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テキーラで急性アルコール中毒死!?身近な人を守る方法を知ろう!!

薬師寺泰匡救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長
テキーラ一杯にはビール1缶分のアルコールが含まれています(写真:アフロ)

11月末に、テキーラ1瓶を一気飲みして、20歳の女性が急性アルコール中毒で死亡したという話が話題になっております。ゲームの一環で多量に飲酒したとの情報があり、一気飲みの危険性が認識されていなかったのかと、辛い気持ちです。今回はテキーラ一気飲みがどれほど危険かということを共有し、あって欲しくはないけれど、お酒で潰れてしまった人にどのように対応したら良いかという点をお伝えしたいと思います。

テキーラとアルコール

テキーラはメキシコで作られる、アガベ(竜舌蘭)を原料にした蒸留酒です。メキシコでは原産地呼称が導入されております。蒸留過程を2回繰り返すことや、アルコール含有量についても規定があり、エタノールは35%~55%でなくてはならないとされています。多くのテキーラはおよそアルコール度数が40%程度となっています。

テキーラはショットグラスで飲まれることが多いと思いますが、ショットグラス一杯が45mL程度なので、テキーラをショットグラスで一杯飲むと、アルコールとして15g程度摂取することになります(※)。これはビール350mL(1缶)程度に相当します。テキーラは1瓶に750mL入っているので、アルコールで240g。ビール換算で6Lとなります。無茶苦茶です。これが体内に摂取されると、450mg/dL程度の血中アルコール濃度となりますので、呼吸が止まります(前回記事参照)。

※アルコール含有量の計算

液体の容量(mL)×アルコール度数(%)/100にアルコールの比重0.8をかけると、何gのアルコールを摂取したか計算できる

血中アルコール濃度と症状:著者作成
血中アルコール濃度と症状:著者作成

飲ませないのが大事

前回も述べましたが、過剰摂取したアルコールをどうにかする方法はありません。ご自身の肝臓に頑張っていただくしかないのです。アルコールの代謝速度は1時間あたり20mg/dL程度なので、テキーラ一本というのは、呼吸が止まりかねないし、仮に生存できたとしても、丸一日かけないと代謝できないほどのアルコール量なのです。致死的であるという点、しっかり共有したいところです。

ゲームであったとしても、呼吸が止まることが前提のゴールが許されるとは到底思えません。「このボタンを押したら呼吸が止まるけど10万円あげるよ。やる?」って聞かれたらやりませんよね?そのようなことを許容してしまう雰囲気を作ってしまうこともお酒の怖いところだと思います。

急性アルコール中毒患者さんを出さないためには、お酒は三杯まで、他人にお酒を勧めない、手酌のみ(お酌は暗にお酒を勧めることになる)などのルール作りが大切だと思います。気がつかないうちに酒量が増えてきたり、自分がどれだけ飲んだかの認識が困難になっていったりします。急性アルコール中毒は避けられます。避けましょう。

急性アルコール中毒への対処

気をつけていても、個体差はありますし、少量でも具体が悪くなってしまうことはあるかもしれません。もし、一緒に飲んでいる人や、周囲の人の体調が悪くなったら、ぜひ「回復体位」というものを実践してください。これは心肺蘇生の講習会で必ず習得するものなのですが、意識は低下しているけど、正常に呼吸をしている傷病者に対してとらせる姿勢で、側臥位(横向きの姿勢)で寝かせたものを言います。回復体位にすることで、舌が落ちて気道を閉塞させたり、嘔吐物で気道を閉塞させたりするのを避けられます。

やり方ですが、側臥位をとらせ、傷病者の下になる腕を前に伸ばし、上になる腕を曲げて顔の下にしいて、手の甲に傷病者の顔が乗るようにします。また、姿勢を安定させるために、上になる膝を90度曲げ前方に出します(イラスト参照)。

回復体位:いらすとやから
回復体位:いらすとやから

これも前回の記事で触れたのですが、急性アルコール中毒の治療は、気道閉塞を起こさせず、呼吸停止に対処するというのが主軸になります。気道が閉塞すると、人は数分で心停止に至ります。ここだけは守り抜いていただければと思います。

回復体位をとったら、呼びかけ続けてあげてください。反応がなくなり、呼吸が弱くなるようであれば、迷わず救急要請してください。必要ならば心肺蘇生を行わなくてはならないかもしれません。それから、絶対に!決して!!一人で寝かさないように!!!

アルコール摂取後、徐々に吸収されて血中アルコール濃度はますます上がるかもしれません。アルコールの影響がなくなったと判断できるまで側についてあげる必要があります。これは一緒に飲んでいる人の責務だと思います。

最後に

アルコールは人生を豊かにしてくれる、リリンが生み出した文化の極みです。ただし、刃にもなります。アルコールは薬品であるという視点で、楽しくも慎重に向き合って欲しいです。自分に処方された薬を人に勧めたら怒られますよね?そういうものです。

少し話は逸れるのですが、テキーラはおいしいお酒です。ショットグラスで一気飲みされることが多いように思いますが、じわじわと香りを楽しみながら飲むのが良いです。地球の裏側で生産者を悲しい気持ちにさせないような文化を築いていきましょう。

テキーラの材料であるアガベ
テキーラの材料であるアガベ写真:アフロ

救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長

やくしじひろまさ/Yakushiji Hiromasa。救急科専門医。空気と水と米と酒と魚がおいしい富山で医学を学び、岸和田徳洲会病院、福岡徳洲会病院で救急医療に従事。2020年から家業の病院に勤務しつつ、岡山大学病院高度救命救急センターで救急医療にのめり込んでいる。ER診療全般、特に敗血症(感染症)、中毒、血管性浮腫の診療が得意。著書に「やっくん先生の そこが知りたかった中毒診療(金芳堂)」、「@ER×ICU めざせギラギラ救急医(日本医事新報社)」など。※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。

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