出る杭でも打たれない 絵本作家・五味太郎に聞く

撮影/ナカンダカリマリ http://nakari5.tumblr.com

「自分の好きなことをやって、生活できたらどんなに幸せだろう――」。

多くの人が憧れる生活を何十年と続けている人がいる。絵本作家の五味太郎氏。

若い頃から、劇団の旅公演に参加したり、マネキン制作に携わったり、デザイナーとして活動したり。興味のある仕事を次々とやっていくうちに、いつのまにか絵本作家になったという。「子どものために」「教育のために」という考え方ではなく、絵本は「発見、発明」だと話す。楽しいことを見つけることの天才。好きなことをやり続ける達人。でありながら、商業的アーティストでもある。

28歳から絵本作家を始めて、71歳の現在、最新刊『きをつけて1・2・3』(童心社)まで、378冊。

これほどの著書数を誇る絵本作家は世界中どこにもいない。

作品は、日本国内にとどまらず、海外25か国で翻訳され、国内外で講演会にも呼ばれる。

独特のストーリー、言葉選び、色使い、デザイン、どれをとっても個性的で、五味太郎ワールドが展開する。子どもにこびることも教えることもない姿勢が、かえって、子供たちからの絶大なる信頼を受け、大人子どもにかかわらず、作品は人気を博している。

一番の特徴は、その枯渇することのない豊富なアイデア、奇想天外な発想力。それを裏付けるユニークな私生活。つねに沸き立つ好奇心を行動で試すという、直感的日常。

五味太郎という人の生き方は、現代のあらゆる問題にヒントをくれるのではないか?

そんな思いから、業界でも有名な一筋縄ではいかないという大御所に、初見ながらも果敢にインタビューを試みた。

(2016年4月~5月掲載記事)

Yahoo!ニュース個人 アプリ特別企画として、過去に掲載された記事の中から、今改めて読みたい厳選記事をお届けします。

世界中から愛される絵本作家・五味太郎氏。五味氏の姿にプロインタビュアーである佐藤智子さんが迫る、5本のインタビューをまとめたダイジェスト版をお送りします。絵本作家になった背景や、創作に対する意識、平和への思いには目からウロコの独特の発想力が感じられます。 

絵はsuper language

Q 五味先生が「ワクワクする人生を送っているまさに、代表者だなあ」という感じがするので、そういう憧れの、みんながいいなと思う人生を送っている方がどんな人なのかなというところで、今日はお話を聞きたいと思っているんですけれど。だいたい日本で1番じゃないですか。378冊の絵本を出されているのって。

A いやもう、世界で1番だよ、はっきり言って。

Q 自分としては何がウケていると思いますか、これほどまでも。

A 一番簡単なことを言うと、縛りがないんだよね、俺のやることって。これはもう、別に計算したことでもなんでもなく、あとでだんだん気がつくことだけど、やっぱ、絵なんだよね、基本は。

Q やっぱりそうですよね。

A 絵は基本的にsuper languageなんだよね。

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Q うーん。かっこいい。

A 「児童書」という世界があったんだよ。俺がやっているのは、「絵本」っていう世界なんだよ。picture book。で、辞書を引くとね、「絵本」を訳すときに、「children's book」って訳し方と、それから「picture book」「pictorial book」っていう訳し方がある。で、俺が今興味のあるのは、絵本なのね。

Q じゃあ、picture bookのほうですか。

A うん。絵で、どうやって表現して、それに文章なりストーリーなりをいろいろと加味ができる。加味しなくたっていい。つまり、絵でどのくらい表現できるのかなっていう、お楽しみをずっとやっていると、これがね、ガキまで読めるということなんだよね。

Q 字が読めない子たちにもね。

A うんうん。だから、逆に言えば、絵を読めない能力の人は読めないんだよね。

Q ああー。じゃあ、図らずも、絵本って子どもにまで読めちゃったっていうだけの。

A 最初の20年はそこの説得というか、ほったらかしておくのが面倒くさかった。よく議論があって、「これは誰のために?」「子どもたちに何を教えるんですか」って、「なんにもないんですよ」って話をずっとしていたんだけどね。それはもう、今も時々とぼけたやつがいるからね。「これ、子どもにわかるかな」とかって。「お前にわかんないだけだよ」(笑)。

Q なるほど(笑)。

A 真面目だから、日本の人は。

絵本作家になったのは色々やってみた結果

Q 「いつの間にか、絵本作家になっていた」という、話を聞きたいのですけれど。元はと言えば、何をされていたんですか。デザイナー?

