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「2020年東京五輪」落選ショックで、「アベノミクスバブル」は崩壊か? 来年まで持つのか?

山田順作家、ジャーナリスト

■80年代バブルと違う実体経済なき安倍バブル

市場も驚いた「異次元緩和」「バズーカ砲」炸裂で、アベノミクスは佳境に入ってきた。なにしろ、「物価目標2%の達成に向けて、達成期間2年を念頭に置き、マネタリーベースを2倍にする」というのだから、もはや異を唱えるエコノミストは本当に少なくなった。 

いまや、「これで日本経済は復活する」という論調の話でないと誰も聞かなくなり、本もそういう本しか売れていない。

しかも、このアベノミクスをアメリカは歓迎している。5日付の『ウォールストリート・ジャーナル』は社説で、日銀の黒田東彦総裁を「日本のバーナンキFRB議長」と持ちあげたのだから、もはや恐いものなしといった雰囲気になっている。

しかし、ここであえて書いておきたいのは、アベノミクスはバブルに過ぎないのだから、いつかは弾けるということだ。しかも、1980年代のバブルと違うのは、実体経済の裏付けがないことだ。80年代バブルのときは、日本経済はピークにあり、世界中で「メイド・イン・ジャパン」が売れていた。

ところが、今回はそうした実体経済の裏付けはないのだから、バブルが弾けたときの惨状は、1990年のバブル崩壊を上回るだろう。

というわけで、昔からよく知っている専門家2人と、「いつアベノミクスバブルが弾けるのか?」という話を、酒を酌み交わしながらしてみた。ひとりは某経済研究所のエコノミスト(Aとする)、もうひとりは、政治・経済評論家(Bとする)である。この2人とも、リフレ政策にはずっと懐疑的で、これまでそういう方向で、論説、記事、本を書いてきている。

■シェールガス革命という擬似餌に食いついた日本

A「いま悲観論を言うとメディアから声がかからなくなるので、あえて言わないようにしている。しかし、実体経済の状況を丹念に見れば、去年より悪化している。たとえば、自動車業界はボーナスの満額回答で話題になったが、円安差益を還元しただけ。実際の販売台数は落ちている。

電機産業にいたっては、大型リストラの真っ最中だ。春闘の結果はまだ出ていないが、ほとんどの企業でベアは見送られ、給料ベースでは昨年よりマイナスだ。こうしたことに少しでも国民の目が行けば、バブルは弾ける。ただ、安倍政権は7月の参議院選挙までは、なにがなんでも持たせるはずだ」

B「いや、バブル崩壊はもっと先だ。年末、いや来年の春までは持つだろう。弾ける引き金は、経済的な悪材料が出たときというより、アメリカが何らかのかたちで政策転換したときだ。

円を刷りまくってマネタリーベースを2倍にするんだから、またまた米国債を買ってくれる。それで、とりあえずいまは歓迎している。しかも、シェールガス革命という擬似餌に食いついてきて、TPPにも参加を表明してくれたのだから、まだ潰すのは早いだろう」

A「まあ、そうかもしれない。経済成長してはじめて来年4月に消費税を上げられるわけだから、それを決める9月段階で弾けていては困るわけだ。それに、消費税の駆け込み需要なんかで持たせていけばいいわけだから、来年まで大丈夫かもしれないな」

■ バブルで勝つには、ピークで手じまいすること

2人の見解はざっとこのようだったが、私の見方はやや違っていて、もしバブルが弾けるとしたら、年内にある2つのターニングポイントのときだと考えている。まず最短で9月、その後は11月末である。これを乗り切ると、Bが言うように来年まで持ち越されるかもしれない。

ではなぜそう考えるか?

それは、アベノミクスへの期待感でこれまで上昇相場をつくってきたのが、日本人ではなく外国人だからだ。現在の日本の株式市場の約65%が外国人による取引で成り立っている。もちろん、外国に籍を置いた日本マネーもあるが、多くはヘッジファンドなどの投機マネーが日本の株価を動かしてきたからだ。

彼ら投資家は、日本の個人投資家のように期待感だけで上昇相場をどこまでも買い上げない。彼らはある程度のシミュレーションをたて、アベノミクスのバブルからのエグジットを考えている。つまり、どこで逃げるかである。

バブルで勝つには、ピークで手じまいすることに尽きる。いったん下降しだしたら深手を負う。だから、彼らが気にするのは周囲であり、相場そのものではない。誰がいつまではり続けているかを見ながら、自分はいつ逃げて利益を確定するかが、バブルでの戦いになる。

日本の80年代バブルを見ても、地価も株も永遠に上がり続けると油断した人間がババをつかんだ。最後まで持ち続けた人間が、もっとも損をしている。

■9月初旬のIOC総会での東京落選は間違いない

となると、どこでバブルが弾けるか、あらかじめシュミレーションしておかなければならない。ヘッジファンドはこれをやっているのだ。

では、彼らが考えるターニングポイントとはなんだろうか? 今後の日本経済のスケジュールを見ると、直近では次のようなターニングポイントがあることが想定できる。

・5月下旬(企業の決算発表が出そろう時期。悪材料も?)

