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スマホ市場を理解するカギは「人のつながりたい欲求」 長年の経験でわかる今知るべき情報とは【特別企画】

『石川 温の「スマホ業界新聞」』

2008年6月に販売が開始されたiPhone3G。スマートフォンはそこからわずか10年で、私たちの生活に欠かせないデジタルデバイスとなりました。高精度で大画面の液晶、デジタルカメラを上回る画素数、パソコン並みの処理能力などにより、単なるガジェットという枠を超え、コミュニケーションの在り方そのものを大きく変化させた存在となったのです。

そんな最先端かつ話題に事欠かないスマートフォン業界において、国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップル、海外メーカーなどへの独自取材を長年続けているのが石川温さん。

スマートフォンの黎明期から現在の成熟期までを知り尽くすケータイジャーナリストとして、ヤフーニュース個人でも既に400本以上の記事を執筆・配信しています。

2013年5月から続く有料連載『スマホ業界新聞』でも、有料版だからこそ書ける内容で人気を博す石川さんに、2020年のスマホ業界事情などについてじっくりとお話を伺いました。

iモードが見せてくれた未来と、5Gがもたらす変化

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――石川さんが携帯電話やスマホを積極的に取材するようになったきっかけは、何だったのでしょうか。

石川:日経ホーム出版社(現日経BP社)で主にテクノロジーに関する記事を執筆していたのですが、1999年に「iモードの生みの親」と言われる夏野剛氏にインタビューさせていただいたことですね。

夏野氏から「iモードが未来の通信コンセプトを作る」「それにより、魅力的な未来がやってくる」という構想についてお話を伺いました。実際それは素晴らしい計画だったわけですが、99年時点でそれが100%理解できたという記者は私含め一人もいなかったと思います。(苦笑)

ただ、その構想にワクワクさせられたという体験こそが、私がモバイルに関するジャーナリストを目指した直接のきっかけとなりました。

――モバイル業界のどんな部分に魅力を感じ、日々の取材を続けてらっしゃるのでしょうか。

石川:モバイル業界は、搭載される技術は常に最新鋭でありながら、変わらない要素も多いという特徴があります。通信や機種の世代交代はあっても、その裏側にあるコンセプトや軸はブレていないのです。

例えば今注目の通信規格である5Gも、目的自体は2Gの頃から「コミュニケーションを取るための通信」として一切変わらず、規格やガワのデバイスが変化しただけ。根底にあるのはいつも「人のつながりたい欲求」であり、電話もメールもLINEも全て一緒なのだと私は思っています。

また、SpotifyやAWAなどはパッと出てきたサービスだと思う人もいるでしょうが、起源は携帯電話時代のMP3のダウンロードサービスや着メロにあります。「外で音楽を聴く」という目的は昔から共通しており、より利便性の伴ったサービスが出てきたことに新しいと感じているだけ。

このように、過去にあったサービスや展開を参考に論じることができるのは、業界歴が長い私の強みでもあると思います。

――では逆に、これから大きく変わりそうな部分はどこでしょうか。

石川:5Gの影響で大きく変わりそうなのは、やはり動画です。通信速度の向上で動画再生速度が上がるという点ではなく、「撮って配信する」ことが、さらに身近になるという点においてです。

YouTuberのような一方的な動画の発信はもちろん、相互動画でコミュニケーションを取るというようなことは、今後もっと増えていきます。若者のプライバシー感覚の変化が著しくなり、インターネット上では顔出しして当たり前、という時代がやってくるでしょうね。

2020年以降のスマホ市場はどう動いていくのか

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――ここ最近でのスマホ市場の変化はいかがでしょうか。

石川:AppleのiPhone/iOSが一強だった状況から、Androidがシェアを逆転しました。背景にはスマホ利用者の二極化があると言われています。高くてもいいから高性能の端末や最新機種に買い換えたいという層と、「とりあえず使えればいいから」と割り切り2〜4万円の端末を買う層への分化です。

また、端末の割引が効かなくなり、新品を購入する人が減少したことで、中古端末の市場も小さくなりました。買い換えをせずに長く使用する人は増えています。通信料を気にする人も、SIMフリー端末やMVMOなど選択肢が増えたことによって、「2年に一度新品に買い換える」という従来の流れは大きく変化しました。