A いや、そういう職業名みたいなものも適当なもんでね、あえて自分で言うならば、考えているのは好きなのね。ただ考えているだけだと、かっこつかないから、考えていることを落とし込む、いわゆるメディアが必要だよねって、思うじゃないですか。その考えているという形の手段を、建築という形のものを建築家はやる。絵描きは絵を描く。音楽の人は…。それをある思考の中を表現するというのは、ある程度原則的に同じでしょうね。表現するという形のものが、俺にとっては絵本という形をとったんだろうね。

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Q 表現者ですかね。何か資料で、最初、絵本作家になるまでに劇団の旅公演に行ったり、ほかにも、マネキンをつくったりしていたと。

A 他の人のやっていることは面白いじゃない。「何してるの? ちょっと俺にやらせろ」って。近所のペンキ屋さんとか。

Q そのチョイスは何がきっかけなんですか。

A なんもないよ。ぶらぶら歩いていると、なんかやっているじゃない。やってみたくないのが多いけど。時々やってみたいのがあるじゃない。

Q そう、そこが知りたいんです。たとえば、五味先生のやってみたいことってどんなことですか。

A それは、たとえばテレビを観ててもさ、サッカーのピーって笛吹くやつ、やってみたいなって思うじゃないですか。かっこいい。だって、ネイマールとか偉そうなのに、ビーってやって黄色いの出せるんだよ。「あれ、ちょっといいな」と思うじゃない。

Q サッカー選手のほうじゃなくて、笛吹いているほうが。

A 歌舞伎なんか時々観に行ったり、お芝居観に行ったり、オペラ観に行ったりする。それを観てて、いいなと思いながら、「俺、あれ、やってみたいな」って思うの、多いよ。

Q 今でもですか。

A 今でも。

Q 絵本作家は辞めたくないんですよね?

A 辞める辞めないじゃないもん、これは。絵本作家をやっているわけじゃないんだよ。今日も描いているんで、どうも「絵本作家」しか言いようがないなって感じ。

Q 一番やっていることが一応職業で。興味はいろいろあるということですよね。

A いろいろやってみる興味というのは、逆に言うと、「何が自分に合うのかな」っていう興味だよね。たとえば、ペンキ屋さんは面白いわけよ。ペンキ屋さんって、色塗るの大好きだから塗ってるんだけど、「この匂いがきついな」ってなるじゃない?

Q つまり、ペンキ塗りは面白いけど、匂いは嫌だとか、いろんな好きの中にもいろんな要素があって、どこを優先、チョイスするかということですか。

A それも、俺のキャパの中で、やっぱ自分で取捨選択しているんでしょうね、自由に。

Q それで、いろんな中で絵本っていうのはなんで残ったんですか。何が良かった?

A いや、だから結果なんだよ。

Q 何が一番、「あ、これが」と思ったんですか。

A 一人でやることでしょうね、やっぱし。それに気がついたってことよね。やっぱデザインは面白いけども、どうしても作業として最終的には。でも、この絵本だって、実のこと言えば、制作団体、企業、編集者がいてくれて成り立つ。具体的に言えば、製版の人がいて、印刷の人がいて、営業の人がいて、いろんな方にお世話になっているわけだけど、少なくともやる作業というのは、全く一人だっていう意味だよね。途中で「もしかして面白いかな」と思って、子どもの人形劇とか、舞台とかつくったり、映画つくったこととかあるけど、人がいっぱいいると、A型なのかな、やっぱり人のこと、気になるんだよな。

売り込んだ出版社に運命の出会いがあった

Q いつぐらいから、自分のやりたいようにやれるようになりました?

