経済にはどっちがいいんだっけ?」

これが本当なら、この大統領はなにもわかっていないということになる。しかも、かける電話の相手も間違えている。フリン大統領補佐官は元軍人で安全保障担当だ。トランプがフリンをもっとも信頼しているということなのか?

いずれにせよ、この政権の閣僚はまだ半分も承認されていない。かつてトランプに「ポカホンタス」とバカにされたエリザベス・ウォーレン民主党上院議員はほかの議員たちとともに、人事をめぐって激しく抵抗している。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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