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解散総選挙で露呈した「日本は大不況に突入している」という事実

山田順作家、ジャーナリスト

■いまの状況を整理すると行き着くのは……

「今回の総選挙には大義がない」「いや大義がある」「いったいなにが争点なのか?」「消費増税先送りは国民に信を問う立派な争点だ」「なんでいまなのか?」「いまやれば自民党が勝てるから」「アベノミクスの失敗隠しでは?」「そうではない、アベノミクス自体はうまくいっている」などと、今回の解散総選挙をめぐって、メディアから一般国民まで意見が割れて、わけがわからなくなっている。

そこで、いったいなぜこうなったのか? を、きちんと整理しておきたい。まず、政局的な話は除いてみる。すると、今回の解散総選挙は、たった一つの原因でこうなったことがわかる。

それは、日本が「大不況」に突入したということだ。景気があまりに悪い。たったこれだけだけである。大義があるかないか、争点があるかないかなど、どうでもいいのだ。

■この4月から日本は大不況に突入した

これは、もしいま景気がよく、消費増税ができる環境なら、解散総選挙などあるはずがなかったと考えれば、誰もが納得がいく話だろう。たとえば、消費増税の根拠にするとしてきた7-9月のGDP成長率が4〜5%あれば、何事も起こらなかったはずだ。安倍政権は、スケジュールどおりに消費税の再増税を決めただろう。

しかし実際は、10月半ばの段階で、GDP成長率が「どうやら相当悪い」ということがはっきりしてきた。永田町関係者の話では、政府は当初「悪くても3%以上はある」と考えていたという。しかし、「2%あるかないか」とわかり、真っ青になったのだという。

消費税8%実施後の4-7月期は、反動減で当然落ち込む。しかし、その後は回復する。そう予想してきた。しかし、この予想は見事に外れて、まさかの2%ほどである。これでは回復とはとても呼べない。4-7月期が−7.1%なのだから、2%台では、まだ落ち込み続けていることになるからだ。

■いまだにアベノミクスは成功と言い続ける政府

しかも、この落ち込みはいつまで続くかわからない。私が肌で感じるのは、「次の10-12月期は円安による物価高が響いてマイナス成長なる」ということだ。それほど、街角景気はひどい。

モノも売れていなければ、店にも客はいない。とくに、飲食店はひどく、たとえばワタミは2015年3月までに102店の閉鎖を決めた。住宅もマンションも売れていない。自動車も軽以外は、毎月、前年同月比割れが続き在庫が積み上がっている。

メディアと政治家、多くのエコノミストは、机上で数字しか見ていないが、その数字を冷静に見ても景気は悪い。ただ、ずばり、そう書くメディアは少ない。

安倍首相もG20で訪問中のオーストラリアで、いまだに「経済の好循環が生まれ、デフレ脱却に向けて着実に前進した」と述べ、アベノミクスの成果を強調している。首相が不況を認めてしまえば、アベノミクスは終わってしまうので、口が裂けてもそうは言えまい。

ただ、それなら、どうして消費税再増税を見送ってまで解散するのだろうか?

菅官房長官は、11月13日、閣議のあとの記者会見で、野党側から「衆議院の解散を前提に消費税率の引き上げを先送りすることはアベノミクスの失敗だ」という批判が出ていることについて、「批判は当たらない」と言い切った。そして、デフレ脱却と財政再建の両方をきちんとやっていく、「まさに『二兎(にと)を追う政権』だ」と強調した。

しかし、実際は一兎も追えていないのではないか?

