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惨敗必至!トランプが当選できないこれだけの理由

山田順作家、ジャーナリスト
まったく盛り上がっていないNYトランプタワーの前の光景(撮影/筆者)

トランプが猛追し、ヒラリーに1ポイント差まで迫ったとメディアが騒いでいる。FBIがヒラリーの私用メール問題の捜査再開を発表したためという。

しかし、トランプの当選は100パーセントない。アメリカ大統領選挙史上、記録的大敗を喫するのではないかと思う。10州も取れればいいほうだろう。今年の初め、“毒舌大旋風”を巻き起こしたときは、「あるかもしれない」と思えたが、本当に共和党の指名を得た時点で終わった。

当初、トランプは毒舌を計算してやっている。大統領候補の指名を得るための「戦術」で、ウケ狙いであんな発言を繰り返しているのではと思った。

しかし、完全に騙された。同じ発言を1年も繰り返しているのだ。進歩ゼロ。トランプは、やはり単なる「ユーアーファイアー男」で、教養ゼロ、差別丸出しの“クイーンズおやじ”に過ぎなかった。これでは、UペンのウォートンMBAが泣く。

それにしてもなぜ、トランプが大統領候補になれたのだろうか? それは多分、偶然だ。トランプ支持層のほとんどが低学歴、低所得の白人ブルーカラーであるとはっきりしている。彼らは、結局なにもチェンジしなかったオバマの8年間にうんざりし、自分たちが時代に取り残されてしまったことを感じていた。

そこに、大金持ちのくせに、なんか自分たちにしてくれそうな男が出てきた。しかも、テレビでよく知っている顔だということで、すっかり騙されてしまったと言うほかない。

トランプが本気で彼らのことを考えているわけがない。トランプは、金ピカのトランプタワーやインターナショナルホテルを建てたりして、富裕層相手に儲けてきた男だ。

トランプと同じクイーンズの例えばジャマイカで育った黒人のブルーカラーが、彼に投票するだろうか? 第一、有権者登録すらしていないだろう。

クイーンズから地下鉄Fでマンハッタンに行き、コロンバスサークルのトランプインターナショナルホテルの三つ星レストラン「ジャンジョルジュ」に入れば、いかにもリベラル、民主党に投票しますというアッパーイーストの金持ちがランチを楽しんでいる。テイスティングコースで150ドルはするランチに、NY産の白ワインをたしなみ、「トランプはやはりダメだったな」と、“したり顔”で話している。

共和党幹部のほとんどが彼を支持しなかった。トランプは指名を得たが、共和党のカネと組織は得られなかった。その点、ヒラリーは民主党のカネと組織のすべてを持っていった。

黒人やラティーノのなどのマイノリティのほとんどが、トランプを嫌っている。昨年、ロサンゼルスに遊説にやってきたトランプは、ラティーノたちの「お前なんか帰れ!」の大コールにあって、タジタジとしていた。

女性もほとんどがトランプを嫌っている。テレビ討論会のファイナルでの「ナスティ・ウーマン」という呟きは、致命傷である。リベラルすぎてウオール街から嫌われているエリザベス・ウォーレンに、「11月8日にはナスティ・ウーマンが揃ってあなたを永遠に追放するために投票に行く」と言われてしまった。

というわけで、トランプが当選できない理由を挙げていくと、いくらでもある。これ以上、書いても仕方がないくらいある。そこで最後に、アメリカの大統領選挙が、トランプ支持の低所得者層には圧倒的に不利にできていることを挙げておきたい。それは、投票日がチューズデイ(火曜日)と決まっていることだ。

信じがたいが、車も飛行機もない昔、投票に何日もかかった時にできた制度をそのまま使っている。火曜日なんかに投票に行ける、一般ピープルがどれほどいるだろうか?とくに、時給で働いている低所得者層は仕事があって行けっこない。

これまでの大統領選で、低所得者層の支持で当選した大統領は一人もいない。ましてトランプは、ナンチャッテ低所得者層支持候補で、本質は金持ち意識プンプン、上から目線オヤジである。

2014年の中間選挙では、低所得者層の80%は投票しなかったという。また、オバマ大統領が再選された2012年の大統領選挙でも、実際に投票した有権者の割合は、年収2万ドル以下が48%、7万5000ドル以上が78%となっている。

だから、社会主義者のサンダースは、このことを「民主主義ではない」と訴えた。

つまり、世論調査(ポール)でどんな結果が出ようと、実際の投票行為には影響しない。ポールはあくまで、候補者に対する見方にすぎず、その通りに投票に行くかどうかとは関係がないのだ。実際、有権者登録した人間のうちの10人に6人しか大統領選には投票しないというデータがある。トランプ自身もすでに、負けることはわかっている。10月21日、ペンシルベニアでの集会で「世界にショックを与えるだろう。ブレグジット以上(の驚き)になるはずだ」と自身の勝利をぶち上げた。要するに、ブレグジットのような逆転劇がなければ勝てないということだ。

スーパーパックがあるように、アメリカ大統領選挙は、金権選挙である。一般の熱狂がどうであれ、ロビーイング団体の組織票が左右する。つまり、いちばんカネを集めてそれをバラまいた候補者が勝つ。これを識者というインテリの方々は嫌うが、これでいいのではないかと思う。主義主張で争われる選挙のほうが、よほど醜悪だ。

11月8日、私たちはそのことをまざまざと見ることになるだろう。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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