A スタートの頃からだな。

Q えっ、だってまだ、駆け出しだったときは? 編集者が「こういうふうに描いてください」とか。

A ないない。そんなの、はじめからないもん。そういう売り方しないもの、俺。はじめから、俺の作品を持っていって、「これ、買ってください」ってだけだよ。「買えません」って言うから、「はい。さようなら」って感じよ。「寂しいなあ」と思いながら。

Q じゃあ、この378冊は、すべて両想いということですか。自分がやった、自分がアクションを起こしたことに対して、「いいよ」って言ってもらえたってことですよね?

A そうそう、そうそう。だから、そういう人に割と早めに会えた幸せってすごいよね。最初に。3~4人に。だから、今、編集者って人には一目置いているわけ。

Q それが『きんぎょがにげた』(福音館書店)とかあの辺ですか。

A もちろんもちろん。だから、もう最初の頃に、『みんなうんち』(福音館書店)みたいなものっていうのは、福音館書店で。福音館書店っていうのは、それまでっていうのは、合意性という形で、みんなが賛成するって形のもので、出版の合否を決定するっていう出版会議っていうのも必ず持っていた。で、月刊誌もずっとつくっていたからね。その中で、10人の中で2対8だったんだよね。

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Q どっちが2なんですか?

A 賛成、出そうっていうのが2で、8が反対。

Q それはどういう意味で反対だったんですか。教育的じゃないということ? どういう意味でダメだったんですか。

A ていうより、うんちを扱うにしては、もう少し扱い方がある。その辺はよくわからない、俺には。ただ、俺は面白いと思って、2人が面白いと思ったんだけど。その2人がとっても出したいと言って。だから、「私の裁量で」という形で。幼稚園に配布するような月刊誌で。7月、8月で渡しちゃうんだよね、夏休みだから。「この辺なら、あんまり問題を起こしそうにないから、8月号にやっちゃいましょう」って出たんだよ、あれ。

Q はああー。その8人の反対を押し切って、責任を持ってやってくれた。

A それぐらいに力のある方がいたっていう、ラッキーっていうことなんだよね。その方ともう一人の方が「絶対に推す。これは出すべきだ」って。だから、みんなにもいろんな意見があったってことは間違いないわけよ。

自分の世界に文句つけさせない人は臆病

Q 編集者の人たちとちょっと意見が合わないとか、もめるということはなかったですか、今まで。

A いっぱいある。編集者もなんか言わないとバカだと思われるじゃない。

Q はは。全部OKだとね。ちゃんと、読んでんのかってなっちゃいますもんね。

『みんなうんち』のときとか、もうちょっと、これをやわらかい表現にしてくれとか、そういう修正箇所は。

A それも俺の中で「それはあるかな」と思ったけれど。判で押したように、すべてのものはキャンセルするんじゃあ全然ない。だから、「これはちょっとちっちゃくしたいな」とか合理的な問題があるよね。あるいはその、「ここはポンと飛びすぎているかなあ」俺も「どうかね?」って相談するような、まあ一緒にやっているんだよね、実際。

Q わがままをやってきたとしても、相手を全く受け入れないわがままさじゃなくて、納得いくまで、ちゃんと話をしていくということができるってことですよね?いわゆるその、やりたいことをやって、もう誰も何も文句を言えないってわけじゃなくて、ちゃんとこう、話をしていくというか。

A 「それほど臆病じゃないよね」っていう言い方だよね。自分の世界を人に文句をつけさせない人は臆病なんだよね、みんな。アーティストってそういうの、多いよね。

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Q 多いですよ。

A だから、それは、一つには、そういう生まれつきの性格みたいなの。簡単に言うと。出版社のあるリスクの中で彼らが判断しなくちゃいけないことなんだよね。ただ、その判断のとこについてはいろんなケースバイケースがあって、その判断については、俺の中では別に。「ここをすると、こうなんですけど」って言ってくる編集的な意見っていうのは、あんまり合理的じゃないのが多いんだよね。

