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【世界敗血症デー】敗血症そして新型コロナと闘う「日本敗血症連盟」とは?

薬師寺泰匡救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長
コロナウイルス対策のキーは?(提供:アフロ)

世界敗血症デー

9月13日は世界敗血症デーとされ、各国で敗血症の啓発イベントが行われました。

全世界で年間2700万人が敗血症になり、死亡者は年間800万人。数秒に一人が敗血症で亡くなっていると言われています。一方、敗血症についての情報は広く浸透しているとは言い難い状況です。この状況を打破すべく、2012年に世界敗血症デーが制定されました。さらに2016年、世界保健機構(WHO)が解決すべき世界保健課題として敗血症(sepsis)を指定しています。今回は、世界敗血症デーの国内での取り組みを紹介したいと思います。

敗血症

敗血症という名前は聞いたことがあるかもしれませんが、敗血症って何かと聞かれても、多くの人が明確に答えられないものかもしれません。敗血症は感染症が重篤化した状態と思っていただいてほとんど間違いは無いです。ヒポクラテスの時代から病態の認識はありましたが、体の中でどの様な変化が起こっているかということがわかってきたのは最近の話になります。過去には感染症によって起こった全身の炎症反応が敗血症であると考えられていましたが、現在では炎症にとどまらない様々な反応の成れの果てが敗血症であるという理解に至っています。特に、臓器障害を起こす様な重篤な状態であるという認識になっており、2016年に、敗血症は「感染症によって重篤な臓器障害が引き起こされる状態」と定義されました。敗血症は感染症を契機に起こる生体反応が調節不能な病態で、臓器不全に進行するものと言えます。体に何らかの病原体が入り込むと、病原体を認識して炎症をはじめとした免疫反応や、それをコントロールするべく免疫を抑える反応など種々の変化が起こりますが、これらの反応の調整がつかなくなり臓器障害につながり死に至ってしまうのです。

日本では保険病名をつける際に、重篤な感染症については「敗血症」ではなく、もともとの感染症の病名(肺炎や尿路感染症など)がつけられてきたため、正確な患者数ははっきりとは分かりません。しかし海外の報告を参考にすると、日本でも最低年間10万人程度が敗血症で亡くなっていると予想されています。

敗血症対策とGSA、JaSA

なんとか敗血症による死亡を減らそうということで、2010年9月、ニューヨークで開催された敗血症に関するシンポジウムにおいて世界敗血症同盟:Global sepsis Alliance(GSA)が設立されました。そして毎年9月13日世界敗血症デーとして、世界中で敗血症の啓発イベントを開いているのです。日本では2013年から日本集中治療医学会が中心となり啓発イベントを行ってきましたが、2019年には日本集中治療医学会、日本救急医学会、日本感染症学会からなる日本敗血症連盟:Japan sepsis Alliance (JaSA)が結成され、さらに積極的に敗血症の救命率向上や周知を目指して活動しています。(私もこの活動に加わっています)

具体的な啓発活動を上げると、敗血症情報サイト「敗血症.COM」を運用しており、敗血症を学ぶための動画コンテンツなどが集められています。こちらの動画は、GSAが作成し、JaSAで和訳をつけたものです。

比較的衛生的で病院へのアクセスも良い日本ですが、敗血症を避けるために、もっと敗血症の情報を広める必要があります。そして今年は新型コロナウイルスの蔓延により、世界規模で多数の死者がでました。日本でも9月13日までに75,218名が感染し、1,439名が死亡しています。そこで、JaSAは世界敗血症デーにちなみ、新型コロナウイルス感染症に焦点を当てた市民公開講座を配信しています。新型コロナウイルス感染症の重篤化には、敗血症が関与していると考えられます。敗血症の管理は、新型コロナウイルス感染症治療においても非常に重要なポイントなのです。

敗血症に立ち向かうための方策

JaSAは敗血症に立ち向かうための方策として、「予防」「早期発見」「感染症治療」「全身管理」「リハビリテーション」の5本の柱を立てています。感染症治療は抗菌薬投与など、全身管理は集中治療室での臓器不全への治療介入を指しています。感染症治療、全身管理、そしてリハビリテーションは、我々医療従事者に努力が求められます。しかし、「予防」「早期発見」については医療従事者だけではなく、広く一般に浸透すべき重要な対策です。敗血症は臓器不全が進行する恐ろしい病態ですが、予防と早期発見により、臓器不全となる前に対応ができる可能性を秘めています。あくまでも感染を契機に発症する病態ですから、感染を防ぐことはそのまま敗血症への対策となります。手洗いやワクチンによる感染予防、ちょっとした傷の管理、さらに敗血症を早期に疑うことなど、身の回りにできることは多々あります。ぜひこの機会に、身近にできることを見直し、重篤な感染症を防ぐ一助にしていただければと思います。乗りましょう!このビッグウェーブに!!

救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長

やくしじひろまさ/Yakushiji Hiromasa。救急科専門医。空気と水と米と酒と魚がおいしい富山で医学を学び、岸和田徳洲会病院、福岡徳洲会病院で救急医療に従事。2020年から家業の病院に勤務しつつ、岡山大学病院高度救命救急センターで救急医療にのめり込んでいる。ER診療全般、特に敗血症(感染症)、中毒、血管性浮腫の診療が得意。著書に「やっくん先生の そこが知りたかった中毒診療(金芳堂)」、「@ER×ICU めざせギラギラ救急医(日本医事新報社)」など。※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。

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