先日、正露丸がアニサキスを退治する効果があるというニュースが話題になっていました。きっかけはこちらの論文です。

Matsuoka K, Matsuoka T. Over-the-counter medicine (Seirogan) containing wood creosote kills Anisakis larvae. Open J Pharmacol Pharmacother. 2021 6(1): 009-012.

これまで、アニサキス症に正露丸が効くのではないかという話はありました。しかし、少数の症例報告や個人的経験談のみでエビデンスが乏しく、また正露丸内服によりアニサキスが本当に死んでしまうのかわからなかったのです。今回の研究の意義と、アニサキス症についてまとめてみます。

アニサキス症

アニサキスは青魚によく寄生している回虫で、胃に取り込むと激烈な腹痛を起こすことで知られます。白っぽい透明の太さ1mmくらいの寄生虫です。サバやカツオなどを食べた後に、激烈な腹痛を起こした人が病院に来たら、これが原因ではないかと我々は疑います。

アニサキス
アニサキス写真:yamaoyaji/イメージマート

痛みについては、もともとアニサキスが噛み付いたことによる痛みともいわれていたようですが、アレルギー反応の一環で疼痛を誘発するのではないかという考えが主流になってきています。炎症とは異なり、腸管粘膜が典型的な浮腫を呈するので、病歴がしっかりしているなら(それらしい海産物を食べて、その後から上腹部痛発症など)、CTや超音波検査である程度確定的に診断ができるのではないかと考えています。

確定診断と治療は内視鏡検査で、とりついているアニサキスを確認し、取り除けば痛みが速やかに改善します。勢いよく虫体を引っ張るとちぎれてしまい、アニサキスが胃粘膜に潜り込んだままになってしまうことが起こるので、優しく取り除く必要があります。これまでの人生で魚を釣ったことはないのに、アニサキスは釣ったことがあります…。アニサキスを取り除くと症状が改善するのは、アレルゲン除去による効果と考えられます。アニサキス抗体を検査すると反応があったり、抗アレルギー薬が効果的であったりします。

アニサキス対策として「よく噛んで食べる」とまことしやかに囁かれることがありますが、固くて噛みきれないようです。果敢にもアニサキスをかみちぎろうとした人をネット上で発見しましたが、真似しないでください。

正露丸

正露丸の主成分は木クレオソート(wood creosote)で、「もくくれおそーと」と読みます。木クレオソートは、ブナやマツなどの原木を乾留(空気を遮断した状態で加熱して分解)して得られる木タールを精製した淡黄色透明の液体です。腸内細菌には直接作用するわけではなく、腸管内の水分調節機能を調整する働きがあるとされています。

なんでアニサキスに効くのかはわかっていませんでしたが、経験的に効果があるとされていたのか、アニサキス症に正露丸を用いた人がいたようです。実際に木クレオソート投与により疼痛が改善した2例のアニサキス症の症例報告があります。

Sekimoto M, et al. Two cases of gastric Anisakiasis for which oral administration of a medicine containing wood creosote (Seirogan) was effective. Hepatogastroenterology. 2011 Jul-Aug;58(109):1252-4.

in vitro実験(生体外での実験)では、アニサキスに正露丸を暴露すると、用量依存的に虫体の活動が抑制されたということです。症例報告なのでエビデンスレベルとしてはちょっと乏しいかもしれませんが、アニサキスの活動性が低下することに再現性があるということで、個人的には注目していた文献でした。

アニサキスに対する正露丸の効果

自分自身、何度かアニサキスを診断し内視鏡で除去する経験をしていますが、胃壁に潜り混んで全力でピルピルしているかというと、あまりそのようなことはありませんでした。活動性が低下するだけでそんなに痛みが落ち着くのかという疑問はあります。正露丸の成分で、必ずしもアニサキスが死ぬかはわからないというのが、これまでの理解でした。

そこで冒頭の文献です。この研究では、アニサキスの活動性を抑えているだけなのか殺虫しているのかということを調べるために、トリパンブルーという染色液を用いました。これは死んだ細胞を選択的に染色することができる液体です。

実験では、塩酸(胃酸の成分)5mLないしは10mLに正露丸1錠を溶かし、アニサキスを30分間浸しました。30分で全てのアニサキスの活動が止まったようです。この後、アニサキスたちを生理食塩水に移動させたところ、濃い正露丸溶液(5mLのほう)につけられたアニサキスは活動再開が認められませんでしたが、薄い正露丸溶液(10mLのほう)で処理したアニサキスの13.3%が24時間後に活動再開したということです。死んだのか活動停止なのかわからないので、この時点でトリパンブルー染色をしたところ、動かなくなったアニサキスは染色されたということです。つまり、正露丸液処理により、アニサキスが死ぬことがわかりました。

今後の課題

正露丸でアニサキスが死ぬことが証明されましたが、治療薬とするには、どの程度の容量どの程度使用すれば十分な効果が得られるのかということを調べなくてはなりません。定められた1回量でよいのか?多めの方が良いのか?副作用はないのか?これらのことを明らかにするために、臨床試験が望まれます。in vitro実験(生体外での実験)の効果をそのままin vivo(生体内)環境に適用することはできません。

しかし、いざアニサキスにやられたとき、内視鏡処置はすぐにどこでもできるわけではないので、アニサキス症による激烈な疼痛が緩和されるとしたら、これほどありがたいことはありません。

実は、正露丸を製造販売する大幸薬品は、2014年に「消化器アニサキス症用薬剤」の特許(第5614801号、2014年9月19日登録)を取っています。アニサキス症への適切な容量について、さらに知見が進めば嬉しいです。