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行列ができる店「カフェ・カイラ」「丸亀製麺」の人気の秘密と行列の心理学

山田順作家、ジャーナリスト

■カフェ・カイラでエッグベネディクトを食べる

先日、ハワイに家族旅行に行くという家内の友人が、「行ったらカフェ・カイラに行き、エッグベネディクトを食べてくるわ」と言うので、「えっ、カフェ・カイラ? そんな店があるの?」と思わず聞き返してしまった。

ハワイには家族で何度も行っているのに、初めて聞く店だったからだ。

ハワイでエッグベネディクトというと、ハウツリーラナイが有名で、ここには何度か行ったことがある。

ハウツリーラナイは、ニューオータニ・カイマナビーチホテルのビーチサイドレストランで、日曜日のブランチは予約なしでは入れないという人気店だ。

行くと必ず、飲み物にブラディメアリーを頼み、エッグベネディクトかパンケーキを注文した。ここには、数百年前からあるという大きなハウツリーがあり、その木陰のテーブルに座って、ビーチの光景を見渡しながらブランチをとれば、至福の時間が訪れる。

「パンケーキだったら『エッグスンシングス』のほうがおいいしい」と言う人も多いが、私たち家族はここがお気に入りだった。

■朝8時に行っても整理券をもらって2時間待ち

「カフェ・カイラは日本にもできて、いまや予約でいっぱい。行列ができる店になっているんですよ。だったら、ハワイの本店に行ってこようと思っているんです」

それで、あわてて調べてみると、昨年7月に、東京スカイツリーのそばの吾妻橋に日本一号店ができている。オープンするや整理券を得るために早朝から並ぶ人が絶えず、あまりの人気に、店舗を移転。昨年12月に、原宿のファッションビル「GYRE(ジャイル)」の地下1階に再オープンすると、またも整理券を配るほどの人気で、予約が取れないという。

「開店が朝7時というので、8時ぐらいでもいいかなと娘と行ったらもう、すごい行列ができていて、入れません。整理券をもらって2時間待ち。それで入ったらエッグベネディクトは売り切れ。1日60食限定なんですって。それで悔しくて、今度ハワイでリベンジするのよ」

■「パンケーキ戦争」「朝食戦争」が勃発

いま、日本では「パンケーキ戦争」「朝食戦争」が起きている。じつは、「カフェ・カイラ」は、そうしたパンケーキ戦争に後から参戦した店といえ、すでに原宿には、「エッグスンシングス」「パンケーキデイズ」」「RAINBOW PANCAKE」「bills」などがひしめいている。

このうち「エッグスンシングス」は、ワイキキのカラカウア通りの人気店で、原宿のほか、横浜、江ノ島などに3店舗を出店している。日本の運営会社の実質的オーナーは、あのタリーズコーヒージャパンの創業者であり、参議院議員の松田公太氏が務めている。

また「bills」は、お台場、表参道、横浜、七里ヶ浜に4店舗を構えている。こちらは、オーストラリアのシドニーの人気店で、「世界一の朝食」と評されハリウッドセレブにも愛されているという店。日本の運営会社には、中田英寿や為末大などスポーツ選手のマネージメント会社の「サニーサイドアップ」が参画している。

■デフレで夕食にお金をかけられない分朝食を豪華に

というわけで、私がこういう事情にまったくうとかっただけで、時代はどんどん変わっているのだ。娘が小学校2年のときから高校を卒業するまで、私たち家族は、毎年夏にハワイに行った。とくに娘と家内は、娘の学校の関係で2カ月はいた。それなのに、完全に時代に時代に取り残されてしまったというしかない。

ただ、昔の感覚で言えば「エッグスンシングス」はとくに行くような店でなく、また「カフェ・カイラ」は、2007年にオープンした新しい店なので、知らなくても仕方ないと思った。それに、ワイキキから離れたマーケット・シティ・ショッピングセンターにある。しかも、「ハレアイナ賞 オアフ島グルメコンテスト」の「ベストブレックファースト賞」を、2011年、2012年と2年連続で受賞して、急に人気が出た店だ。

しかし、なぜ、いまパンケーキなどの朝食店がブレイクしているのだろうか?

