天皇陛下の年頭所感を読む

2016年、天皇陛下が国民に向けお気持ちを表明(写真:アフロ )

毎年、年の初めに発表される天皇陛下の所感。戦後70年となる今年(2015年)は、戦争がもたらした多くの犠牲に触れ、「満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、今、極めて大切なこと」と述べられた。

過去にしっかりと向き合い、そこから教訓を学び、2度と悲惨な戦争の当事国とならないよう、この機会にしっかり考えていこうという呼びかけと、私は受け止めた。ただ、新聞によっては、なぜか「歴史を学び」という言葉を見出しから割愛し、「日本のあり方考える機会」(読売)「日本のあり方考えていくこと極めて大切」(産経)としたところもあった。

ふと思い立って、今上陛下が天皇となられて最初に迎えた平成2年(1990)から今年に至る26回の年頭所感をすべて読んでみた。

(2015年1月2日掲載記事)

Yahoo!ニュース個人 アプリ特別企画として、過去に掲載された記事の中から、今改めて読みたい厳選記事をお届けします。

日本中をかけめぐった天皇陛下の生前退位に関するニュース。ビデオメッセージで届けられた陛下のお言葉のひとつひとつに、多くの日本人が耳を傾けました。

戦後70年の節目に掲載された、オーサー・江川紹子さんによる「天皇陛下の年頭所感を読む」の記事からは、改めて陛下のお気持ちが伝わってきます。今回の掲載にあたって、今年8月の天皇陛下のおことばをどのように聞いたか、江川紹子さんが記事の最後に追記しています。

これまでの26回で「経済」という言葉が15回も使われているのは、意外だった。「厳しい経済状態」を案じ、人々を励ます発言が多い。陛下のお言葉から、その時々の社会状況が思い起こされる。

特に多いのは災害への言及。言葉としても、「災害」19回、「被災」11回、「震災」10回のほか、「台風」「豪雨」「雪」なども5~6回出て来る。2012年以降は、3年連続で「放射能汚染」という言葉が使われている。原発事故に対する陛下の強い関心と被災者を案じるお気持ちが伝わってくる。

戦争と平和に関わる言葉も多い。「平和」は12回、「戦争」6回使われ、世界各地の戦争や紛争にも言及されている。戦後の節目となる年については、必ず日本の戦争について語られている。戦後50年となった平成7年(1995)には「この節目の年にあたり、過去を振り返り、戦争の犠牲者に思いをいたすとともに、今日の繁栄を築いた人々の労苦をしのび、改めて世界の平和を祈りたい」と述べられた。さらに翌年にも、前年に印象深いこととして戦後50年を挙げられた。

戦後60年については、翌年の平成18(2005)年の所感の中で触れられた。ほかに、平成10年(1998)には「昨年は、日本国憲法施行から50年、沖縄返還から25年の節目に当たり、我が国の歩んできた過去を振り返った」と語られている。平成15年(2003)には、平和条約発効50年に言及された。

そうした発言での、過去を「振り返り」、犠牲者に「思いをいたす」という表現に比べてみると、今年の「歴史を充分に学び」という言葉に、陛下がどのような思いを込められたのかがうかがわれる。特に、「満州事変に始まる戦争の歴史」と具体的に述べられたのは、対米戦争だけでなく、アジアにおける日本の戦争の歴史を学び、そこから教訓を学ぶことの大切さを、あの戦争を知る者として伝えたい、という強いお気持ちゆえではないだろうか。

新年に発せられたお言葉を通して読んでいくと、折に触れて過去を顧みて、今と未来を考える、という陛下の姿勢や、今回のお言葉に込められた思いもお気持ちが理解できるように思う。以下に全文を引用するが、お言葉の後の〈〉内は、その年の状況を思い起こす手がかりとして、主な出来事をいくつか江川がピックアップして紹介した。

*     *     *     *     *     *    

平成2年(1990)

