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アベノミクスで公共事業をやるなら、真っ先に「成田世界サイテー空港」をなんとかしてほしい!

山田順作家、ジャーナリスト

■やっと決まった着陸料を半額にする措置

成田空港の着陸料がこの4月から引き下げられることになった。成田国際空港会社は、さる2月28日に、航空会社の国際線の新規就航・増便分などの着陸料を半額にすると発表した。とりあえず、2016年3月末まで、この措置を続けるという。

これまで、成田の着陸料の高さは、さんざん批判されてきた。それが、やっと半額になるんだから、これはこれで喜ばしいニュースである。

しかし、メディアの報道の仕方は、まるで「他人事」だ。たとえば、この措置を「韓国の仁川空港など空港同士の国際競争が激しくなるなかで、着陸料を大幅に値下げし、アジアの拠点(ハブ)空港化 を目指すため」と、訳知り顔で解説しているだけである。

この半額決定とは別に、国際線のすべての便の着陸料が平均で5.5%引き下げられることも決まった。これで、中型機の着陸1回当たりで24万円程度安くなるという。こうした措置も含めて成田の着陸料はやっと仁川空港やシンガポールのチャンギ空港の水準に近づくのだが、問題はそれだけでないことを、なぜかメディアは指摘しないのだ。

■成田は世界の国際空港のなかでもサイテー

では、成田の問題とはなにか?

それは、成田空港が日本のような先進国にある首都圏空港としては、世界でも有数の「サイテー」の部類に入ることだ。着陸料の高さはもとより、そのサービスの低さ、交通の便、どれをとっても、ここまでひどい空港は珍しい。

成田空港への不満を、私はこれまで外国人からさんざん聞かされてきた。

東京に初めてやって来た欧米人が言うのは、バスで約1時間半、鉄道で約1時間という交通の便の悪さだ。それと、欧米路線の発着時間が決まっていて、深夜は空港がクローズしてしまうことだ。

しかし、最近は、欧米人ばかりか、中国人からも成田のことをバカにされる。「こんなひどい空港が本当に日本の玄関なのか?」と言われると、答えに屈する。

当初、日本のODAでつくられた北京首都空港は、いまや世界最大の空港ターミナルビルを持つ24時間空港で、アジア各国からの路線のハブ空港化が進んでいる。同じく、上海浦東国際空港もすでに3つの滑走路を持ち、さらに2つが建設中で、空港と都心は時速430キロの高速鉄道で結ばれている。

これでは、中国人にバカにされてもしょうがない。

■国際空港なら24時間オープンが常識

昔は海外から日本に戻り、成田に着くとホッとした。しかし、ここ十年あまり、成田に着くたびに憂鬱になる。とくに、香港から成田へのキャセイパシフィク航空最終便に乗ると、成田着は午後9時をまわり、帰国審査を抜け、荷物を取って第2ターミナルの到着ロビーに出ると、もうロビーは閑散としている。

まだ到着便があるゲートAは出迎えの人や帰国客がいるが、ゲートBは人もまばらだ。また、到着ロビー2階の飲食店フロアには、たった1軒のレストランしか店を開けていない。

欧米の空港はもとより、アジアでもこんな国際空港は珍しい。北京、上海浦東、香港、シンガポール(チャンギ)、バンコク、ソウル(仁川)……どこも、成田よりずっと明るく、なおかつ賑やかだ。しかも、国際空港なら、コンビニと同じ24時間オープンが常識だ。

欧州の空港でリニューアル化されて便利になり、利用客の評判がいいのは、ロンドンのヒースロー空港。アメリカならシカゴのオヘア空港だ。ただ、昔からの空港も、たとえばパリのシャルルドゴール空港、ニューヨークのJFK空港など、一部に昔の施設を残しながら改修、リニューアルされていて、それなりに機能的だ。

しかし、成田は完成時のまま、一部はリニューアルされたが、基本的にはなにも変わっていない。

■ローマ字で書かれた「YOKOSO! JAPAN」は無意味

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成田空港は、自らを「ワールドスカイゲート」と称している。世界への空の窓口だ。たしかにその通りだが、現在の世界の空港と比べると、そんなことが言えるだろうか?

夜9時をすぎるとレストランは閉まり、外貨も両替できない空港を「ワールドスカイゲート」と言うのは、日本国内向けだけとしか思えない。現在の成田は、どう見てもローカル空港だ。

海外から日本に初めてやってきた外国人は、この成田空港の悪印象から、日本全体に対する印象も悪くする。それに輪をかけているのが、ローマ字で書かれた「YOKOSO! JAPAN」とうボードだ。なぜ、こんなわけがわからないボードが、いつまでも掲げられているのだろうか?

成田国際空港社は、今回の着陸料の値下げと併せて、原則として午前6時から午後11時となっている運航時間を弾力的に運用することも検討しているという。出発する空港で悪天候に見舞われるなど通常の運航ができなくなった場合、午前5時台の着陸と午後11時台の離着陸を認める案が出ているという。

しかし、メディアは、こう書く。

「ただ騒音を問題視する地元住民の反発も予想され、調整が必要となりそうだ」

■「羽田は国内線、成田は国際線」という時代錯誤

なぜ、日本の玄関である国際空港が、こんなバカげた事態に陥っているのだろうか?

その最大の原因は「羽田は国内線、成田は国際線」という、時代錯誤の空港行政をずっと続けてきたからだ。民主党政権でただ一つ評価できるのは、こうし従来の路線を止めて、羽田を国際線化したことだ。しかし、それでもまったく不十分である。国内線が集中する羽田にこそ、ほぼすべての国際線が集まらなければ、なんの意味もないからだ。

そもそも、国内線と国際線を住み分けること自体が、間違っていた。なぜなら、このグローバル時代には、国内線と国際線が同じ空港にあることが、利用する側にとってはいちばん便利だからだ。それを無視してきたのが、いままでの日本の空港行政である。世界のオープンスカイ化でも、もっとも遅れたのが日本だった。

アジアに次々にハブ空港ができると、成田のこの欠点は顕著になり、いまでは仁川や香港などに、国内の地方客まで奪われるようになった。そして、さらにバカげたことに、茨城空港や静岡空港など、乗客より飛行機を見物に来る客が多い空港ができてしまった。もはや、日本の空港行政は救い難い。

ただ、アベノミクスはこの先、国土強靭化で国内の公共工事にカネをばらまくことになっている。それなら、真っ先に、成田を強化し、さらに羽田を完全な国際空港にするようにしてもらいたい。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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