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前回は反動不況で国債発行! 東京五輪を成功させるために、もう“鎖国”を止めてほしい。

山田順作家、ジャーナリスト

■「予想を外したのだから謝れ」メール

東京に決まって、本当によかった。これでやっと寝れるとベッドに潜り込んだ。そうして、夕方起きてPCを開けると、何本もメールが入っていた。

その1本、「山田さんの東京落選という見方に同意見だったので、この結果に茫然です。安倍首相はラッキーマンになったのか」というのは、懇意にしている政治経済評論家。また別の1本、「パリからのJALでいま帰ってきたところ。機内のアナウンスで知って思わずバンザイと叫んだ」というのは、欧州に夏期休暇に行っていた知人のビジネスマン。

特筆は、米メディアの記者からのもので、「決め手は安倍総理のスピーチだろう。日本の首相であそこまで自信に満ちて堂々と英語で話した首相はこれまで見たことがない」と書かれていた。

ただ、こういうメールもあった。

「偉そうにほざいておきながら、予想を違えた際の謝罪はなしか?」

「予想を外しましたね。あなたの記事は公共にとって無益な記載と思われ、方向を転換して欲しい」

■安倍首相の堂々としたスピーチに感動

たしかに、私の予想は外れた。ずっとイスタンブール有利と思ってきて、猪瀬都知事が、「イスラム蔑視」発言をしたときは、「猪瀬知事のイスラム蔑視発言があろうとなかろうと、2020年東京五輪はありえない。もう撤退しましょう!」と、この欄に書いた(4月29日)。

したがって、予想に関しては素直に「読みを誤ってすいません」と頭を下げるしかない。ごめんなさい。

ただ、ああした記事は予想の的中を競う競馬の記事などとは違う。日本人だから、東京を応援する。そういうスタンスを取らないと批判されるのは心外だ。外したのは読みが甘いので申し訳ないが、「謝罪」を求められても困ってしまう。

なぜなら、実際は東京になってほしいと思っていたからだ。

東京に決まった瞬間、「これで2回、自分の国でオリンピックを見れる」と妻と喜んだ。もちろん、7年後、生きていればの話だが。

米メディアの記者が言うように、安倍首相の堂々としたスピーチにも感動した。プレゼンの感想を書いたらきりがないが、安倍首相にはツキがあるのも確かだろう。

こうなったら、アベノミクスの第3の矢を徹底的にやってほしい。アベノミクスの金融・財政政策は、カネを刷って公共事業にバラまくというのでいただけない。しかし、第3の矢だけは外さないでほしいと思う。なにしろ、オリンピックという第4の矢を得て、日本はあと7年間も再生への猶予期間を得たのだから。

■東京「経済特区」構想をどんどん進めてほしい

そこで、祝賀ムードに水を差すかもしれないが、以下、懸念していることを書く。今回の招致決定で、東京の新しい街づくりが行なわれるのは間違いなくなった。

国立競技場は約1300億円を投じて生まれ変わるし、新施設としてベイエリアには水泳会場の「アクアティクスセンター」ができる。コンパクト五輪とされるが、総工費は4554億円が見込まれているから、ほかにもいろいろできるだろう。

また、東京の街の再開発、インフラの整備は進む。羽田空港はさらに拡張され、国際便ももっと増設されるだろう。東京駅と成田空港をつなぐリニア高速鉄道の建設も行なわれるかもしれない。老朽化した首都高などの高速道路も整備されるだろう。

しかし、こうした建設投資だけでは、従来の土建国家と同じである。既得権を持つ一部の業者と政治家が利益を得るだけになるからだ。いまのところ、湧きに湧いているのは、ゼネコンおよび不動産と広告会社だけだ。

本当にやってほしいのは、第3の矢にある「経済特区」である。外国企業の誘致のため、法人実効税率を20%まで引き下げる。海外の名門大学を誘致する。外国人向け教育や医療を充実させる。さらに、特区内では、都営バスを終日運行する、あるいは地下鉄の24時間運行もするなどの話が出ているが、これを全部やってほしい。