昭和天皇をおしのびして、日々の務めを果たし、国民の幸福を心に思いつつ過ごしてきました。昭和天皇の崩御に始まるこの一年は、誠に事多く、感慨深い年でありました。

新しい年を迎えるに当たり、国民生活の一層の充実と、わが国が、国際社会の一員として、謙虚に、世界の平和と繁栄に貢献していくことを願いつつ、務めを果していきたいものと思います。

〈この年2月第2次海部内閣発足、11月に即位の礼。10月に東西ドイツが統一〉

平成3年(1991)

昭和天皇の一年祭に始まり、即位の礼に関連する行事で終わった一年でしたが、諸行事が多くの人々の協力により、滞りなく行われたことを感謝しています。

一年を振り返ると、国の内外誠に事多い年でした。災害も多く、90人以上の人々が集中豪雨、台風、竜巻によってなくなったことを非常に残念に思います。

新しい年が我が国民にとって、また、世界の人々にとって、幸せで平和な年となるよう願っています。

〈この年1月湾岸戦争、12月ソ連邦崩壊。バブル崩壊始まる。6月雲仙普賢岳の大火砕流、11月宮沢内閣発足〉

平成4年(1992)

この一年を振り返ると、世界では誠に事多く、大きな変化があった年でありました。この世界で起こっている大きな変化が、平和にうちに、すべての人々にとって良い方向に進んでいくことを願っています。

国内では雲仙普賢岳の噴火、集中豪雨、長雨、台風による災害で、人命が失われ、また、農林業などが被害を受けたことは残念なことでした。

新しい年が我が国民にとって、また、世界の人々にとって、幸せな年になるよう願っています。

〈この年3月にボスニア・ヘルツェゴビナ紛争、7~8月にバルセロナ五輪。6月にPKO協力法案成立。10月両陛下が初めて中国訪問〉

平成5年(1993)

この一年、世界の各地で局地的戦争とそれに伴う多くの犠牲者生じ、平和な年とは言いがたかったことは残念なことでした。

昨年が自然災害による犠牲者の最も少ない年となったことは、自然条件が良かったばかりでなく、関係者の努力に負うところも大きかったことと、深く多としています。

厳しい経済情勢により、苦労の多かった人々にとって、幸せな年になるよう願っています。

〈この年の1月クリントン米大統領就任、7月カンボジア暫定政府発足、9月オスロ合意。4月両陛下が初めて沖縄訪問、6月皇太子殿下結婚、7月北海道南西沖地震で奥尻島が津波被害、8月慰安婦問題に関する「河野談話」、細川内閣発足〉

平成6年(1994)

この一年は、厳しい経済情勢の中、冷夏に見舞われ、更に、地震や集中豪雨により400人を超える死者行方不明者が生じるなど、誠に多難な年でした。災害を受けた人々が立直る日の早く来ることを深く念願しています。

世界においては、依然局地的紛争により多くの犠牲者が生じており、非常に残念なことですが、カンボジア情勢など明るい方向に向かう兆しも見られることは喜ばしいことです。

新しい年が我が国民にとって、また、世界の人々にとって、幸せな年になるよう願っています。

〈この年4月羽田内閣発足、6月村山内閣発足、松本サリン事件〉

平成7年(1995)

新しい年が、日本及び世界の人々にとって、幸せな年であるよう願っています。

50年前、日本の国民は最も厳しい戦争の終局を迎え、戦後は困難な復興を果たしつつ、世界の国々との関係の改善に尽してきました。この節目の年にあたり、過去を振り返り、戦争の犠牲者に思いをいたすとともに、今日の繁栄を築いた人々の労苦をしのび、改めて世界の平和を祈りたいと思います。

〈この年1月阪神淡路大震災、3月地下鉄サリン事件、8月村山談話〉

平成8年(1996)

