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日本の書店はいつどのようにして街から消えていくのか?

山田順作家、ジャーナリスト
B&Nパサディナ店の窓に貼り出された閉店のお知らせ

■アメリカでは「バーンズ&ノーブル」も次々に閉店

なにも知らないで年明けにオールドパサデナの「バーンズ&ノーブル」(B&N)に行ったら、店のウインドウに閉店の貼り紙が出ていた。そして、その貼り紙には「過去20年以上にわたる支援、ありがとうございます」と書かれていた。聞くと、去年の大晦日で閉店したという。貼り紙には「グレンデール店に行ってほしい」とあったが、隣町のグレンデール(韓国の慰安婦像が建てられた街)までわざわざ本を買いにいく客はどれほどいるだろうか?

もともと街に書店があまりないアメリカでは、2大大型書店チェーンの「ボーダーズ」が潰れてからは、本屋といえばB&Nに行くほかなかった。しかし、そのB&Nでさえ、どんどん店を閉めている。年末の『Digital Book World』の2014年予想記事では、B&Nは電子書籍端末「Nook」を断念するだろうとされていた。 

リアル店舗での売上が落ちるなか、「Nook」はアマゾンの「Kindle」に次ぐ第2位のシェアを占め、B&Nの凋落を食い止めてきた。しかし去年大きく失速し、B&Nはついに粉飾決算容疑でFTCの調査まで受ける身となった。これでは、B&Nは事業を縮小する以外に選択肢はないというのである。

■それでも電子にしがみつきリアル店舗を縮小

結局、「Nook」が「Kindle」に次ぐ25%のシェアを獲得できたのは、大手出版社がエージェンシーモデルで価格を統一したためだった。だからそれが崩れたら一気に失速してしまった。こうなると、四半期ごとに5000万ドル以上の赤字を出している以上、B&Nはリアル店舗も閉めていくしかない。

しかし、B&Nは1月8日に、マイケル・ヒューズビー社長(59)を最高経営責任者(CEO)に指名したことを明らかにした。ヒューズビー氏は「Nook」事業の責任者で、元々はケーブルテレビ(CATV)事業からの転入者。つまり、B&Nは、なんとしてでも電子書籍事業を立て直そうとしているようだ。

パサデナ店の閉店を知った後に見つけた、『パサデナスターニュース・コム』(12月27日)の記事によると、今後10年でB&Nは3分の1のリアル店舗を閉めるという。ロサンゼルス近辺では,オールドパサデナ以外でも、ステューディオシティ、バーバンクなどの店を閉めるという。現在、B&Nは全米で689のリアル店舗を運営しているが、「今後10年間で450〜500に減らす」というB&N副社長のデビッド・ディアソン氏のコメントが載っていた。

■大手書店が凋落するなか独立系書店が息を吹き返す

かつてボーダーズが「全店閉店」を発表したとき、「アメリカにおいて書店は必要がなくなった」と書いたメディアがあった。つまり、紙の本はなくなり、電子書籍オンリーの時代が来るという予測が主流になった。

しかし、電子書籍市場はどうやら昨年で頭打ちになり、紙の書籍のシェアを奪うという予測は通用しなくなった。両者はそれぞれ違うものとして成立するという考えが、いまでは主流になっている。

そのせいか、アメリカでは大型書店チェーンが凋落したものの、その隙間を埋めるように独立系のリアル書店が息を吹き返している。

ABA(American Booksellers Association:全米書店協会)のレポートによると、独立系の書店数はここ数年増えており、2012年の独立系書店の売上は対前年比で8%伸びている。ABAの会員数も1995年の5500から2002年には2191と半減したものの、2005年には底を打ち、その後はじょじょにだが増えているという。

