トランプのあまりにイージーな交渉術「BATNA」に、安倍首相は妥協してはいけない!
2月10日に行われる日米首脳会談をめぐって、議論が沸騰している。「アメリカ・ファースト=トランプ・ファースト」の“オレさま”大統領を、なんとか説得して、日本の立場をわからせるべきだと、多くのメディア、識者が主張している。はたしてそうだろうか?
大方の予想によると、トランプは、自動車産業を中心とする貿易、為替操作(異次元緩和)、同盟維持のための米軍駐留経費負担の3つで、日本側に譲歩を強いてくるという。
これまでのトランプの日本批判を聞いていると、ほとんどが的外れだが、向こうはなにしろ“正統な”アメリカ大統領。日本としては、なんとか彼の要求を交わす必要がある。安倍晋三首相も、同行の麻生太郎財務相も必死に努力するだろう。
しかし、結論から言うと、まともに相手をしてほしくない。そんなことをすれば、いいようにされるだけだろう。なぜなら、この“オレさま”大統領には、なにを言っても無駄だからだ。「彼は人の話をよく聞く」という証言があるが、それは「聞いているだけ」のことで、聞いた話を参考にしたことはほとんどないという、まさに、史上最強の大統領だ。
トランプは、Uペンのウォートンスクールを出ているという。しかし、同級生らの証言では、真面目に勉強していた形跡はない。事業家の息子として、ここのMBAをトロフィーとして取りに行っただけという。
よって、アメリカの歴史も、資本主義も知らない。まして、グローバル経済や21世紀のデジタルエコノミーを理解していない。理解しているのは、ツイッターが有効な武器だということだけだ。
トランプはこの時代に「万里の長城」をつくるという。有言実行男だから、「壁」はできるだろう。となると、アメリカは2200年も時代を逆行する。メキシコは、「匈奴」なのか?
なぜ、トランプはTPPを離脱し、NAFTAもTTIPも見直すのか? それは、1度にたくさんのことを考えられないからだろう。多国間交渉より、2国間交渉の方が簡単だからだ。
トランプは中国製品に45%の関税をかけると息巻いている。しかし、その関税はアメリカ国民が負担するのだ。
政治もビジネス、ディール(取引)だと考えているトランプの交渉術は、じつはあまりにシンプルだ。ビジネススクールで教えている「BATNA」交渉術だ。
BATNAとは、「Best Alternative to a Negotiated Agreement」のこと。「不調時対策案」と訳しているようだ。要するに、交渉が不調に終わっても、最低限の妥協できる代替案を決めておくことだ。
この交渉術では、相手にまず、ふっかける。ふっかければふっかけるほどいい。そうすると、その条件、とくに数字なら、その数字が相手の頭の中にこびりつく。これは、一種の印象操作で、これを「アンカリング」(Anchoring)あるいは「アンカリング効果」と呼んでいる。そうすると、相手はそこから譲歩を引き出そうとする。
このとき、「RV」(Reservation Value:留保価値)と言って、「BATNA」を行使した際に得られる価値を決めておく。たとえば、1万円ふっかけてもRVが5000円なら、相手が妥協して5000円で決着すれば、それで交渉は成功だ。
私は、ビジネススクールで学んだことがないが、ビジネススクールを何校か取材したことがある。この「BATNA」はどこのビジネススクールでも教えている。トランプでも簡単に理解できる。しかし、大統領が本当にこれをやるか?
トランプは本当に偉大な大統領である。なぜなら、いまだにトランプの「RV」がどこにあるのかわからない。中国は関税20%で妥協すればいいのか? メキシコ国境の壁は高さ何メートルならいいのか? 日本は米軍駐留経費をいくら払えばいいのか?
これでは世界は混乱するだけだ。いい加減にしろ、トランプ!