「デフレで夕食にお金をかけられない分、朝食を豪華にしたいという人が増えた。それに、オーガニック食材のブームが加わったから」とマーケティング専門家は言う。さらに、外国の人気店ということもある。

日本では、外国の人気店が失敗した例はほとんどない。マクドナルドは、私が高校生の頃、日本一号店ができて、連日大行列ができた。その後、フライドチキン、デニーズ、レッドロブスター、フライデイ、スタバなど、みな成功している。本当に、マーケティングのいらない国だ。

■ワイキキではクヒオ通りの「丸亀製麺」に長蛇の列

ところで、昨年の暮れ、1年ぶりにワイキキを歩いて、とんでもない行列に出くわして驚いた。行列ができていたのは、クヒオ通り沿いのナフアストリートそばの一画。私たち一家はナフアストリートにあるコンドで毎年夏を過ごしていたから、この一画はよく知っている。しかし、これまで、こんな行列は見たことがなかった。

それで、なんの行列かと見に行くと、讃岐うどんレストラン「丸亀製麺」(Marukame Udon Waikiki Shop)の店の前の行列だった。日本人観光客はもちろん、ロコの人間、アメリカ人観光客など50人近くが並んでいた。

それも、特定の時間帯ではない。いつ通りかかっても、長蛇の列なのだった。

昔、ここには、日本のカレー店「CoCo壱番屋」や「ジャック・イン・ザボックス」があったが、行列などできたことがなかった。そこで、ハワイの知人に話を聞くと、昨年4月にオープンして以来、毎日、行列ができているという。

■日本と同じでセルフサービスなので回転は速い

恥ずかしい話だが、私は「丸亀製麺」を知らなかった。いま、日本でものすごい勢いでチェーン店を伸ばしていて、いちばん人気のある讃岐うどん店であることを知らなかった。

それで、知人にバカにされた。

「日本での人気を本当に知らないの?この時代、外食産業は地元で成功すると必ず海外展開となるけど、丸亀製麺が当たるとは思わなかった。やはり、アメリカもデフレで安ければいいということかね。いつ行っても20分から30分待ちだ。ただ、日本と同じでセルフサービスなので、回転は速いよ。

人気はこっちでも釜揚げうどんの並、ざるうどんの並。3.75ドルだから、円にして300円ちょっと」

ワイキキに来てまで、なぜ、讃岐うどんを食べなければいけないのかとは思ったが、安ければ当然だ。アメリカ人だって、世界どこに行ってもマックを食べる。それにしても、行列は日本人観光客のほうが多いから、本当に日本人行列好きだ。

■行列に並ぶのが楽しいという若者たちに驚く

じつは私は行列が大嫌いである。

行列してまで、おいしもの、好きなものを食べようとは思わない。それで、行列ができていると、お目当ての店に行ってもすぐにほかの店に行く。ところが、世の中には行列が大好きという人がいる。以前、アップルの「iPad」の日本発売前日に、銀座のアップルストアに行き、行列をつくっている若者たちを取材したが、みんな並ぶのが楽しいというので、驚いた。

高校時代、大阪の万博に行くと、どこのパビリオンも長い行列ができていた。それでも、中を見たさに、何時間も待った。目玉はアポロが持ち帰った月の石。しかし、そうしてやっと見た月の石は、なんの変哲もないただの石だった。そんな記憶があるので、「楽しい」というのが信じられなかった。

行列に並ぶということは、待つということ。とすれば、待つ価値があるから、並ぶということになる。そこで思うのは、「パンケーキ」や「うどん」が待ってでも食べる価値があると考えているということになる。

■「ほかの人がやっていることと同じことをしたい」という欲

ネットで調べてみると、「日本マルチペイメントネットワーク推進協議会」というところが、面白い調査をしている。この調査によると、「待てない行列・待ちたくない行列」のトップ3は、「コンビニのレジ待ち」、「銀行窓口の列」、「飲食店の行列」となっている。

また、電通の調査によれば、「どんなときに行列に並んでしまいますか?」という問いかけに対し、一番目は「おいしいもの、いい物など、並ぶ価値があるとわかっているとき」、次が「評判を聞いたり、流行ったりしていて、自分も試したいとき」となっている。

マーケティングの世界には、「行列マーケティング」と呼ばれるテクニックがある。新規開店や売り出しに、意図的な行列(つまりサクラを動員)をつくって、人を呼び込もうというものだ。これが、案外成功する。心理学的に言うと、人間は「同調行動」をしやすいからだという。

これは行列ができていると、「なんの行列なんだろう?」、「ないかいいことがあるのかな?」と、ふと足を止めてしまうことでわかる。人間にはもともと「ほかの人がやっていることと同じことをしたい」という欲望があるのだという。

■中国のマックでは行列に並んでもマックが買えない

この同調行動が、日本人はとくに強いと、私は思う。よく日本人は集団主義と言われるが、そのとおりだ。たとえば、子供のころから集団生活のマナーとして整列し、順番を守ることを強いられる。先生は、列を乱す子、並ばない子を厳しく注意する。

こうされると、無意識に並ぶのを好むようになる。

しかし、中国人はまったく違う。

私は、中国で一列の行列ができているのを見たことがない。中国でマックに行くと、混んでいても行列はできていない。いや、できてはいるが並んだからといって順番通りにマックは買えない。行列に並んでいても、横から大声で注文した者や、手を出して店員の注意をひいた者に先に買われてしまう。

行列ででき、整理券の順番通りに食事ができる、モノが買えるのは、平和な証拠だ。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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