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「アマゾンの消費税逃れを許すな」という主張は完全に間違っている

山田順作家、ジャーナリスト

■消費税が8%になれば圧倒的に不利に

消費増税が決まり、その抜け道となっているオンラインコンテンツについて、海外ネット企業への批判が高まっている。その最大の標的が、アマゾンだ。

たとえば、電子書籍をアマゾンで買うと、消費税はかからない。

しかし、同じものを日本の電子書店のサイトで買うと、消費税を取られる。来年4月からは消費税は8%になるわけだから、この差は大きく、日本の電子書店は圧倒的に不利になる。

だから「アマゾンにも課税しろ」というのだ。

メディアもネット言論も、そう主張している。日本雑誌協会など出版9団体は、この8月末、政府になんとかしてほしいと要望書を提出した。

■消費者自身がソンをすることをなぜ主張するのか?

しかし、私は、こうした主張がどうしても解せない。アマゾンの味方をするわけではないが、アマゾンで買ったほうがトクならば、なぜ課税して価格が上げるようなことを要求するのかが、わからない。

出版社、書店など利害がある業界は別として、消費者から見れば、コンテンツは安ければ安いほどいい。それなのに、ネット言論(言論と言えるかどうかは別)までもが「アマゾンは日本の消費税を払うべきだ」というのが、不思議でたまらない。

アマゾンが日本の消費税を払わなくていいのは、拠点を米国(デラウェア州)においているからである。現在の日本の税制ではこれに課税できない。となると、消費税を負担しなければならない日本のネット企業は不利になり、公正な競争が成り立たなくなる。だから、課税しろというのだが、これで不利益を被っているのは、日本のネット企業であって、消費者ではない。

しかも、消費税を払わされるのは、アマゾンではなく、そう主張する消費者自身なのだ。

■EUでもVAT逃れが問題化して制度変更に

じつは、日本と同じような課税問題が、欧州でも起こっている。欧州はEUで一体になったとはいえ、各国でVAT(付加価値税)が違い、アマゾン、アップルなどはVAT税率が一番低いところに拠点を置いて、電子書籍をオンライン配信している。

現在、EU内で電子書籍に対する課税がいちばん低いのがルクセンブルグの3%。次がフランスの7%。他のEU諸国は15〜20%だから、当然、アマゾンはルクセンブルグから電子書籍を配信している。

こうされると、たとえば英国などはVATを取り損なう(ルクセンブルグで徴収されたVATからの分配はあるが、それはルクセンブルクのVAT税率に基づいている)。そこで、欧州委員会は、最近、新協定を結び、2015年からは、課税を法人登記国から購入者居住国に切り替える新方式を打ち出した。

ただし、これは、電子書籍が「書籍ではない」ことになっているからできることだ。EUでは電子書籍は欧州委員会の取り決めにより「文化財」とみなされない。しかし、ルクセンブルクとフランスだけは、この取り決めに従わず、文化財としての軽減税率を適用してきたのである。

今回の措置は、この矛盾を解消しようとするものだが、はたしてうまく行くかはわからない。

■日本政府はどうやって消費税を取るのか?

というのは、これが実施されれば、EU各国で電子書籍の価格が上がり、消費者は不利益を被る。さらに、はたして消費者居住国で課税できるのかといいテクニカルな問題、そして、課税コストの問題があるからだ。

たとえば、英国政府が、ルクセンブルグを本拠地とするアマゾンに支払われた英国の消費者の購入代金から、英国のVAT換算額をどうやって取るのか? その方法がよくわからない。テクニカル的に難しいのではないかと思われる。ということは、課税コストもかなりかかるだろう。

そこで、日本もEUと同じようなことをするとしたら、日本政府は米国デラウェアを本拠とするアマゾンから、日本の消費者が払った消費税を徴収しなければならなくなる。そんなことが、簡単にできるのだろうか?

ちなみに、アメリカでは電子書籍に消費税(アメリカでは売上税)はかからない。電子書籍は実体がなく、有形の個人資産ではないとされるからだ。

■消費地課税は「輸入関税」と同じでは?

もともと税制というのは、各国で完結しているシステムである。各国の税制は、国内しか想定していない。それなのに、国外にあるサービス提供企業に対し、納税の義務を課すことなどできるのだろうか?

もし、それができるなら、こうした課税は「輸入関税」と同じ意味を持ってしまうだろう。つまり、オンラインコンテンツの消費地課税というのは、新たな非関税障壁を築くのと同じではないだろうか?

当然だが、自由貿易を標榜するアメリカはやっていなし、やろうともしていない。さらに、ここで重要なのは、現在アメリカが主導しているTPPは、すべての関税を撤廃することを目指しているということだ。

つまり、もし日本が今後アマゾンに消費税課税をするとなれば、アメリカは猛反対するはずだ。

■電子書籍を消費税の課税対象から外せ

というわけで、電子書籍の消費税課税問題は、「アマゾンに課税しろ」では解決しない。

消費者にとっても、日本の出版社や電子書店にとってもメリットがある解決策は、「電子書籍に消費税を課すな」である。電子書籍を課税対象商品から外す。これを、出版団体や消費者は政府に要求すべきである。もちろん、同時に紙の書籍も課税対象から外すべきだ。

こうすれば、日本企業が不利になることはなくなるし、消費者もトクをする。国は課税コストを新たに負担することもなくなる。

電子書籍などのコンテンツは、文化の発展、知識・情報の普及、そして人類活動の創造的な発展に寄与している。それを考えれば、課税強化にしかならない提案・要求は、まったく本末転倒ではないだろうか?

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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