■株価がいくら上がっても景気はよくならない

黒田バズーカ砲が利いて、株価は上昇し、円安は大きく進んだ。しかし、この株価は景気を反映したものではない。買っているのは、ETFの購入を増額させた日銀と資金を株に振り分けたGPIFだけだ。

しかも、株価はドルベースで見れば上がっていない。今年1月の日経平均の終値は1万4914円だった。このとき円は1ドル103円だった。そこで株価をドルベースにすると、約145ドルである。

では、11月14日の終値1万7490円をドルベースで見るとどうか? この日、円は116円をつけたから、約150ドルである。今年初めからたった5ドルしか上がっていないのだ。つまり、「株価が上がって好景気」というのはウソである。

■政府が市場に介入すれするほど景気は悪化

景気回復は、経済が自律的に成長しない限り本物にならない。アベノミクスのような金融・財政政策は単なる刺激策にすぎない。しかも、この刺激策は実需のないところに、大量にマネーを流し込むだけだから、副作用も大きい。

というより、ずばり書いてしまえば、中央銀行による財政ファイナンスである。人為的にインフレを起こして、政府債務を踏み倒すという政策だ。そのツケは当然だが、国民が負担する。

資本主義自由経済は、政府が金融・財政政策でコントロールできるものではない。政府が市場に介入すれするほど、自由度がなくなり、民間の活力が失われる。

ところが、経済は政府の力でなんとかできると思い上がった人々により、現在、日本経済はどんどん悪い方向に向かっている。

これは、中国や韓国でも同じだ。日本の不況もひどいが、中国も韓国もひどい。中国はリーマンショック時に4兆元もつぎ込んだツケが回ってきている。実需がなく景気が悪いときは、国民に痛みがあっても財政を縮小し、経費を削減して耐えなければならない。ドイツはこれがわかっているから、どんなに金融緩和・財政出動をやれと外から言われても、メルケル首相は拒否し続けてきた。

アメリカは基軸通貨を握る覇権国だから、QEをやるだけやって、シェールガス革命やITイノベーション、製造業の国内回帰などで経済が自律的に回復してきたので、一抜けたとQEを止めてしまった。

■アメリカ一人勝ち、日中韓の東アジアは大不況

現在、日経平均2万円になるという声も起こっている。しかし、これは投資家のババ抜きゲームがどこまで続くかという話で、株式投資をしている人間が5%という国の一般国民にはほとんど関係ない話だ。

また、たとえ株価が2万円になったとしても、円が1ドル130円になれば、前記した理由で、まったく無意味だ。しかも、円安で物価はさらに上がり、私たちの暮らしは苦しくなる。

消費増税を先送りするのだから、今後は徹底して構造改革をやらなければ、日本経済は自律的に回復しない。総選挙をやってもなにも変わらない。だから、いまのままだと、2015年はさらに景気は落ち込む。

世界経済は、アメリカだけが持ち直して成長を続け、これに東南アジアなどの新興国が続く。日本を含めて中国と韓国の東アジアは大不況ということになる。

不況に陥った日中韓ではますますナショナリズムが高まり、対立が深刻化するという、最悪の状況が待っているかもしれない。

■このまま行くと日本のバーゲンセールが始まる

このような状況で私たち庶民ができることは、限られている。日本の民間経済の底力を信じて、景気回復まで生活を切りつめてじっと耐える。その間、政府にこれ以上無駄な金融・財政政策をやらないようにさせる。つまり、政府に徹底的に財政削減させる。これくらいのことしか、思い浮かばない。

とはいえ、おそらくいまの与野党では、それは無理だろう。

となると、今後来る通貨価値の下落による「円安」と「インフレ」を回避するためには、円を離してしまうしかない。円資産は全部、ドル建ての実物資産かドルに換えてしまうことだ。

今後、大部分の日本の資産(株や土地から金融資産)は目減りする。地方はますます疲弊する。行く着くところまで行くと、残念だが、日本のバーゲンセールが始まる。

そうなったとき、海外に逃がして保全された資産で、これを買い戻せばいい。

アベノミクスが始まったときから、資産家はこのような回避行動を起こしている。また、先を見るのに敏感な若者や起業家たちは、仕方ないと諦めて、国外にどんどん出ていっている。

この世界には、日本とは真逆な、人口が増え、経済が成長していく若い国家、自由な資本主義を続けている先進国はいくらでもある。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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