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もし東京にオリンピックが来なかったら? 招致失敗「言い訳」(理由)集

山田順作家、ジャーナリスト

■不安材料があるのに先走るメデイアの報道

いよいよ9月7日(日本時間9月8日午前5時頃)がやってくる。ブエノスアイレスで行なわれるIOC総会で2020年の五輪開催都市が決まる。これまでの報道だと、「イスタンブールは政情不安、マドリードには財政不安がある。その点、“安心、安全、確実”を打ち出した東京は絶対有利」ということで、メディアは早くもお祭り騒ぎ、フィーバー状態になっている。

すでに、日本の招致団は現地で最後の調整に入り、東京都議員、東京都職員などもツアーを組んで大挙現地入りしている。当日は、ロシアのセントピーターズバーグのG20を切り上げて、安倍首相も駆けつけてスピーチをする。まさに、オールジャパン体制である。となると、ここまでやったら、もう東京に決まるのは間違いないと思えてくる。

しかし、本当に東京に決まるのだろうか?

シカゴが本命視されたときは、当時人気絶頂だったオバマ大統領がスピーチをした。ところが、ふたを開けてみると、リオデジャネイロに敗れ、オバマ大統領は面目を失っている。

最近、欧米でもトップニュース扱いで報道されている「福島原発の汚染水漏洩問題」も、不安材料だ。アメリカではCNNが、欧州では英国BBC、独ARDが日本の対応を手厳しく批判している。「日本人は地球と人間に対して無責任である」といったトーンになっている。

こうした報道が、委員たちにどんな影響を与えるか? それを考えると、日本のメディアの「東京で決まり」みたいな報道は、先走りし過ぎではないかと思う。

■マドリードやイスタンブールは本当にないのか?

じつは私は、以前に「東京はありえない。イスタンブールで決まり」ということを書いた。自著『2015年磯野家の崩壊 アベノミクスの先にある地獄』(徳間書店刊)の中でも、「東京の可能性は薄い。だから、東京が敗れたときに、アベノミクスは危機に陥る」ということを書いている。

また、この欄のコラムでも、2回にわたって「東京五輪はない」ということを書いている。「猪瀬知事のイスラム蔑視発言があろうとなかろうと、2020年東京五輪はありえない。もう撤退しましょう!」(4月29日)、「謝罪しても東京五輪の可能性はない!猪瀬知事と東京都に大逆転シナリオでもあるのだろうか?」(5月1日)という2本のコラムだが、当時は、猪瀬都知事の発言の深刻さから、本気でそう考えていた。

実際、当時の報道は、どちらかといえば日本に悲観的だったはずだ。

ところがどうだろう。この数カ月で、メディアの報道はガラリと変わった。マドリードやイスタンブールが勝手にこけて、東京が最有力になったという論調が増えた。本当にそうなのだろうか?

こうなったら、日本人だから東京に決まってほしいと思うが、いまだに確信がもてない。

そこで、もし万が一東京が落選したとき、メディアはどんな「言い訳」をするのか? 以下、落選理由を考えてみることにした。

■落選理由その1:福島原発汚染水流出問題

やはり、落選の最大の理由は、福島原発問題になるはずだ。

「東京は下馬評ではリードしていたのですが、直前に発覚した福島原発の汚染水流出問題が大きく影響して、最終的な指示が得られなかった模様です。委員の一人も“トーキョーが掲げた安心、安全が信じられなくなったので投票できなかった”と述べています」

というような報道がされるのではないだろうか?

IOC総会では会長選挙も実施されるが、ドイツのトーマス・バッハ副会長の当選が確実視されている。ドイツは脱原発宣言している。このことも強調されるだろう。

テレビではしかるべきコメンテーターが、「海外では東京と福島がどれくらい離れているかなど、ほとんど知られていませんからね。やはり、福島の汚染水流出問題は大きなマイナス要因になりましたね」などと、コメントするだろう。

ただ、この理由が正当化されると、これまで莫大な税金をかけて招致してきた政府と東京都の責任は棚上げされてしまう。国民の怒りはすべて「東電」に向かい、東電は解体されるかもしれない。そもそも「震災復興」を掲げて、JOCは立候補しただけに、この痛手は計り知れない。

■落選理由その2:相次いだ要人失言問題

今年は、日本の政治家の失言が国際的に波紋を呼ぶことが多かった。なかでも、以下の3つは、五輪招致レースに大きく影響した。

まずは、猪瀬都知事の「イスラム蔑視」発言。

「(五輪は)イスタンブールとマドリードにはできない」とライバルと比較するタブーを犯したうえ、「イスラム諸国はアラーの教義を絶対とする階級社会で戦いに明け暮れている」「(トルコに対して)長生きしたければ日本のように文化を創造する必要がある。若者がたくさんいたって、早死にするなら意味がない」と、完全に見下してしまった。

もし、開催がイスタンブールになったら、猪瀬知事はどんな顔をして帰国するのだろうか?