戦後最大の災害となり、多くの人々に深い悲しみをもたらした阪神・淡路大震災から一年がたとうとしています。この一年、被災者には、肉親や知人を亡くし、あるいは住む家を失った悲しみに耐え、懸命に生きてこられました。寒さの一段と増す折から、厳しい環境にある被災者、特に、高齢者の健康が案じられます。被災地の復興が一日も早く成し遂げられ、人々の生活が安らかになるよう念願しています。

昨年は、戦後50年という節目を迎え、様々な行事が行われました。私ども皆にとり、戦没者を悼むとともに、過去の歴史に対する認識を深め、平和への願いを新たにする意味深い年であったと思います。

夏の始めには、長雨が続き、一昨年の冷夏を思い返し案じていましたが、天候が回復し、多くの地域で農作物の作柄が順調だったことは喜ばしいことでした。

新しい年が我が国民にとっても世界の人々にとっても幸せな年であるよう切に希望いたします。

〈この年1月橋本内閣発足、12月ペルーの日本大使館公邸占拠事件(解放は翌年4月)〉

平成9年(1997)

今もペルーの日本大使公邸で、人質として厳しい生活を送り、家族と共に新年を祝うことが出来ない人々のことを思うと本当に心が痛みます。すべての人質が無事解放される日の一日も早いことを願ってやみません。

様々なことが起った一年であり、国民生活の一層の充実のために解決されるべき課題も残されていますが、この一年を顧み、それを明日の糧として、明るい未来が築かれていくことを望みます。

新しい年が我が国民にとっても、世界の人々にとっても幸せな年であるよう念願しています。

〈この年2月頭でいわゆる酒鬼薔薇事件。4月消費税5%。証券会社の破綻が相次ぐ。12月球温暖化防止京都会議で京都議定書〉

平成10年(1998)

昨年は、日本国憲法施行から50年、沖縄返還から25年の節目に当たり、我が国の歩んできた過去を振り返った年であるとともに、地球温暖化防止京都会議が開催され、環境という視点に立って地球の将来に目を向けた年でもあったと思います。

厳しい経済情勢の下で、国民生活には今後とも様々な苦労があることと案じていますが、国民が互いに助け合い、世界の人々と共に、より良い未来を築くために力を尽くしていくことを期待しています。

年頭に当たり、本年が国民にとって良い年となることを念願し、皆の幸せを祈ります。

〈この年2月長野オリンピック、7月小渕内閣発足〉

平成11年(1999)

昨年は長野オリンピック冬季競技大会という若々しく明るい祭典で幕を明けました。我が国の選手の目覚ましい活躍の様子は今も多くの国民の心に残っていることと思います。しかし経済情勢の推移や自然災害の発生により、国民生活が厳しさを増したことは深く心にかかるところです。

世界においても大規模な自然災害の発生や厳しい経済情勢が多くの人々に苦難をもたらしました。このような状況下、世界経済や地球環境など様々な面で国境を越えた協力がますます重要になってきていることを感じます。世界の諸国民が互いの絆を大切にし、協力し合っていくと共に、国民の一人一人が困難の中で支え合い、より良い未来を目指して努力していくよう願っています。

新しい年が我が国民にとっても、世界の人々にとっても幸せな年となることを切に念願しています。

〈この年1月にユーロ導入、3月NATOユーゴスラビア空爆を開始、8月トルコ大地震、9月台湾大地震。8月国旗国歌法成立〉

平成12年(2000)

昨年一年、我が国は引き続き厳しい経済情勢下にあり、これは人々の生活にも様々に影響したことと思われます。また、世界各地で大規模な自然災害や地域紛争があり、多くの人命が失われたことは痛ましいことでした。

新しく迎えたこの年に、国民皆が互いに助け合って当面の困難を克服し、また、世界の人々と共に平和を求め、健全な未来を築くために力を尽くしていくよう願っています。

20世紀最後の年が、我が国の人々にとり、そして世界の人々にとって、明るく幸せなものとなることを祈ります。

〈この年4月森内閣発足。3月有珠山噴火、8月三宅島噴火。9月シドニー五輪、11月米大統領選は接戦をブッシュ氏が制す〉

平成13年(2001)