Q はあー、なるほど。

A それもね、さらに言うとね、どんどん簡単になっちゃうんだけどね、この世界に、これが好きで得意でやっている人ってのは非常に少ないってことなのね。

たとえば、気の毒に、バスの事故が起きてしまうということが、かなり頻繁に起こる世界。ずっと突き詰めていくとね、バスの運転手さんが、疲れようが疲れまいが、あんまり好きじゃないんだよね、バスの運転が。誤解を恐れずに言うと、好きなことをやっている、その実力が伴っている現場って、そんなに事故って起きないんだよね。

Q 確かに。

A なにしろ図式的に言えば、「頑張って、この世界を一個つくりました」ということがスッとわかる人っていうのは、「この世界をなんとかしてあげたい」って次に思う。俺もそうだよね、逆に言えば。

Q そうですね。だから、そういう生き方をみんなが、それぞれにできたらいいなあと。

自分のやりたいことを突き詰めるか・相手に合わせるか

Q ただ一方で、好きなことははっきりわかって、やっているんだけどね、なかなか認めてもらえない、アーティストで。たとえば、個展をやっても誰も来てくれないとか。

A それは時の運だよね。

Q 自分が描きたい絵を描くけど、誰も見てもくれない、買ってもくれない。じゃあ、自分のやりたいことを突き詰めるのか、みんなが買ってくれるほうに寄せていくのか。世の中的にかわいいのが流行っていると、かわいくしてみるとかね。本当はグロテスクなのをやりたいけど、かわいくしてみるとか、そういうふうに、自分をこう、やりたいことをやっていって疲弊していって、人生的にもう疲れちゃうっていうのと、ちょっと相手に寄っていきながらでも自分を変えていくというのは、どうですか。必要ですか。

A その人の人生だから、いいんじゃないの。どうでも(笑)。どうでもいいと思うよ。

Q 五味先生はこういうことはしてこなかったわけですよね?

A うーんと、してこなかったのかなあ。

Q なんかこう、自分を変えていって、やりたくないけどやってみようかなって感じで、変えていったこともあるんですか。修正していったりとか。

A 必要ないからね、あんまり。

Q でも、作品を読んでいると、私、思ったんですけど、結構、出版社によって変えられているような。この出版社は言葉が多い、この出版社は絵がカラフルとか。

A 逆なんだよね。描いてみて、一番いいのはどれかと考える。思いついて描き始めるでしょ。それで、描いてる途中に、「これ、どこの出版社がいいかな」と思うんだよ、俺。それが俺の贅沢だよね。

Q わあ、なるほどねえ。

A この軽いノリというか、つまり、俺はいろんなキャパがあるから、「これ、最近仕上がったから、ちょっとこっちへ電話してみよう」と思うわけ。ちょこっと電話してみて、「今、こんなのやってんだけどさ」って。たとえば、絵本館というのは、だいたいふざけたシリーズを(笑)、これ描いていると、「これ、絵本館かなあ」って思う。

Q はあ、ちゃんと自分の中でいろんな考えがあって。

A そうそう。だから、旅行行くみたいなもん。ぼんやりしているとき、「ちょっと気合入れてニューヨーク行こうかな」っていうのと同じ。それが俺の贅沢だよな。それが、長くやっているうちに出てきている。そうすると、それを選択。つまり、なんつったらいいの? 