・7月下旬(参院選の結果による政策の変動があるかもしれない)

・9月初旬(夏休み明け後の相場変動期。リーマンショックも9月だった)

これに、ヘッジファンド側の理屈で、11月末が加わる。11月末は、米系ファンドの決算期末で、利益確定しなければならないからだ。

それでは、このなかで、どの時期が有力だろうか?

私は、9月にひと波乱あると見ている。それは、9月が夏休み明け後の相場変動期というより、9月初旬に、一見日本経済とは関係ないように見えてじつは重要な決定が待っているからだ。9月7日にIOC総会が開かれ、ここで、2020年東京オリンピック開催の可否が投票で決まる。

現状では、まず間違いなく東京は落選する。そうすると、ここまでアベノミクスと同じように期待感を膨らませるだけ膨らませてきた風船が弾ける。東京落選で、国民全体が失望すれば、アベノミクスのバブルも弾けるのではないかと思えるのだ。

「そうだな。そういう見方もできるね」とA。「東京開催なんて、東京都とメディアがあおっているだけで、海外ではほとんど相手にされていない。落選は間違いないだろう。だからといって、そこでバブルが弾けるというのはどうかな?」とB。

いずれにせよ、2人とも、東京五輪の可能性がほとんどない点では一致した。

■南米初に続きイスラム圏で初のオリンピック開催

では、なぜ、東京の可能性はないのか? 

今回の東京のライバルは、イスタンブールとマドリードである。このうちマドリードは、現在のスペイン経済の低迷ぶりからいって、まずあり得ない。となると、ライバルは経済が好調なトルコのイスタンブールだけとなるが、東京とイスタンブールを比べると、東京はアピールポイントがあまりに乏しいのである。

さらに、2020年大会の次の2024年大会には、パリが立候補を表明していて、これはすでに決まったも同然というから、この点でも東京は不利なのだ。

オリンピック開催というのは、投資家にとってはその国に投資していいというサインである。これまでの開催地を見れば、開催時期に開催国の経済はいずれも好調だった。2004年のアテネにしても、当時は国家財政の不正は判明しておらず、ギリシャ経済はユーロ導入で大きく成長していると見られていた。

となると、現在のトルコ経済が好調なことは、イスタンブールにとって大きなアピールポイントである。トルコのGDP成長率は2010年9%、2011年8.5%と、世界的にも突出して増加している。また、イスタンブールに決まれば、イスラム圏で初のオリンピック開催となり、これも大きなアピールポイントだ。

2016年のブラジルが南米で初のオリンピック、そして次がイスラム圏で初のオリンピックとなれば、世界経済にとってこれほどいいことはない。

世界がグローバル化し、新興国が経済成長してから、投資家は積極的にエマージング市場に投資するようになった。 それとともに、オリンピックも欧米のものではなくなった。そして、BRICs諸国のうち、まず中国でオリンピックをやり、続いてブラジルでやる。さらに冬季オリンピックが、ロシアのソチである。こうした流れから言えば、次はBRICsに次いで発展するトルコになる可能性がもっとも高いのである。

オリンピックはクーベルタン男爵が始めたことでわかるように、元は欧州貴族の社交の場だ。彼らが握る欧州資本は、いま大量にトルコに投資されている。トルコの銀行システムの大半は、ユーロ圏諸国の銀行によって部分的に所有されている。また、トルコの輸出の半分は欧州向けである。

■「コンパクトな五輪」に投資家も、選手も、観客も興味なし

これに対して、東京のアピールポイントは、「コンパクトな五輪」ということだけだ。

「コンパクトな五輪」というのは、選手村を中心に半径8キロ圏内に主要な競技会場を集中させる、メーン会場の国立競技場は、8万人収容のスタジアムに大改修するということらしい。しかし、そんなものに、投資家も、選手も、観客も興味ないだろう。

東京五輪が実現すれば、国内外から780万人の観客が訪れ、経済波及効果は全国で約3兆円と推計されている。また、五輪は東日本大震災からの復興でもあり、日本を元気づける起爆剤となるという。 

しかし、これらはみな日本人勝手な皮算用であり、復興といっても2020年まで持つ話ではない。

猪瀬都知事は、先日IOCの調査団が来日したとき、「世界有数の都市力を誇る東京だからこそ、安全、安心にオリンピックを開催できる」と訴えた。しかし、安全、安心なオリンピックなど当たり前だ。

というわけで、IOC大会で東京がイスタンブールに敗れた瞬間に、バブルが弾ける可能性もある。日本はオリンピックすら招致できないことで、国民の間に大きな失望感が広がれば、株価は急落するかもしれない。

「それはわかるが、もし万一東京になったら、バブルはもっと過熱するわけだ。となると、投資マネーがもっと入ってくるから、コンパクトなんか言わないでインフラをつくりまくり、カジノも解禁してしまえば、経済は復活してしまうかもしれないな」

と、B。

こうなると、もう破れかぶれ戦略だが、やはり、経済の先行きを読むのは簡単ではない。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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