21世紀に入りました。過ぎ去った20世紀を顧みつつ、新しい年を過ごしていきたいと思います。

現在の我が国は、高齢化への対応や経済の回復など、様々な課題を抱え、人々の生活にも様々な苦労の多いことと、思われます。この困難を越えていくことによって、より堅実で心豊かな社会が築かれていくことを信じています。国民の一人一人が、互いの絆(きずな)を大切にし、更によい未来を目指して助け合っていくことを切に望んでいます。

平和や環境など世界の問題についても、国民が、他国の人々と協力し取り組んでいくよう期待しています。

本年が我が国と世界の人々にとって幸せな年となることを念じています。

〈この年4月小泉内閣発足、8月小泉首相が靖国神社に参拝。9月米国で同時多発テロ、10月アフガン戦争〉

平成14年(2002)

昨年は、同時多発テロという悲惨な事件が起こり、日本人24人を含み、3千人を超える死者行方不明者が生じました。この事件により、米国、日本を含む各地の経済情勢は、今一層の厳しさを増しています。世界の安定と平和を維持するため、国々の間に更なる友好と協力が強く求められていることを感じます。

現在、日本は、厳しい状況下にありますが、戦後の苦難を克服した国民の英知と努力を思い、国民がこの困難を必ず乗り越えていくものと信じています。

本年が、日本と世界の人々にとって、明るい兆しの見える年となることを祈っています。

〈この年9月日朝首脳会談、拉致被害者5人帰国。10月バリ島爆弾テロ、モスクワ劇場占拠事件〉

平成15年(2003)

厳しい経済情勢の続く中、新しい年を迎えました。

振り返ると、平和条約が発効して初めて迎えた新年がちょうど50年前になります。この50年間に今日の日本を築くために人々が払った非常な努力に思いを致し、より良い未来を求めて皆で力を尽くしていきたいと思います。

国民の生活には様々な苦労や困難があることが察せられますが、今年が一人一人にとって少しでも良い年となるよう願っています。

〈この年3月米国がイラクに侵攻(イラク戦争)、日本人外交官殺害。5月宮城県沖地震、9月十勝沖地震。7月イラク特措法成立〉

平成16年(2004)

大勢の人々が病気のことを心配してくれ、また、古希を迎えたことを祝ってくれたことに、深く感謝しています。

昨年は、冷害に加え、集中豪雨、台風、地震の災害が起こり、また、日本の経済や社会に厳しい状況が続きました。海外でも日本人を含む幾多の人命が失われるという悲しい出来事がありました。苦労多く、心の痛む日々を送ってきた人も多いことと深く察しています。

新しい年に当たり、人々の幸せと日本の更なる発展のために、皆が互いに助け合いながら力を尽くしていくことを期待しています。

本年が、日本と世界の人々にとって明るい年となるよう祈っています。

〈この年8月アテネ五輪、9月ロシア・北オセチア共和国で学校占拠事件、12月スマトラ島沖地震。1月自衛隊イラク派遣、10月新潟県中越地震〉

平成17年(2005)

昨年は自然災害が各地を襲い、大勢の人々が被災しました。厳しい冬を迎え、被災者のことが案じられます。また、経済情勢がまだ十分に良好な状況にはなく、人々の苦労を察しています。

海外では、紛争などにより、多くの命が失われ、非常に残念なことでした。それとともに、自然災害による犠牲も多く、特に、年末に起こった地震による津波は周辺の国々に大きな被害をもたらし、極めて多数の死者・行方不明者が生じたと報道されています。誠に痛ましいことです。12年前奥尻島などを襲った津波や、私の生まれた年に起こった死者・行方不明者三千人を超す被害を出したといわれる三陸地震津波などのことが思い起こされました。

