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やはり無能だった!バーナンキFRB議長が緩和縮小を見送ったワケ

山田順作家、ジャーナリスト

■国債利回りの上昇に泡を食ったのか?

ベン・バーナンキFRB議長は、史上もっとも愚かなFRB議長だと、投資家からは思われている。ウォール街の仲間たちからは賞賛されても、ホンモノの投資家からはバカにされている。

それがはっきりわかったのが、9月18日のFRBの量的緩和縮小の見送りだ。直前まで市場は、緩和縮小を見込んで動いていた。だから、新興国からの投資マネーを引き上げた。ところが、フタを開けたら、緩和縮小の先送りである。

ただし、これは、投資家にとっては、一時的なひと安心であった。株、不動産のバブル崩壊が先送りされたからだ。要するに今回のFRBの措置は、「もう少し株と不動産を持っていていいよ」というサインである。つまり、バーナンキFRB議長は、単なる臆病者で、株と不動産バブルが弾けてしまうのに恐れをなしたのだ。

彼は今年の5月頃から、年末までに緩和縮小を始める、そして2014年半ばには債券買い入れプログラムの終了を視野に入れていると発言してきた。

そうしたら、フェデラルボンド10年物債利回りが1%超も上昇してしまい、泡を食ったのだろう。また、自分の任期中は、バブル崩壊を見たくないと思ったのだろう。緩和縮小をあっさり撤回したのだ。

この状況を察したローレン・サマーズ氏は、次期FRB議長をさっさと辞退してしまった。それはそうだ。自分の番になったとたんに、バブルが崩壊したらたまらない。そんなババを彼が引くわけがない。

■金を刷るしか能のないバーナンキFRB議長

バーナンキFRB議長が「ヘリコプター・ベン」と言われてきたことは、市場関係者なら誰でも知っている。危機に対しては、ともかくお金を刷ってヘリコプターでバラまけばいいと、おバカな発言をしてきたからだ。これは、前任者のグリースパン氏も同じだ。バブル崩壊に対しては、お金を刷って次のバブルをつくり出し、危機を先送りする。

こうすると、不良債権をつくり出した彼らのウォール街の仲間は救われる。しかし、一般国民は救われない。なぜなら、その穴埋めは税金で成されるからだ。

かつてバーナンキFRB議長は、日本のデフレ脱却策にも言及して「紙幣をどんどん刷ってヘリコプターからばらまけばいい」などと言った。経済学者のポール・クルーグマン氏も同じようなことを言った。その口車にのせられて、アベノミクスで異次元金融緩和が始まってしまった。

■アメリカ政府には輪転機というテクノロジーがある

冒険投資家ジム・ロジャーズ氏は、グリースパン、バーナンキの師弟コンビに完全に愛想が尽き、アメリカを捨てて、シンガポールに移住した。彼の新刊『冒険投資家ジム・ロジャーズのストリート・スマート――市場の英知で時代を読み解く』(神田由布子訳、ソフトバンク・クリエイティブ)には、次の一節がある。

「2002年、連邦準備制度理事会に加わったあとにワシントンで開かれたナショナル・エコノミスト・クラブの演説で、バーナンキが自らの金融政策アプローチについて以下のような概略を述べたのは有名である。

『アメリカ政府には輪転機というテクノロジーがあり、今日ではエレクトロニクス化されています。したがって、実質的にはノーコストで好きなだけドル紙幣が印刷できます。結論を申せば、紙幣制度において、断固意を決した政府は常により多くの消費を生み出し、したがって前向きなインフレをもたらすことができます』」(P146〜147)

■東京は世界バブルの最終ランナー

リーマンショック後の世界同時不況から抜け出すため、世界の中央銀行がなにをしてきたか、考えてみよう。

どこもかしこもFRBと同じ金融緩和だ。ECBも大量にユーロを刷った。その影響で世界中にマネーが溢れかえり、その結果、株や不動産などの投機的市場では、バブルが世界規模で拡大した。

しかし、実体経済はなにも回復していないから、金融緩和を止めれば、バブルは崩壊する。新興国市場も、成長は鈍る。それなのに、最後にこの大規模金融緩和に乗り出した日本は、東京オリンピック招致というカードまで引いてしまい、いま、世界バブルの最終ランナーになろうとしている。

日本のバブルがどこまでのバブルかは想定できないが、資産インフレになるのは間違いないだろう。

そうすれば、富裕層と一般国民との格差はますます開く。

■なんで都市部の不動産は値上がりしたのか?

この9月19日、都道府県地価調査が公表され、東京都や愛知県などで住宅地、商業地の地価が5年ぶりに上昇に転じたと報道された。すでに、不動産バブルは起こっているのだ。日本の人口は今後も減少する。生産年齢人口はすでに1990年代後半から減少している。とすれば、需要と供給から見て、どんな物件も値下がりする。

しかし、アベノミクスによる金融緩和で投機資金が不動産に投入され、価格が上がった。

とはいえ、これは都市部だけの現象で、地方は相変わらず下落が続いている。

しかし、メディアはアベノミクスと東京オリンピックで浮かれていて、そちらの状況は伝えない。そればかりか、「都心部の高級マンション人気高まる」として、都心にできたタワーマンションや高級マンションが売れていることだけを伝えている。

じつは、都心の高級マンション、とくに億を超える物件を買っているのは実需ではない。最上階のペントハウスなどの買い手は海外の投資家で、調べれば、こうした物件の持ち主が、ケイマン諸島などのオフショアに籍を置く会社や中国マネーであったりするのがわかる。しかし、そんな話はあまり報道されない。

■バブルには妄想と自己欺瞞があるだけ

いずれにしても、FRBはどこかで出口戦略をやらざるをえない。お金を刷ったのは時間を買うためで、その間に実体経済は回復してくると考えたからだ。しかし、アメリカ経済はまだ弱い。ジョブレスリカバリーしか起きていない。財政の崖問題もあるから、あとはシェールガス頼りか。

しかし、この先の日本は、バブルが起きるだけで、それを起こした原資は借金(国債)だから、いったいどうなるのか? 消費税引き上げるために、1万円を配るなんてばらまきばかりやっていたら、出口なんていつまでたっても見えてこない。しかも、バブルは必ず崩壊する。

そこで、古典的名著とされるジョン・ケネス・ガルブレイス著『[新版]バブルの物語 人々はなぜ「熱狂」を繰り返すのか』(鈴木哲太郎:訳,ダイヤモンド社、2008)から、以下の1節を引用しておきたい。

「興奮したムードが市場に拡がったり、投資の見通しが楽観ムードに包まれるような時や、特別な先見の明に基づく独得の機会があるという主張がなされるような時には、良識あるすべての人は渦中に入らないほうがよい。これは警戒すべき時なのだ。たぶん、そこには機会があるのかもしれない。紅海の底には、かの宝物があるかもしれない。しかし、そうしたところには妄想と自己欺瞞があるだけだという場合のほうがむしろ多いということは、歴史が十分に証明している。」(P155)

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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