次は、橋下大阪市長の「従軍慰安婦」発言。これで、日本人男性は女性差別するという印象を海外に与えてしまった。もう一つ、麻生副総理の「ナチス発言」も落選理由になる。なぜなら、麻生副総理は元五輪選手であり、五輪招致委員会評議会の特別顧問を務めているからだ。

「やはり、麻生副総理の発言はIOCの欧州の委員から反感を買ったようです」と、コメンテーターは言うかもしれない。

■落選理由その3:票読みの失敗、国際感覚のなさ

1回目の投票では決まらない。すると、上位2都市の決選投票になる。この場合、最初の投票でイスタンブールが落ちるので、イスタンブール票がマドリードに行くとは考えづらい。「したがって決選投票では東京が有利」というのが、日本のメディアと専門家の予想である。

しかし、そうはならなかったら?

「やはり、2018年冬季五輪が韓国の平昌(ピョンチャン)で開催されることを甘く見すぎていましたね。IOC委員は同じ地域で五輪が連続して開催されることを望んでいなかったからです」という分析が出るかもしれない。

また、「アジア票を読み誤った」と、誰かしらが言うはずだ。

IOC委員のうち、日本はアジアの23人を土台に、立候補都市のないアフリカの11人、北中南米の18人、オセアニアの5人の浮動票を狙ってきた。

しかし、アジア票のうち、中国の3人と韓国の2人は、領土問題・歴史認識問題で日本に入れるわけがない。

「この5票は始めから想定外でした。しかし、中国の影響力は大きく、香港と台湾の各1票も失い、中国が援助しているアフリカ諸国の票も失った。完全に票の読み間違いです」と言い出すコメンテーターもいるだろう。

ちなみに、「日本はすでに東京、長野、札幌と3回もやっている。アジアでは韓国、中国が1回ずつ。なんで日本が4回もやるんだ」と言っていたIOC委員がいるという報道もあった。

■落選理由その4―「なぜ東京か?」理念のなさ

今回の東京のスローガンは、「Discover Tomorrow」(未来:あしたをつかもう)である。なんかはっきりしないスローガンである。それもそのはず、今回の立候補は前回失敗したための再挑戦にすぎず、「なぜ東京か?」という理念に欠けていた。そのため、このようなあいまいなスローガンになった経緯がある。

また、「コンパクトな五輪」「日本にはおもてなしの心がある」などというのも、いま一つアピールに乏しかった。

「やはり、オリンピック精神からいって、大きな理念が必要でした。すなわち、なぜ東京でやるのか?が明確でなかったのです。その点で、(もしイスタンブールになった場合)イスタンブールには“イスラム初のオリンピック”という意義が明確でした。

次の2024年が、事実上パリとされていますから、欧州はトルコを望んだのでしょう」

と、解説するコメンテーターが出るのは間違いない。

ちなみに、五輪招致広報サイトの海外での評判は散々だった。米国のデジタルマーケティングの第一人者というデイビッド・ミーマン・スコット氏が「世界最悪の英語ウェブサイトだ」と酷評したことがネット上で話題になったことがあった。その理由は、「イノベーション」「グローバル・インスピレーション」「ユニークなバリュー」などの言葉が並び、「これほど意味不明な文章は、正直いまだかつて読んだことがない」だった。

■落選理由その5―ブックメーカーにはめられた

今回、メディアは英国のブックメーカーで、東京が一番人気になったことを喜んで報じてきた。主要ブックメーカーの賭け率を集めた英国のサイト「オッズチェッカー」によると、東京は8対13(約1.62倍)と、断然リード。

2番人気はイスタンブールで10対3(約4.3倍)、マドリードは4対1(5.0倍)で期待薄ということになっている。

しかし、ブックメーカーのオッズは、賭け金をたくさん集めるために操作されている。1番人気の倍率を低くして、あたかも大本命のように見せることはよく行なわれている。

実際、前回はシカゴが1.72倍で断然の1番人気。リオデジャネイロは3.25倍、東京が8.0倍、マドリードが12.0倍だった。さらに前々回も、パリが1番人気で1.25倍、ロンドンが2番人気で3.75倍、3番人気のニューヨークは13.0倍、4番人気のマドリードは34.0倍、5番人気のモスクワは101倍だった。

だから、イスタンブールが勝てば、こう言うしかない。

「やはりジンクスは敗れませんでしたね。過去2回とも2番人気が勝っています。今回もまた本命が敗れたのです」

さて、結果はどうなるのか?

あまり期待せず、冷静に結果を受け止められるように心がけて、その瞬間を待ちたいと思う。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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