今年は、阪神・淡路大震災が起こってから10年になります。ここに改めて皆で過去の自然災害を顧み、安全性の高い社会を築いていくことに務めることが大切であると思います。

年頭に当たり、国民の幸せを祈るとともに、皆が相互に、また、世界の人々とも相携え、世の平安と人々の幸せのために力を尽くしていくよう願っています。

〈この年7月ロンドン同時爆破事件。3月福岡県西方沖地震、4月JR福知山線脱線事故、8月参院郵政法案否決で衆院解散。6月両陛下がサイパン島を訪問し、戦没者を慰霊〉

平成18年(2006)

昨年は、終戦から60年の年に当たりました。先の大戦では日本人310万人が亡くなり、また、外国人にも多くの犠牲者が生じました。私どもは戦争で亡くなった人々のことを決して忘れることなく、この多くの犠牲の上に今日の日本が築かれたことに思いを致さねばなりません。

暮れになって降り始めた大雪で、各地で大きな被害が生じています。そのために20人を超える人々が亡くなったことを本当に残念に思います。自然災害の被害を受けた地域で、避難生活を続けている人々のことが案じられます。また、帰島を果たした三宅島の人々、帰島を果たせずにいる人々が共に健康を保つよう願っています。

新しい年が皆一人一人にとって幸せなものであることを祈り、より良い社会を作るために皆が助け合って力を尽くしていくことを心から念じています。

〈この年5月ジャワで大地震。1月ライブドアへの強制捜査、9月第一次安倍内閣発足〉

平成19年(2007)

昨年も、大雪や豪雨、台風、竜巻などの自然災害で、150人もの人命が失われたことは痛ましいことでした。新潟県や福岡県では、地震災害のため、この冬も仮設住宅で暮らしている人々のことが心にかかっています。

また、台風による潮風害などで稲作などに大きな被害を受けた地域もあり、農家の人々の心痛が察せられます。

新しい年の始めに当たり、我が国と世界の人々の幸せを祈り、皆が、互いに信頼し合って暮らせる社会を目指し、力を合わせていくよう、心から願っています。

〈この年7月参院選で民主党が第一党に、9月福田内閣発足。3月能登半島地震、7月新潟県中越沖地震〉

平成20年(2008)

昨年は石川県と新潟県に地震があり、厳しい冬を過ごす被災者の苦労が察せられます。大雨などの自然災害は少ない年でしたが、国民生活に不安をもたらすような社会的状況が幾つか明らかになったことは残念なことでした。

新しい年が国民一人一人にとって幸せなものであり、世界の人々が互いに信頼し合って暮していける社会が築かれていくことを願っています。

〈この年9月リーマンショック。6月秋葉原無差別殺傷事件、9月麻生内閣発足、12月製造業派遣切りに対応する年越し派遣村。6月岩手・宮城内陸地震、7月岩手県沿岸北部地震〉

平成21年(2009)

昨年は、台風の上陸もなく、自然災害による犠牲者の数は、例年に比べれば少なかったのですが、岩手・宮城内陸地震及び岩手県沿岸北部を震源とする地震によって、山間部に大きな被害がもたらされ、人命が失われたことは痛ましいことでした。日本の厳しい自然のもとでは、皆が防災に対する認識を更に深めることが大切であると思います。

また、秋以降、世界的な金融危機の影響により、我が国においても経済情勢が悪化し、多くの人々が困難な状況におかれていることに心が痛みます。国民の英知を結集し、人々の絆を大切にしてお互いに助け合うことによって、この困難を乗り越えることを願っています。

今年は、私が即位してから満20年、そして、私どもが結婚してから満50年にあたりますが、歳月の流れにいろいろと思いを致しております。皇后と共に、これからも、国と国民のために尽くしていきたいと思います。

〈この年1月オバマ米大統領就任。4月両陛下金婚式、5月裁判員裁判制度開始、6月足利事件で菅家さん釈放、9月政権交代で鳩山内閣発足、12月布川事件再審開始決定〉

平成22年(2010)

