「割り箸は危険」都市伝説の起源と進化(笑)

まずは、写真を見てほしい。冒頭には

「中華スープに割り箸をつけたとき、モワッと何か白くにじみ出るのが見えた。」

ここを読んで、ああ、最近このニュースが週刊誌やネットの世界でよく紹介されているな、と思った人がいるかもしれない。中国製は食品だけでなく、割り箸も危険なんだ……。

残念でした。この記事は、2007年8月17日号の「アエラ」である。7年も前のものなのだ。最近流れているのは、主に「週刊大衆」の記事のようである。

「上海のレストランで食事をしていた一般客が、割り箸を澄んだスープに入れたら、瞬く間に濁ったことから発覚しました。報告を受けた当局が調査のために割り箸を水槽に入れたら、元気に泳いでいた金魚が、ぷっかり浮かんできたそうです」(通信社中国特派員)

(2014年8月10日掲載記事)

Yahoo!ニュース個人 アプリ特別企画として、過去に掲載された記事の中から、今改めて読みたい厳選記事をお届けします。

2014年に「中国割り箸危険論」が湧き上がったのを覚えていますか? この割り箸批判、実は1940年代から形を変えつつ都市伝説的に繰り返されているようです。森林ジャーナリストの田中淳夫さんがその起源と変遷を解説、伝聞のみの判断に警鐘を鳴らします。

また今回の掲載にあたり、国産割り箸に目を向けた新たな取り組みについて田中淳夫さんが記事の最後に追記しています。

これはネットで公開されたものだが、私はほかにも目にしたことがあるから、このところ、いくつもの媒体で取り上げられているのは間違いない。いずれも伝聞で場所も時もはっきりせず、そして匿名だ。

しかも、今回が初めてのスクープ?ではなかったのである。

割り箸危険論の登場を探ると、アエラの記事の前に、日経ビジネスオンラインの2007年8月24日配信にも割り箸の記事があった。これは「中国・キタムラレポート」で、こちらはちゃんとネタ元を記している。大連市の新聞「半島晨報」だ。

こちらで問題にしているのは割り箸の品質保証期限の遵守だが、その中で割り箸の中には「漂白」や「乾燥」「艶出し」、そして「防カビ」に化学薬品などを使っているケースがあることも記している。この新聞は、全体にしっかり取材した様子が伝わる。

割り箸批判の起源をたどると、かなり古い。古くは、1940年に軍から出た「割り箸不要論」である。それは軍船をつくる木材が不足しているのに、割り箸のように木材を使い捨てしているのがケシカランという内容であった。木材は軍需物資であり、無駄遣いを嫌われたのだ。

だが、政府による調査も行われて、割り箸は製材時の端材から作られていることがわかると鎮静した。

戦後は、1960年代から幾度も「使い捨ての割り箸はもったいない」と割り箸不要論が起きる。たいていマスコミが火をつけて、一時は盛り上がるが、数カ月で鎮静化する動きの繰り返しだ。これらは、皆「使い捨て」の是非がテーマであった。

その根底には、割り箸が日本の森林を浪費しているのではないかという認識がある。

少し様子が変わるのは、1989年に公表されたWWF(世界自然保護基金)の「割り箸が熱帯雨林を破壊している」という資料だ。正式なレポートではなかったが、一度報道されると、またたくまに広まった。国内の森林ではなく、海外の森林を取り上げたところに「新しさ」がある。

しかし、割り箸は熱帯地域の木で作られることはほとんどないことがわかる。そこで次のターゲットとなったのは、中国の森林であった。日本の割り箸の多くが中国産であることが知られだしたからだろう。割り箸が中国の森林を破壊しているとした。(もっとも、現在の中国産割り箸の多くは、ロシア材を使っている。)

以後、1990年代に割り箸批判は強まるのだが、そこでは「割り箸は森林破壊」がテーマとなった。

それもやがて鎮静化するが、2005年に再び火がついた。それは中国の要人が「割り箸を全面禁輸する」と発言したことからだった。つまり割り箸を使えなくなることを危惧して、割り箸の代わりに塗り箸を使おうという運動になったらしい。その理由としては、やはり世界的な森林の減少が指摘された。