Q わかりますよ。

A 自分の作業の相手みたいな感じ。

Q それを選んでいるってことですね。

A うーん。そういうことができるようになった。それも、初めからじゃないけども、だんだん傾向として。だんだん育っていくことだからね。まわりとかも。

Q でも、最初の福音館書店みたいに、圧倒的に「これはいいんじゃない」って思ってくれた人がバックアップしてくれていると、それが多数派になっていくわけですよね。

A だよね。だから、その出し方とかそういうことも。だって、今、俺が考えて俺が好きなことを、それこそ戦時中だったら、殴られるよな。そうでしょ? だから、時代ってある。つまり、需要供給になっちゃうわけ、今度は。

Q そういう意味ではいい時代。だって、五味先生がお生まれになったのって、ちょうど、終戦後ですよね。1945年8月20日生まれ。

A ラッキーっていう形は人生につきまとうよね、どうしても。

絵本は発明だからマネできない

Q 私の知り合いだけでも、絵本作家になりたくて、絵本作家講座みたいなのに通っている人が3人くらいいるんですよ。

A それはなんないね、絶対にさ。

Q そんなあ、すっぱりと言わないでください(笑)。

A 絵本みたいなものは描ける。でも、絵本は描けない。

Q その違いを教えてください。

A だって、全部、発明、発見でしょ? 絵本って。形からもそうだし、その語り方、表現の仕方はもう、発明品なんだよね、その人の。それがないかぎり、作品としては存在し続けられないよね。

Q なるほど、習って、絵本ってこういうものだよって教わってやっても枯渇しちゃうってことですか。

A 枯渇よりは、えーっと、なんつったらいいんだろう。存在し続けられないと思うんだよ…

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どうやら。今残っているものを、逆算してみると、みんな、「その人が変なことを考えたんだなあ」って思うぐらいに圧倒的だった。ところが、時代が過ぎると次第に収まるんだけど。「なんでこんなこと描いたんだろうね」っていうのはね。たとえば、童心社の話をすると、『いないいないばあ』(童心社)っての、見てごらん、あれ。大変だよ。気狂うぐらい、楽しいよ。

Q 大ヒットですよね。

A そのときも非常に模索したんだよね。どうやって描くんだろうって。いろいろ描いてみたんだろうな。それで、家族にウケたとかな(笑)。そんなんでいいんだよ。「『いないいないばあ』って、絵本になんかなるだろうか」って、たぶん思ったと思うよ。編集者も「どうなのかな?」って思ったと思うわけ。事件なんだ、要するに。

Q 絵本ていうのは、オリジナルなだけじゃなくて、パイオニアでないといけないということですか。

A そう。それは絶対。一個ずつが、ちっちゃいパイオニアじゃないと。だから、その「今、こういうもんが売れているんだよね」って「この傾向の」っていうのは、やっぱり、一過性にある程度の商業活動はできるだろうけど、やっぱりなくなっていく、間違いなく。

若い人へ。お前の人生はお前の人生

Q 若い人と元気がない人と、やりたいことがわからない人にメッセージを。

A 全然、興味ない、そういう人は。ほんとに。

Q 自分で考えてってことですか?

A いやいや、だって、その人たちは何か理由があったと思うよ。元気が出ない理由。それを俺がわかるわけないじゃん。

Q 確かに。でも、その元気がない人が子育てしてるんですよ。世の中出てるんですよ。どうしたら、元気が出るんでしょうか。

A もう探すしかないじゃない、実際、自分で。はっきり言って、根本の根本、「お前の人生はお前の人生でしかない」っていうところが叩き込まれてないんだよね。それは、アフリカの動物なんかみたいに、やつらが気楽なのは、自分で生きてくっていうのが基本になっているわけじゃない。食われちゃったりするわけだから。ところが、なぜか知らないけど、ヒトっていうのは、みんなで生きているような錯覚に陥るのが弱いわけ。結果、現象として、みんなで生きてるんだけど、基本の「お前の命はお前の命なんだもんな」っていうのがなくなる。

Q なるほど。

A だから俺、おじいさんの孤独死なんて、「孤独死」なんて失礼な話だと思うよ。死ぬのみんな、孤独死だよな。

Q ああ。つまり、世の中が共存するって、仲良く手をつなぐんじゃなくて、一人ひとりの個体として生きて、結果的に共存するというか。

A いや、だから、そうせざるを得ない生物でしょ。だから、仲良く、という図式の中で思い込みすぎちゃっている。また、そういう教育しているから。人のために生きてるみたいなことがあるんで、わかんなくなっちゃうんだよね。だから、今、弱い人にみんなで励まして強くして、どうすんの?

