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中国に先に手を出させて「尖閣諸島」を死守せよ!

山田順作家、ジャーナリスト
杭州G20会議(写真:ロイター/アフロ)

■杭州G20での日中首脳会談の中身は「?」

9月5日、杭州で開かれたG20が終わった。ひと言で言って、日本にとってはなんの成果もなかったのではないか。経済問題を除けば、最大の課題である「尖閣諸島問題」に関しては、なに一つ得るものがなかったのではなかろうか。

安倍首相は、G20後の日中首脳会談で、「立場を率直に明確に伝えた」というが、それで中国側になにか変化があったのだろうか?

記者会見で安倍首相は、「短い時間だったが中身は濃かった」という趣旨のことを述べた。これは、習近平主席が「ともに東シナ海の平和と安定を守るべきだ」と述べたことを指すのだろうか。

中国の態度がこれまでの強硬路線から、柔軟路線に変わったという見方がある。9月5日夜のNHK「時論公論」では、中国が微笑み外交に転じたとして、「それが本物かどうか見守っていく必要がある」としていた。

北戴河会議で、習近平主席の強硬路線が、長老たちの不評を買ったというのだ。

■欧米列強に植民地かされて「法」を信じなくなった

中国は、状況次第で変わる国である。ただ、その根本は変わらない。「法」よりも「ロジック・オブ・イベンツ」(現実の論理)を信じている。この「現実の論理」というのは、19世紀の欧米列強の帝国主義の論理だ。上辺では「法」が優先するが、最終的には「力」がものごとを決するという論理だ。

この論理により、中国は欧米列強によって植民地にされたのだから、これはとことん骨身に沁みている。見方によっては悲しいことだが、歴史的事実である以上、どうすることもできない。

中国人は欧米から不平等条約を押し付けられ、さらにその法を勝手に破られて日本以上にひどい目にあってきた。だから、法を信じるわけがない。フィリピンが提訴した南シナ海をめぐる領有権問題での国際仲裁裁判所の判断に、即座に「認めない」と表明したことで、これは明らかだ。

中国は、「判断は無効でなんの拘束力もない」と言い放ったのである。

■親中派とされたドゥテルテ大統領が切れた

この中国の姿勢に、当初は対話を模索したフィリピンのドゥテルテ大統領は、切れてしまった。メディアは彼を「親中派」としてきたが、本当は愛国者で、選挙中には、「(中国が新たに人工島を築けば)私はジェットスキーに乗って上陸し、フィリピン国旗を立て『ここは俺たちのものだ』と宣言する」とまで言っていたのである。

ドゥテルテ大統領が切れたのは、中国の王毅外相が、話し合いに応じる条件として「仲裁裁判所の裁定を無視する」ことを前提条件としたからだ。これを飲んだら、仲裁裁判所の判断をフィリピンも受け入れないことになる。裁判に訴えたこと自体が意味になってしまうのだから、受け入れるわけがない。

8月24日の【AFP=時事】は、次のような記事を配信している。

《フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は24日、南シナ海の領有権争いで解決がみられなければ、いずれ中国と「落とし前」をつける時が来るだろうと警告した。》

《ドゥテルテ大統領は軍基地で兵士たちを前に演説し、「今は、判決についてわめき散らすことはしない。だがいずれ、このことについてわれわれが何らかの落とし前をつけなければならない時が来るだろう」と語った。》

■今度はスカボロー礁まで奪いにきた中国

それにしても中国は、やり過ぎである。南沙諸島で奪った7つの島を軍事要塞化し、事実上の「領土」にしたうえ、さらにスカボロー礁まで奪いにきたのだ。

G20の初日に、フィリピンのロレンザーナ国防相は、スカボロー礁で、中国海警局の公船4隻や埋め立て用とみられる作業船、軍の輸送艦など計10隻を確認したと発表し、重大な懸念を表明した。重大な懸念というが、これはフィリピンのSOSだ。