もっとも、全面禁輸はまったく実行されなかったのだが。

ただし、割り箸の消費量は激減した。2007年当時に年間約250億膳使われた割り箸は、現在190億膳程度である。代わって増えたのは、塗り箸ではなくプラスチック箸だ。主に外食産業が割り箸から切り替えたからだ。石油製品であるプラスチックは、環境破壊ではないと考える人が増えたのだろうか。

ここ数年、またもや割り箸批判がぶり返し始めた。

今度のテーマは「環境」というより「安全」である。とくに中国産に対する攻撃だ。中国の食品に次々と起こる安全疑惑に連動するかのように割り箸批判も起きている。

ちょうど毒入り餃子事件やメラミン粉ミルク事件が起きたりしたことが、中国の食品擬装が問題となり、中国の食品は、残留農薬や添加物がいっぱい、不衛生な製造過程である、と怒涛のように批判された。すると一緒に割り箸も取り上げられるのである。

どうやら割り箸危険論は、繰り返し登場する都市伝説のようなものらしい。

ただし、時代に合わせて理由は変わる。単に「木材がもったいない」だけでなく、森林破壊になったり、安全になったり。

「ファストフード店のハンバーガーに使われているのはミミズ肉」という都市伝説が、ときにネズミ肉になったり、3本足のニワトリになったり、中国産期限切れ肉になったり(あ、これは伝説ではないか……)するようなものだ。

いずれにしても、時流に乗って、割り箸批判も行われているのだ。資源不足や国の内外の環境問題。今は食の安全に加えて中国たたきの材料として格好のターゲットになったというわけだろう。割り箸批判も“進化“するらしい。

もし、本当に割り箸が危険だと思うのなら、自ら実験をしたらどうだろう。割り箸を水につけると白いものがにじみ出るか。金魚が死ぬか。非常に簡単で誰でもできる。手間も金もかからない。そして確認できてから騒ぐといい。(本当に確認できたら、大スクープだ。)

何もしないで伝聞・匿名で批判を垂れ流すのはみっともない、というより情けない。

※※2016年9月追記※※

割り箸不要論は、今もあちらこちらに散見する。ただ、単に割り箸を不要というだけでなく、国産割り箸に目を向けた新たな動きも起き始めた。

中国産がイヤという反動からか、国産ならよいのでは、という声が出始めたのだ。それには「国産割り箸は端材や間伐材から作る」ためもったいなくない、森林破壊につながらず、「薬品を使わないので安全」という情報が広まったこともあるかもしれない。

外食産業の中には、プラスチック箸を国産割り箸にもどす動きも起きている。

一方、国産割り箸の生産は、既存の産地では縮小が続いている反面、北海道、東京、岐阜、福島、広島、宮崎……などに、新たな割り箸メーカーが誕生し始めた。

生産量はまだまだ少ないが、なかには新たな売り方・使い方を提案する動きも現れている。

割り箸は、もともと身近に触れられる素の木工品であるし、箸袋を消費者に直に届く広告媒体としても使える。それらの点に目をつけ、環境や林業振興、さらに木育などのアイテムとして取り入れられ始めたのだ。また生産も、コストダウンのためもあって、授産施設と提携するなどの方法が取り入れられ、地域の雇用にも貢献するなどされている。

福島県いわき市の株式会社磐城高箸は、地元産のスギ材を使って高級割り箸を生産している。東日本大震災の被害を乗り越え、障害者施設に検品などの仕事を発注する。

デザインにこだわった箸袋や、売上の一部を震災被害地に寄付する仕組みを謳い、最近では、台湾など海外輸出にも取り組んでいる。

とくに「3県復興希望のかけ箸」は数々のコンクールで賞を受賞した。主なものだけでも、

・平成23年度 全国間伐・間伐材利用コンクール 間伐推進中央協議会長賞

・平成25年度 グッドデザイン賞

・平成26年度 ソーシャルプロダクツアワード

・平成27年度 ウッドデザイン賞

と、大きな賞が並ぶ。

割り箸不要論も、外国産と国産を分けて考えるようになったのは進歩だろう。

国産割り箸が、誤った世間のイメージを払拭し、割り箸こそ精巧な木工品であり、日本の食文化を支え、地域に貢献できるアイテムだということを知らしめたら、新たな可能性が広がるかもしれない。

ちなみに、いまだに自ら割り箸を水に漬ける実験をして「白いものがにじみ出た」という報告は、私のところに届いていない。

執筆:田中淳夫