――SIMフリーのスマホは一般層にもかなり浸透してきましたね。

石川:その市場でも、かつて圧倒的なシェアを誇っていたHUAWEIが苦戦を強いられるという変化が生じています。昨今の米中問題の影響で、購入を控える動きが出てきているのかもしれませんね。

一方で、指原莉乃さんを起用するなど、大々的なプロモーションを仕掛けるOPPOが着実にシェアを伸ばしています。

――楽天モバイルの登場も、市場の動きに大きな影響を与えそうですね。

石川:5Gの使い放題プランをはじめ、大手3社が値上げにシフトするという話もあり、楽天モバイルに乗り換えるメリットも大きいと思います。とはいえ、すぐに現状の3社の独占状態を崩すというのは難しいでしょう。

MNP(ナンバーポータビリティ)が始まった後も、当初の予想ほどユーザーに流動性は生まれませんでした。ずっと同じキャリアを使い続けるという層はかなり多く、乗り換えについて楽観的な期待はできません。大手3社がお互いの顧客を奪い合うより、自社のガラケーユーザーをいかにスマホに切り替えさせるかに注力している点からも明らかです。

新規参入キャリアは、顧客が優位性を感じ、通信も安定化してきたというタイミングで、ようやく乗り換え先としての検討対象になれるのではないでしょうか。そのため2020年のサービス開始段階では、楽天モバイルが市場に与える影響は小さいと思います。大手3社側も、いろいろな対策やサービス強化を試みていますしね。

長年の業界経験があるからこそ、今知るべき情報を伝えられる

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――石川さんが2013年から連載している『スマホ業界新聞』では、どのような記事が配信されているのでしょうか。

石川:スマホ業界の記者としての長いキャリアを生かしつつ、日本はもちろん海外での発表会などからも情報を収集し、独自の取材網を活用しながらレポートを作成しています。

まずはその週のスマホに関するニュースやプレスリリースから、着目すべきポイントをご紹介。見落とされがちだけど重要な情報のピックアップや、リリースの裏側にある企業の思惑などについて解説をしていきます。

さらに業界記者として、メーカーや通信会社の方々に直接取材を行うことで得られたディープな情報、匿名でのタレ込み情報や他の媒体では執筆できない裏話など、有料版ならではの話もたくさん取り上げています。

日々数多くの情報が私の耳には入ってくるのですが、それらをきちんと精査したうえで、しっかりとしたアウトプットを7年間にわたって提供し続けてきた連載が、『スマホ業界新聞』なんですよ。

――なるほど。購読されているのはどういう方たちなのでしょうか。

石川:やはりスマホに興味がある方、通信業界に勤めている方が多いですね。とはいえ、スマホを軸としたビジネスは非常に増えていますし、業界以外の方にとっても価値ある情報は多いのではないでしょうか。

最新テクノロジーの見本市とも言われるスマホ市場ですが、技術的な楽しさだけでなく、ウェットでアナログな面もあるのがその魅力ですね。結局は人が作るサービスやプロダクトなわけですから、知るべき情報は多く、注目すべきトピックスも毎週存在します。

特に直近での動きは面白いと思います。第四の通信会社が参入することで、新たな業界再編ムードが起きるのか、はたまた大きな連合企業が誕生するのか。世界では超巨大企業も生まれる中で、日本企業が仲良く共存するためにはどうすればいいのか。『スマホ業界新聞』でも、今だからこそ知るべき重要な情報をわかりやすく解説していきたいと思います。

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石川温(いしかわ つつむ)

日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、日経TRENDY編集記者としてケータイ業界などを取材し、2003年に独立。現在は国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップル、海外メーカーなども取材する。日経電子版にて「モバイルの達人」を連載中。Yahoo!個人で「スマホ業界新聞」を配信。近著に「未来IT図解 これからの5Gビジネス」(MdN刊)がある。

『石川 温の「スマホ業界新聞」』

【この記事は、Yahoo!ニュース 個人の定期購読記事を執筆しているオーサーのご紹介として、編集部がオーサーにインタビューし制作したものです】

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