■独立系書店を殺したのはアマゾンではなく大型書店チェーン

ただし、ABAでは、2011年からは古書店も会員に受け入れるようになったので、この数字がホンモノかどうかは疑わしい。しかし、次のようなことは言えるだろう。

たしかに、アマゾン(電子書店)がリアル書店を潰してきた。しかし、それはボーダーズやB&Nなどの大型書店チェーン店であって、独立系の小さな書店ではなかった。なぜなら、「Kindle」が登場したのは2007年であり、それ以前から独立系書店は減っていたからだ。1995年から2002年にかけて書店数がどんどん減っていた時期に、「Kindle」はなかった。つまり、独立系書店を殺したのはアマゾンではなく、じつはこの時期に拡大を続けていた大型書店チェーンであり、その後、「kindle」が登場して、今度は大型書店チェーンがアマゾンに顧客を奪われることになったのである。

だから、最近、アマゾンとは競合しない独立系書店が息を吹き返したというわけだ。

独立系書店では、品揃えを専門特化したり、近隣コミュティと連携したりして独自性を打ち出している。また、キャンドルやカードなどの雑貨や文具、玩具やアクセサリーなども扱い、さらにカフェを併設したりしている。最近では、POD(プリント・オン・デマンド)ブックの販売も行っている。

こうしたリアルでの独自サービスが、オンラインに味気なさを感じているユーザーを惹き付けている。

■日本でも大型書店が街の中小書店から顧客を奪った

さて、では日本ではどうだろうか?

日本でも、ここ10数年間、書店数は減り続けている。かつて2万店以上あった書店は、2012年には1万5000店を割り込んでしまった。なんと毎年平均、約500店の書店が閉店しているのだ。

ただし、スペース(坪数)はそれほど変化していない。書店数が減少の一途をたどるなかで、1店当たりの面積は増床を続けてきたのである。つまり、街の中小書店がなくなっていくなか、ナショナルチェーンの大型書店が次々にオープンし、中小書店から顧客を奪っていたことになる。

それともう一つ、決定的な原因がある。それは、アメリカには見られない人口減という現象だ。日本の人口は、2005年からマイナスに転じ、現在毎年約20万人ずつ減っている。

ところが、最近の新聞記事は、地方の有力な中小書店の閉店の原因を「インターネットによる販売と電子書籍が普及したから」と、単純化している。これは、アメリカの例でも書いたように、一つの原因を過大に大きく見せ、本当の問題を隠してしまうことになる。

■人口減と、大型書店チェーンによるカニバリズム(共食い)

日本の出版販売額は、1997年の2兆6563億円がピークで、その後は下がり続け、昨年はとうとう1兆7000億円を下回った。これで市場は、ピーク時の5分の3程度にまで縮小したことになる。

出版科学研究所によると、2013年、国内で出版された書籍と雑誌の売上は、推定で、合わせて1兆6850億円程度。このうち、雑誌の売上減は深刻で、昨年より430億円減って8950億円前後になるとみられており、これは30年前(1984年)と同じ水準である。

このように、出版販売額が毎年大きく落ち込んでいくなか、書店の坪数が増え続けてきたことは異常である。これは、スペースが増えれば増えるほど売上が落ちたということだから、売上が大型書店チェーンに集中し、それが、地方の中小書店を駆逐していったことを表している。

よく言われるのは、地方の街の中小書店には「後継者がいない」ということ。もちろん、これも中小書店が消えていく原因だが、経営が黒字なら後継者が経営者の子どもでなくとも、引き受ける者がいるだろう。つまり、日本の街から中小書店が消えていく最大の原因は、人口減と、大型書店チェーンによるカニバリズム(共食い)なのだ。

そしていま、中小を駆逐した大型書店チェーンが、アマゾンなどによるネット通販と電子書籍の進展に顧客を奪われようとしている。

■街の中小書店の売上の3本柱は「雑誌・コミック・文庫」

日本とアメリカでは書店の品揃え、売上の構造は決定的に違う。一般的に、日本の中小書店の売上は、「雑誌・コミック・文庫」が3本柱である。とくにスペース(店の坪数)が狭くなればなるほど、雑誌の売上比率が高くなる。これに続くのがコミックだ。

しかし、アメリカの書店では、雑誌はあまり取り扱っておらず(定期購読やニューススタンドでの販売が中心)、書籍が中心だ。

したがって、日本の中小書店の場合、雑誌が売れないと致命的なことになる。この雑誌の売上を、じつはアマゾンなどネット書店、電子書籍はあまり奪っていない。ネット通販の場合は、やはり書籍が中心だからだ。この点でも、「ネット通販が中小書店を殺した」という見方は成り立たない。

しかも、アマゾンが日本に上陸したのは、2000年11月。それ以前から、日本の中小書店はどんどん減っていたのだ。

■中小を駆逐しながら生き残った大型書店の未来は?

