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何が起こっているのか?病床逼迫の前に救急搬送困難事例が増えゆくコロナ第6波

薬師寺泰匡救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

COVID-19の第6波が各地で起こっています。岡山県でも本日1月13日は168名と、昨日のほぼ倍の患者さんが確認されました。感染の広がりの勢いが凄まじいです。デルタよりもオミクロンの方が重症化リスクは低いようですが、そうは言っても入院が発生していないわけではありません。感染の波が早期に訪れた沖縄では、1月12日現在で146名の酸素投与を必要とする患者さんが発生しています。療養中の患者さんが9598人ということですので、現時点で入院率1.5%程度となります。あとから徐々に症状が進行してくることを考えると、入院率としてはもう少し高くなるかもしれません。入院率が低くとも、感染者が増加してくると病床が逼迫するのは時間の問題となります。

参考

沖縄県HP: 沖縄県における新型コロナウイルス感染症の発生状況について(1/13)

医療従事者に広がる感染

現状、各地の病院で、医療従事者での感染や、医療従事者の家族の感染が広がってきています。出勤停止となった医療従事者が働けなくなり、医療の停滞に拍車をかけ、第5波までとは違った形で医療逼迫が起こっています。人がいなければ箱があっても仕方がありません。沖縄ではすでに一部病棟閉鎖に追い込まれている病院もあります。外来診療についても制限せざるを得ず、発熱患者だけでなく、平時の診療を保てなくなる状況に追い込まれているのが現状です。特に地域の重症患者の受け皿となっている救急外来の制限は、大きな影響を及ぼします。救急車を呼んでも行き先が見つからないということがまた起ころうとしているのです。

東京でもすでに搬送困難

東京ではスムーズな救急搬送を実現するために、独自に「東京ルール」を設けています。これは救急隊による5医療機関への受入要請、又は選定開始から20分以上経過しても搬送先が決定しない事案において、あらかじめ定められた地域救急医療センターが搬送先の調整を行うシステムです。搬送困難例の数を表す数字になりますが、これがここ数日180件前後で推移しています。これは第5波のピークと同じか超える数字です。

東京都新型コロナウイルス感染症対策サイト(https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/cards/number-of-tokyo-rules-applied/)より
東京都新型コロナウイルス感染症対策サイト(https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/cards/number-of-tokyo-rules-applied/)より

第6波と医療逼迫

コロナによる重症者こそ少ないものの、平時の医療提供は早くも困難になりつつあります。これまで、感染者の増加を受けて行政からさまざまな社会活動の制限を要請するなど、感染に有効な接触を絶とうと努力してきました。実はこれにより、交通事故や不慮の事故による搬送が減少するという効果もあったと実感しているのですが(参照)、現状は通常通りの救急搬送の状況となっており、需要が下がらないままに(むしろ増加しつつ)供給が低下する事態を招いています。医療従事者の間で濃厚接触者や感染者が出たら業務困難ですし、COVID-19まん延期における救急対応は通常対応に比べて時間とマンパワーを使います。

これを受けて、1月12日に厚生労働大臣は、「医療従事者については、新型コロナ感染者の濃厚接触者となった場合も毎日の検査を行えば勤務することができる」という通知を再確認しました(通知事態は昨年8月13日に出されていた)。

濃厚接触者になってまで働きたくないという当事者からの意見や、なんとか病院機能を維持するために最小限の動員でも必要な人員確保は行わなければならないという管理者としての意見、医療従事者の誰が濃厚接触者なのかわからない状態で病院にかかれないという患者側の意見までさまざまあります。

実は先週1月8日、米国カリフォルニア州では、COVID-19 に感染した医療従事者が職場に戻る要件等に関するガイダンスを更新し、「1月8日から2月1 日までの間に限り、検査陽性でも無症状な場合はN95 マスクを直用した上で職場に復帰できる」こととしました。日本をはるかに凌駕する感染者が確認されており、全米の病院の24%が厳しい人員不足に陥っているということです。そういうわけで、日本での濃厚接触者への対応よりも一歩踏み込んだ内容になっています。

どうすれば良いのか?何ができるか?

重要なのは、すでに日本はこの状態に片足を突っ込んでいるということをしっかり認識することです。救急搬送先の選定が困難となってきた場合には、迅速かつ積極的に行政から情報共有することが求められます。コロナの病床利用率を指標にまん延防止等重点措置や緊急事態宣言の適用を考えるのでは、おそらく間に合いません。特に救急搬送システムの維持はますます困難になります。どうにかなるだろうと通常の生活を続けていると、どうにもならなくなる瞬間が突然訪れます。岡山県でも、10件当たったが搬送先が見つからないということが発生してきています。

発熱患者さん、COVID-19と診断後の患者さんは特に搬送先選定が困難となりやすいです。第5波の時には各地で発熱患者さんの一時収容施設の運用もなされました。こうした取り組みに加えて、早々に医療の逼迫具合を共有してもらえるよう、強く各地方自治体に求めたいです。通常提供できるはずのライフラインが途絶えるという事態をどうにか回避して欲しいです。

医療の供給が低下してきている状況では、どうにか需要を下げる努力をしなければ、COVID-19以外の患者さんが救えなくなっていきます。これは第6波におけるこれまでとは違う脅威といえます。必要以上の受診控えを招いたりすることは避けなくてはなりませんし、情報共有の方法は慎重にならざるを得ませんが、これまで通り病床の逼迫度合いを指標にしていると、すぐに体制が維持できなくなるのではないかと考えます。現場としては、出来る限り機能維持を図りながら体制維持に努めるのみですが、各地で救急医の仲間が厳しい状況を共有し始めています。

救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長

やくしじひろまさ/Yakushiji Hiromasa。救急科専門医。空気と水と米と酒と魚がおいしい富山で医学を学び、岸和田徳洲会病院、福岡徳洲会病院で救急医療に従事。2020年から家業の病院に勤務しつつ、岡山大学病院高度救命救急センターで救急医療にのめり込んでいる。ER診療全般、特に敗血症(感染症)、中毒、血管性浮腫の診療が得意。著書に「やっくん先生の そこが知りたかった中毒診療(金芳堂)」、「@ER×ICU めざせギラギラ救急医(日本医事新報社)」など。※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。

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