昨年は、引き続く厳しい経済情勢の下で、多くの人々がさまざまな困難に直面し、苦労も多かったことと察しています。

新しく迎えたこの年に、国民皆が互いに助け合い、励まし合って当面の困難を克服するとともに、世界の人々とも相携え、平和を求め、健全な未来を築くために力を尽くすよう願っています。

本年が、我が国の人々、また、世界の人々にとり、良い年となることを祈ります。

〈この年6月菅内閣発足、9月郵便不正事件で大阪地検の証拠改ざん発覚。10月奄美大島豪雨災害〉

平成23年(2011)

昨年は、多くの地域で猛暑が続き、また経済の状況も厳しく、人々の生活にはさまざまの苦労があったことと察しています。家族や社会の絆を大切にし、国民皆が支え合ってこれらの困難を克服するとともに、世界の人々とも相携え、その安寧のために力を尽くすことを切に願っています。

本年が我が国と世界の人々にとって幸せな年になることを念じています。

〈この年1月新燃岳噴火、3月東日本大震災、東電福島第1原発事故、9月野田内閣発足〉

平成24年(2012)

昨年は春には東日本大震災が起こり、夏から秋にかけては各地で大雨による災害が起こり、多くの人命が失われ、実に痛ましいことでした。また、原発事故によってもたらされた放射能汚染のために、これまで生活していた地域から離れて暮さなければならない人々の無念の気持ちも深く察せられます。昨年は誠に心の重い年でした。そのような状況の中で、皆が互いに助け合い、また多くの人々が被災者の支援に力を尽くしていることを心強く思っています。

今年は、復興に向けて様々な計画を立て、将来への指針を選択していく年であるとともに、がれきの処理を始めとする多くの困難な業務に取り組まなければならない年になると予想されます。人々の英知が結集されるよう、また業務に携わる人々の作業が安全に行われるよう、願ってやみません。

日本は大震災の影響等により現在厳しい状況にありますが、皆が被災者に心を寄せつつ、力を合わせ、明日の社会を築くために忍耐強く力を尽くしていくことを期待しています。

この年の我が国及び世界の人々の安寧と幸せを祈ります。

〈この年7~8月ロンドン五輪。12月総選挙で政権交代、第2次安倍内閣発足〉

平成25年(2013)

東日本大震災から2度目の冬が巡ってきました。放射能汚染によりかつて住んでいた地域に戻れない人々や、仮設住宅で厳しい冬を過ごさざるを得ない人々など、年頭に当たって、被災者のことが、改めて深く案じられます。今後、震災や津波による被害の経験を十分にいかした防災教育やまちづくりが行われ、人々の安全な生活が確保される方向に向かうよう願っています。

日本は、大震災の影響等により、現在厳しい状況に置かれていますが、皆が被災者に心を寄せつつ、互いに支え合って様々な困難を克服していくよう期待しています。

本年が、我が国の人々、また、世界の人々にとって少しでもより良い年になることを祈ります。

〈この年1月アルジェリア人質事件で日本人も10人死亡、4月ボストンマラソンでテロ、中国・四川省で大地震、11月フィリピンで台風。3月、安倍首相がTPP交渉参加を表明〉

平成26年(2014)

東日本大震災から3度目の冬が巡ってきましたが、放射能汚染によりかつて住んでいた地域に戻れずにいる人々や、仮設住宅で厳しい冬を過ごす人々など、年頭に当たり、被災者のことが改めて深く案じられます。

昨年も、多くの人々が様々な困難に直面し、苦労も多かったことと察していますが、新しく迎えたこの年に、国民皆が苦しい人々の荷を少しでも分かち持つ気持ちを失わず、助け合い、励まし合っていくとともに、世界の人々とも相携え、平和を求め、良き未来を築くために力を尽くしていくよう願っています。