Q なるほどね。

A 俺、責任もてないもん。そいつら、急に元気になっちゃったら。

Q きゃははは、確かに(笑)。みんな、ハイテンションになったら(笑)。

A いや、だって、あとは、その人の趣味だから。その人の感覚だから。

自分が楽しくて、好きなことをしているかぎり戦争は起こらない

A 「基本的に、自分って暗い人間じゃないかな」って思うこと、よくあるもの。俺、暗いと思うよ。

Q そうですか。

A うん。いろいろ考えているよ。戦争のこととかさ。

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Q たとえば、五味先生の本は、25か国で翻訳されている。こんな人いないじゃないですか。発信力のある絵本作家って。だったら、ちょっと平和っぽいことを入れてみようとか、そういうこと、思わないですか。

A 全然、思わない。

Q あらー、残念。

A 俺は平和っていうのは、「俺は暗いのかな」と思うのは、平和な状態って考えてる。つまり、たぶんみんな、「戦争がない状態」と思っていると思うんだよね。戦争のないのが平和だって。そんな図式じゃないもの。「平和ってどんなこと?」っていう話を、のんびり描けないもん。平和っていいねとかいう本も売りたいのかと、バカげている。でも、今、あなたが言ってること、やってるよ。時間はかかるけど。それは、

Q それは?

A 自分が楽しくて、好きなことをしているかぎり戦争は起こらない。戦争の表面的な抑止力って、戦争に行く暇がないってやつが51%を超えたら、起こりえない。

Q みんな、やりたいことがちゃんとあって。

A 大事な仕事を置いてまで、戦争なんかに行く暇がない。戦争がどこで起こっているのって考えたら、逆の図式、失業者が多いところ。要するに、生活が充実してくる人が、少なくとも51%を超えたら、世界って「平和になる」んじゃないけど、「充実するよ」っていう意味だよね。

Q なるほど。いい話ですね。

A でしょ?

Q 一人ひとりが充実した生活をしてたら、戦争してる暇もないと。

A 俺の本ね、イスラエルの出版社からも出てるんだよ。そのイスラエルのおばちゃんと結構仲良くて、「先生、イスラエル来てよ」「やだよ。あんな、戦争起こして」「なんの話?」って言うわけ。「だって、おたく、戦争してんじゃない」って言ったら、「えっ、ああああ。西のほうの暇な人?」つってたよ。西のほうってなんにもやることないんだって。だから、それが今、カザフスタンの話になり、パレスチナの話になって。あれ、はっきり言って、やることがない。それが、彼女の実感だと思う。「上はいいわよ。北海道みたいよ。いらっしゃいよ」「行こうかな」て思って。

Q ですね。だからこそ、一人ひとりが充実して、ワクワクする好きなことをやって。

A そう。結局はそういうことなんだよね。

Q すごくいいお話をたくさん聞かせていただきました。ほんとに、素晴らしいお話ばかり。ほんとに、ありがとうございました。

執筆:佐藤智子

五味太郎氏インタビュー完全版はこちら

「出る杭でも打たれない」絵本作家五味太郎に聞く1~人の役に立ちたい人が一番役に立たない

「出る杭でも打たれない」絵本作家五味太郎に聞く2~誰もが絵本みたいなものは描ける。でも絵本は描けない

「出る杭でも打たれない」絵本作家五味太郎に聞く3~子どもから心配される親になりなさい

「出る杭でも打たれない」絵本作家五味太郎に聞く4~友達っていうのがほしいのは、助けてほしいんだよね

「出る杭でも打たれない」絵本作家五味太郎に聞く5~戦争に行く暇がないってやつが51%を超えたら……