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【夏休みの宿題を再考する】「自由研究」何をテーマに研究すれば良いのか?

矢萩邦彦アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授
(写真:アフロ)

夏休みも終盤に近づくと、自由研究に関する相談も多くなる。とりわけ、中学受験を間近に控える6年生からの相談は多い。前回の記事(「読書感想文」何を読み、何を書けば良いのか?)では読書感想文にまつわる問題について書いたが、テーマやノルマが規定されていない自由研究の方が、どうしたらいいか分からないという意見も少なくない。そこで今回は自由研究のテーマをどう決めて、どのように取り組むべきなのかを考えてみる。

「自由研究」のもつイメージ

自由研究というのは本来「自由」なはずである。しかし、いざ本当に自由を突きつけられるとどうしたらよいか分からなくなってしまうのは大人も子どもも同じだろう。そこで、他人や前例を参考に考えることになる。すると、昆虫や植物を観察・採集したり、理科実験や工作、食や街に関する調べ学習など、学校での学びに近いものが選ばれることになる。もちろん、それに興味があって主体的に取り組めるならば何も問題はない。

しかし、これらのアイデアは学校の教師が「評価」するというゴールからの逆算的な発想でもある。少なくとも学校でやっているようなことであれば受け入れてもらえるだろうという暗黙の判断だ。結果として、べつに研究しなくても答えを知っているものや、ちょっと検索すれば出てくることを結論にして終わらせてしまうようなものを散見する。これでは成長につながらないどころか、時間の無駄である。主体的に遊んでいた方がよっぽどいい。

評価の問題

さらに悪いことには、そんなあまり意味のない「研究」にもかかわらず、評価されるためのテクニックを駆使して少しでも評価を上げようとする傾向もある。たとえば、まことしやかに話されているものの中で、「手書き文字の方が評価が高い」というものがある。しかも「筆圧が濃い」方が一生懸命感が伝わって高評価につながるというのだ。就活の履歴書作成などでも似た話を聞いたことがあるが、評価のポイントとして本質からズレていると言わざるを得ない。他にも、「写真や画像はなるべく使わずに手描きのイラストの方が評価が高い」というものまである。

そもそも自由研究は、詰め込み教育に対する批判からはじまったのだが、現状では「テーマに困ったらSDGs」のように学校受けしそうなテーマや、「1日でできる」研究方法などについて書かれた書籍やWEBサイト、はたまた研究代行業者まで現れる始末である。私は、受験のための逆算的で詰め込みによる勉強が、探究的な学びによる成長やイノベーターマインドの育成を阻んでいる側面があることを問題視しているのだが、間に合わせの自由研究はさらに問題がある。

「自由」なテーマとは

研究には「動機」が必要である。それが「宿題だから」という時点ですでにやる意味はない。しかし、視点を本当に自由にすれば、研究したいことはあるはずなのだ。

たとえば、中学受験生であれば、自分が学ぶべきことを整理して優先順位をつけ、その中からテーマを選ぶことだってできる。国語が苦手なら、「受験でよく出る熟語を調べてみる」「よく出る文章の傾向を調べてみる」「たくさんの対義語を探す」「ことわざや慣用句によく出てくる動物について考えてみる」などいくらでもアイデアは出せるだろう。極端な話、自分の行きたい学校の入試問題を研究したっていいはずだ。

また、「ハマっているゲームの攻略法」や、「好きなスポーツの歴史」や「楽器がうまくなるためにはどうしたらいいか」、「家族はどんなときに機嫌が良くなるか」を考えるなどなんでもアリだ。ネット上では「宿題をさいごの日まで残しておいた時の家族と自分の反応」という自由研究が話題になったこともあった。大事なのは、「自分ごと」の動機と、それに対する仮説・分析・結論があることである。どうしてもやりたくないのであれば、「なぜ自分は宿題をやりたくないのか」を考えても立派な研究になるし、なにより今後の自分のためになる。

繰り返しになるが、何よりも大事なのは「自由研究」に取り組むことで、成長することである。そのためには、研究対象は「自分ごと」である必要がある。この場合の自分ごとは「興味」さえあれば直接関わりがないことでも良い。興味があること自体がすでに自分ごとなのである。また問題解決の観点からでもいい。誰もが、何らかの問題を抱えている。自分の問題、家族の問題、クラスの問題、そういった身近な問題を解決するためにどうすればいいかを考えることも立派な自由研究であり、プロジェクトベースドラーニングである。興味に気づき、それを探究することは人生を豊かにするし、問題を解決することは生きていく上で必要なスキルである。それらを身につけるための活動だということを周囲の大人が認識した上で、サポートして機会を活用して欲しい。

アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした学習塾『知窓学舎』を運営。主宰する『教養の未来研究所』では企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに、住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近著『正解のない教室』(朝日新聞出版)◆ご依頼はこちらまで:yahagi@aftermode.com

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