雪の深くなる季節、屋根の雪下ろしの事故には十分に気を付けてください。

本年が、我が国の人々、そして世界の人々にとって幸せな年になることを祈ります。

平成27年(2015)

昨年は大雪や大雨、さらに御嶽山の噴火による災害で多くの人命が失われ、家族や住む家をなくした人々の気持ちを察しています。

また、東日本大震災からは4度目の冬になり、放射能汚染により、かつて住んだ土地に戻れずにいる人々や仮設住宅で厳しい冬を過ごす人々もいまだ多いことも案じられます。昨今の状況を思う時、それぞれの地域で人々が防災に関心を寄せ、地域を守っていくことが、いかに重要かということを感じています。

本年は終戦から70年という節目の年に当たります。多くの人々が亡くなった戦争でした。各戦場で亡くなった人々、広島、長崎の原爆、東京を始めとする各都市の爆撃などにより亡くなった人々の数は誠に多いものでした。この機会に、満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、今、極めて大切なことだと思っています。

この1年が、我が国の人々、そして世界の人々にとり、幸せな年となることを心より祈ります。

※※2016年9月追記分※※

8月に公表された天皇陛下のおことばのテーマは「象徴としてのお務めについて」だった。

マスメディアでは、「生前退位」のご意向ばかりがクローズアップされているし、かねてからご高齢の陛下の負担削減は検討されていたとも報じられているが、そうした議論がいかに底の浅いものであるかを、陛下のおことばを直接聞き、読むことによって、私たちは知った。

陛下は、年を取って体もきついし、そろそろ引退したい、という趣旨で「生前退位」を考えておられるわけではなかった。それ以前の報道を通じてでも、公務削減の提案に、陛下が消極的な態度を示しておられることは、なんとなく伝わってきた。それがなぜなのか、私はよく分からなかったのだが、今回のおことばによって、初めて理解可能となった。

それにしても、今の時代になぜ天皇が存在するのか――今回、陛下自身の天皇像を聞くことは、私たちが改めて天皇制について考えるきっかけになった。「(天皇制は)自分が生まれた時からあるから」「(天皇の存在は)憲法にも書いてあるし」というだけでなく、ここは一つ、私たち自身でじっくり考えてみたい。

天皇は、ただ存在するだけで意味がある、と考える人たちもいる。存在そのものが尊く、ありがたいのであって、極端な話、何もしなくていいから、その地位にいていただければよい、という考え方だ。そういう人たちは、高齢になって体がきつければ、摂政を置いて、役割を任せればよいとして、生前退位に反対している。

一方、陛下が今回、国民に向けて示された天皇像によれば、単に「存在」するだけでなく、その「役目」こそが大切ということになろう。

陛下は即位以来、国事行為のほかに、3つの役目をとりわけ大切なものとして果たされてきたように思う。その1つは、国民と共にあること。とりわけ苦悩の中にある人々に寄り添うことを「務め」として実践してこられた。

第2に、過去の負の歴史とも向き合い、そこで失われた命を慰霊し、遺族をいたわり、史実を伝えていくこと。

私を含め、戦争を知らずに育った世代にとって、陛下はよい歴史の先生でもある。サイパンやパラオ、あるいはフィリピンで何があったのか、陛下の慰霊の旅によって、私たちは沢山のことを教えられ、学ぶ機会を得た。

戦争だけではない。ハンセン病のすべての療養所を回られ、困難な人生を生きてきた患者に寄り添われた。そのような陛下の行動は私たちにこの国や人々がなしてきた差別の歴史を考える契機となった。

そして、第3に日本と世界の安寧、人々の息災と幸福を祈ること。毎年、年の初めに発せられてきたおことばを改めて読み返してみると、陛下がこの3つの「務め」をいかに大事にされてきたか、改めて感じるものがある。

今上陛下のおことばを、来年も再来年もまた聞きたいという思いと、その役割から陛下を早く解放して差し上げたい気持ちの間で、私は揺れている。

執筆:江川紹子