雑誌の売上が中小書店の経営の生命線ということで言うと、コンビニの影響も大きい。ただでさえ毎年売上が落ちている雑誌が、コンビニで販売されるようになると、中小書店はますます苦しくなった。そのうえ、郊外の大型ショッピングセンターに顧客が流れ、地方都市の商店街にある中小書店はさらに苦境に陥った。こうして、街から書店が消えていった。

いまや日本の書店は、大都市にあるジュンク堂書店、紀伊國屋書店、丸善などの大型店や、郊外の大型ショッピングモールに入っているくまざわ書店などのチェーン店やTSUTAYAなどに絞られるようになった。しかし、今後は、こうした大型のチェーン店も、アメリカの例にならって消えていく可能性が強い。

ただ、日本の場合は書店で雑誌とコミックを扱っている点で、アメリカのように急速に書店がなくなることはないかもしれない。電子書籍の影響も言われているが、電子書籍市場は紙の書籍市場とは違うということが次第に明らかになってきたので、リアル書店はまだ存続していく。

■リアルという「場」を活かすのが書店の生き残る道

日本でも、アメリカの独立系書店がやっているような試みをする中小書店が出てきている。たとえば、英紙『ガーディアン』の「The world's 10 best bookshops」(世界の素晴らしい書店ベスト10)にも選ばれた京都の恵文社一乗店は、その典型だ。ここでは、ユーザーの知的好奇心を満たしてくれる独自のセレクト本が、雑貨とともに販売されている。

結局、リアル書店の生き残る道は、ネット通販とも大型チェーン店とも競合しない道だ。『週刊朝日』(2014年1月3・10日号)で、ホリエモンこと堀江貴文氏が、新刊の営業で全国各地の書店を回り、その経験からリアル書店の可能性を示唆している。

それを読みながら思ったのは、リアルとはバーチャルと違って「場」だから、それを活かすほかにないということだ。つまり、本を買うということより、そこは本を通してほかの読者と出会う場所であったり、著者の話を聞く場であったり、サインをもらう場であったり、本とそれ以外のなにかを組み合わせた体験の場であったりしなければ、人はやって来ないだろうということだ。

ただし、現在のままでは、本を供給する側の出版社の今後が不透明なので、そういうかたちが描けても、それに投資する人間は現れないだろう。その意味で、よほどの本好き以外、今後、書店経営はしないだろう。

それに今年は4月から消費税が8%に上がる。さらに、2015年10月からは10%になり、本を買うと定価の10%を国に取られることになる。

■いまはプリントメディアがデジタルに転換する過程

メディアの業界にいると、業界内のことばかり見てしまうが、いま起きていることは、デジタルのバーチャル世界がリアル世界をどう変えていくのかという「大きな動き」の一環だ。

出版で言えば、紙の本が電子に置き換わったというような話ではなく、紙というあらゆるもの、つまり紙幣から公文書までデジタル転換していくという過程ではないだろうか。その最終段階に、私たちは差しかかってきている。

その意味で言えば、書店は紙というリアル商品がなくなれば消えるしかない。つまり、今後書店があるかどうかは、すべてのプリントメディアがデジタルメディアに大転換してしまうかどうかにかかっている。

この大転換にどれほど時間がかかるかだ。

ただし、このプリントメディアのデジタル化と、電子書籍市場が「2015年に1500億円」とか「2020年に5000億円」とかいった予測とはほとんど関係がない。なぜなら、これらの数字は根拠のない絵空事だからだ。今年は、この絵空事がはっきりするので、デジタル化に向けた動きは多様化するだろう。

いずれにせよ、デジタル世界の進展は猛スピードで、バーチャルはリアル世界を大きく変えてしまう。アメリカで一時「Kindle」に次ぐ人気を誇ったB&Nの「Nook」でさえ、いまや見向きもされないのだ。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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