こうしたことを見れば、中国が柔軟路線に転じたなどということは信用できない。一時的な態度変更で、様子見だろう。そう考えると、日本はフィリピンの経験から教訓を引き出さなければならない。

■中国の挑発に海上保安庁はもうヘトヘト

現在、尖閣諸島の接続水域には中国公船が3〜4隻、常駐しているという。それを海上保安庁の監視船が常時監視している。にらみ合いが続いている。

しかし、中国公船が増えたら、海上保安庁はその分、監視船を増派して監視を続けるしかない。この監視船は日本各地から派遣される。つまり、もう海上保安庁はヘトヘトで、いつ音を上げるかわからない状況に追い込まれているのだ。

中国公船は膨大な数が存在する。しかも、尖閣諸島領域は中国沿岸部からのほうが、日本本土からより近い。さらに、この先、中国は海軍艦船を投入してくる可能性がある。そうなったら、こちらも海上自衛隊(海軍)の艦船を出さなければならない。かぎりない消耗戦が続くことになる。

それで、私は前回のこの欄で、こうなったら海上自衛隊に「海上警備行動」を発令し、武器使用を認めよと書いた。使用するかどうかは別として、「使用するぞ」という姿勢を見せつけなければならない。政府はすでにこの方針に転じている。今年の1月12日、菅義偉官房長官は記者会見で、領海に中国軍艦が侵入した場合、海上警備行動を発令して自衛隊の艦船を派遣する可能性があるとの認識を示した。そのうえで、この方針を中国側に伝えたことも示唆した。しかし、それではまだ甘い。本当に力を行使することを試すべきだろう。

■はたしてアメリカは日本を守ってくれるのか?

ここで、問題になるのが、アメリカが本当に日本を守ってくれるのか?という懸念である。オバマ大統領が「尖閣諸島は日米安保の範囲」(日米安全保障条約5条の適用範囲)と言ったので、大丈夫だという見方がある。しかし、いくら日米同盟が強固とはいえ、たかが大きな岩にすぎない島のために、軍事力を使ってまで日本を守るだろうか?

2015年に改定された「日米防衛協力のための指針」(日米ガイドライン)には、このことに関して明確な記述がない。

《米軍は、自衛隊の作戦を支援し及び補完するための作戦を実施する》と言っているだけだ。

つまり、尖閣でなにかあれば、まず自衛隊が独力で対処する。もし、中国に奪われたら独力で奪回する。それをアメリカ軍がサポートすると言っているにすぎない。したがって、現在のスカボロー礁と同じ事態に突入した場合、日本は独自に対処するしかない。

その覚悟が日本政府に本当にあるのだろうか?

■中国を挑発して先に手を出させてはどうか?

そこで思うのが、こうなったら、中国に先に手を出させる必要がある。こちらからの先制は絶対にできないのだから、日本側からもそれとなく、巧妙に挑発して、中国側に先に手を出さざるをえない状況をつくってしまうのだ。

中国の強気の姿勢を逆手にとって、罠にはめるべきだろう。

これはチキンゲームだが、そこまでやらないと、いずれ中国はもう一段レベルを上げてくる。そのとき、日本が自衛のためと反撃すれば、アメリカが守ってくれるかはっきりするが、いまの状況ではわからない。だから、トラップを仕掛けるしかない。リスキーと言っても、ここまで考えなければ、尖閣防衛などできっこない。

オバマ大統領は、9月4日放映のCNNテレビのインタビューで、「中国がフィリピンやベトナムよりも大きい国だからといって、力の誇示が許されるわけではない」と述べた。中国の国際法違反が「重大な結果を招く」と中国側に忠告していることを明らかにした。しかし、この大統領は理想ばかり唱え、口先だけでなにもやらないので、信用できない。

尖閣を日本独自で守れないとしたら、日中関係はもとより日米同盟も崩壊する。このまま、中国経済が低迷するか、あるいは習近平政権が倒れるのを待つという戦略もあるが、それははてしない消耗戦で、日本にとっては不利だろう。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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