■東京は「国際都市」ではなく「鎖国都市」

東京は日本ではいちばんの国際都市だが、外から見るとじつは「鎖国都市」だ。たとえば、アジア一の国際都市、シンガポールと比べると、東京はなにもかも劣っている。

シンガポールのほうが、市民生活ははるかに豊かであり、街も清潔だし、最新施設も多い。金融サービスも、外国人に対するホスピタリティも、東京より上だ。

東京経済特区構想を見ると、これはシンガポールに追いつきたい。そういう願望の現れとしか思えない。ならば、上記したこと以外に、もっともっと国際化を進めてほしい。アベノミクスは「グローバル人材」をつくるための教育改革も進めるとしているが、現案では物足りない。たとえば小学校からバイリンガル教育を始めるとか、してほしい。

現在、世界で繁栄している都市は、ほとんどが国際化している。その証拠に、都市人口における外国人比率が高い。前回のオリンピック開催都市ロンドンなど5割を越えている。ニューヨーク33%、香港43%、トロント45%、ドバイにいたっては83%となっている。シンガポールは35%である。

そこで、シンガポールの比率を東京都(人口約1323万人)に当てはめてみると、約463万人の外国人が暮らすことになる。しかし、実際には東京の外国人居住者は約39万人(比率約3%、23区内に限ると4%)にすぎない。

■東アジアは世界で最も遅れた「人間鎖国」地帯

話はそれるかもしれないが、このように、外国人比率が低いのは、日本、韓国、中国の都市に共通している。ソウル、北京も数%と、東京とそう変わらない。つまり、東アジアはとんでもない「人間鎖国」地域なのだ。

そのせいか、韓国や中国は、いまも合いも変わらぬ「反日」をやっている。日本もそれに応酬しているが、オリンピックが決まった以上、相手にするだけ無駄だろう。

韓国でも中国でも、反日に走る自国の一般国民に愛想をつかして、エリート層は国を出てしまっている。バカバカしくて見ていられないのだ。最近は、日本の一部の若者や起業家も国を出て行くことが多くなった。

外国人を受け入れることが、即国際化とは言わないが、もう少し、東京に来たい、ここで暮らしたいという外国人を増やすべきだろう。観光客だけを増やしても、それは落とすお金を狙っているだけで、あまりにもさもしい。

私は、移民を受け入れるべきだと思っているが、これは最近、政治課題にもならなくなった。

■土建屋国家の発想だと赤字になる懸念が

最後の懸念は、オリンピックをやりました。結果、赤字でした、にしてほしくないこと。

最近のオリンピック開催を見ると、北京、ロンドンも開催後、赤字を計上している。新施設をつくっても、以後の需要は減り、設備消却と維持費などで赤字が膨らんだ。北京は、国の威信をかけてあれだけの巨大施設をつくったが、その後、莫大な維持費に頭をかかえているという。ロンドンですら、うまくいったはずと言われたのに、最終的には赤字になった。

オリンピック開催は大規模に民営化されたロス五輪以降、バルセロナを除いてずっと黒字だった。そのため「金の儲かる木」と言われてきた。それが、最近は赤字だから、東京も十分気をつけなければいけない。

前記したような土建国家体質のままだと、オリンピックはただの「土建屋祭り」で終わってしまう。

東京は立派になりました。メダルはたくさん獲れました。おもてなしの心で外国人には喜んでもらいました。こんなことだけがオリンピックの成功ではない。もし、本当にそれだけで終わったら、今度こそ、日本は立ち上がれないくらい落ち込み、衰退の道をたどるしかなくなる。

■オリンピック後の反動不況が怖い

オリンピック後は、祭りの後だけに、必ず反動が来る。

前回の東京オリンピックのときも、昭和40年不況(五輪反動不況)がやってきた。一気に税収が落ち込み、次年度予算が組めなくなった。じつはこのときまで、日本は国債発行をしていなかった。財政は財政法を守り、財政均衡主義でやっていた。

それなのに、「赤字国債」の発行に踏み切ってしまったのである。その額は2590億円。

これは、当時の国家予算の100分の1に満たない額だったため、当時の大蔵大臣・福田赳夫も「わずかな額なので」と言って、それほど気にしなかった。

しかし、いまや国債による政府の借金は1000兆円を突破している。このペースでいくと、2020年には1400兆円を突破する。

前回の東京オリンピックは大成功だった。当時の日本は高度成長期で人口構成年齢も若く、希望に満ちた国だった。それなのに、反動不況で、国債発行という将来への禍根を残した。今度の東京オリンピックは、少子化高齢化で、経済も人間も老いたなかで行なわれる。

「2020TOKYO」のスローガンは、「Discover Tomorrow」(あしたをつかもう)である。私たちは、相当な覚悟で未来をつかまなければならいと思う。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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