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夏休みとコロナ感染の第5波!比較的若年化している状況では子供の行き先確保が課題!

薬師寺泰匡救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長
(写真:アフロ)

新型コロナウイルス感染症の第5波がやってきています。このウイルスは家庭内に持ち込まれると、あっという間に広がります。これまで入院患者さんの多くが高齢者で、高齢の夫婦が揃って感染して一緒に入院したり、同居している中高年の息子や娘と一緒に入院したり、病床にゆとりがなければ、重症度の高い人のみが入院したりという状況だったかと思います。

高齢の方が入院し、臥床生活からADL(Activities of Daily Living:日常生活動作)が低下すると、元の生活に戻れなくなることがあり、この場合は長期のリハビリ入院を要したり、療養型病院に転院したり、施設入所したりということが必要になります。当初、転院や施設入所がなかなか決まらないということが多々発生しましたが、地域のなかで調整を図り、これまでの医療介護の連携をもとに工夫しながら、急性期病床の運用を効率的にしてきました。

しかしワクチンがある程度広まった今、高齢者の感染者数が減り、さらにデルタ株が流行りはじめた結果、20代と30代で感染者の過半数に迫る勢いとなり、子供たちへの感染も以前より多く見るようになってきました。7月14日から20日までの間に、23,004名の新規感染があり、40代以下は18,245名と全体の8割近くです。

(参照:https://covid19.mhlw.go.jp/

7月14日から7月20日までの新規感染者の年齢分布:厚生労働省のオープンデータから著者作成
7月14日から7月20日までの新規感染者の年齢分布:厚生労働省のオープンデータから著者作成

患者の年齢層が変わってきたことで、新たな問題が発生しています。1つは、子育て世代の家庭に感染者が発生した場合にどこで療養するかという問題。もう1つは、小児の病床に関する問題です。

子育て世代の感染

小学生以下の子供がいる世帯の両親のどちらか、もしくは片親が感染した場合、どのような治療方針、対応になるでしょうか?これまでは若年者で酸素が必要となるような中等症Ⅱ以上の病態になることは少なかったので、多くの場合自宅療養かホテル療養となっていたと思います。

しかし、ホテル療養を子供同伴でというのは厳しい状況です。自治体によっては受け入れ可能なところもあり、子供と一緒に個室に隔離するという方策もあるかもしれませんが、何歳までなら、何人までなら許可するか、難しいところだと思います。もし子供のみ別室で対応となると、保育士を常駐させるなど、別途対策が必要になります。両親ともに感染している場合はもちろんですが、片親が感染した場合でも、家族構成員は濃厚接触者となりますので、いつ発症するかわからない状態のまま自宅待機することになります。ワンオペで子供の面倒を見ながら籠城するのは大変です。こうした背景があり、子育て世代は多くの場合自宅療養を余儀なくされます。

軽症のまま事が過ぎれば良いのですが、酸素が必要な状況となると入院が必要になるので、その場合には確実に家族が離れ離れになることを余儀なくされます。これまでは若年層の重症化がレアケースだったのですが、人工呼吸が必要とまではいかなくとも、酸素需要の高い中等症Ⅱ以上になる30代以下も稀ではなくなってきています。自宅療養しながら子育てをしなくてはならない状況や、両親とも入院となると、子供をどうするかという問題が発生します。

小児の病床

これまで、例えば「80代男性(要介護)、50代男性、50代女性」の3人家族で、50代夫婦が2人とも感染して入院という場合、残された高齢者を、地域の病院で健康観察しながら一時的に入院で管理するというようなことがなされてきました。私も実際にそのような対応に関わらせていただいたことがあります。

ところが、「30代男性、30代女性、2歳女児」という3人家族で、両親ともに感染して入院という場合、残された子供をどこでみるのか、非常に悩ましい問題が生じます。成人病床に比べて、小児の病床数はさらに限られます。そして、現在RSウイルス感染が猛威を奮っており、小児病床が逼迫しているため、大勢の無症状の子供の経過観察をする余裕はないかもしれません。何日間も小児を預かってくれる体制を取っている自治体はかなり少数派と思われます。

子供たちが感染した場合も問題です。親子ともに元気であれば自宅療養でもよいですが、両親に入院の必要がある場合は子供が元気であっても入院の必要がでるでしょうし、子供の酸素需要が高まった場合には彼らの入院先を用意する必要があります。少なくとも私の居住する地域では、小児専用のコロナ病床というものは用意できていません。現存する集中治療室かコロナ病床の中で、小児対応可能なところへの入院を促すしかないというのが現状だと思います。

どうすれば?

ないないだらけではありますが、今できることをやれる範囲で日々やるしかありません。医療現場から、3つのお願いをさせてください。

お願い1

1つは、これまでも言われてきたことですが、ハイリスクな行動を取らないということです。できる限りワクチン接種はしていただければと思います。重症化を防ぐだけでも、自宅療養できる可能性が高くなります。一方、高齢者がワクチンを打ったということで、夏休みというタイミングもあり帰省をする流れができるかもしれません。行くなと言いませんが、不特定多数が集まる場所で会食をするというようなことをできる限り避けて欲しいと思います。新型コロナ感染症で大変なことになるのは高齢者だけであるというような誤った認識は正すべきです。

お願い2

2つ目は、家庭内で感染者がでたらどのように生活するかということをしっかり考えていておいて欲しいということです。濃厚接触者となると、感染患者と最後に接触があった日の翌日から14日間は、外出の自粛と健康観察となります。外出できないので買い物にも行けません。必要なものを地方自治体が支援をしてくれたり、友人や家族が持ってきてくれたりということがあればよいですが、孤立すると何もできなくなってしまいます。いつ感染してもおかしくないと思い、14日間買い物に行かずに家族構成員が自宅内で生活するということをシミュレーションして、今のうちに必要なものは買い揃えておいていただければ幸いです。

お願い3

3つ目は、お子様がいらっしゃる家庭では、家族の構成員が感染した場合の子供の行き先を考えておいて欲しいということです。自宅でがんばってみるというのも限界があり、根性だけでは乗り切れません。どちらかの親が入院したら、両親とも入院したら、子供はどうなるのか。そもそも一人親の場合は大丈夫か。祖父母が面倒を見ることができるか。子供が感染したら入院先はあるのか。自治体にも対応の確認をしていただければと思います。その声が社会を動かすことになります。

まとめ

私が居住する自治体では、市役所職員が自宅療養患者さんの支援をしたり、できる限り地域の医師に相談できる体制を敷こうとしたり、対策をつめているところですが、市内に小児科の入院設備はなく、取り残された子供をどうするかなどまだまだ対応しなければならないことが山積しています。

都心部を中心に確実に第5波の山が迫ってきています。夏休み時期、患者の年齢層低下ということで、これまでとは違った様相を呈するはずです。できる限り、自助・共助体制を整え、公助体制強化をして臨めればと思います。

救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長

やくしじひろまさ/Yakushiji Hiromasa。救急科専門医。空気と水と米と酒と魚がおいしい富山で医学を学び、岸和田徳洲会病院、福岡徳洲会病院で救急医療に従事。2020年から家業の病院に勤務しつつ、岡山大学病院高度救命救急センターで救急医療にのめり込んでいる。ER診療全般、特に敗血症(感染症)、中毒、血管性浮腫の診療が得意。著書に「やっくん先生の そこが知りたかった中毒診療(金芳堂)」、「@ER×ICU めざせギラギラ救急医(日本医事新報社)」など。※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。

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