オンライン授業の是非を問う(2)学習塾業界の混乱と挑戦

(写真:アフロ)

新型コロナウィルスによる臨時休校要請の影響で、教育業界は変化を余儀なくされている。中でも対面授業を中心とした塾業界は対応の違いに大きく差が出ており、先行きの見えない不安の中で、生徒・保護者だけでなく講師や経営者からも毎日たくさんの相談を戴いている。シリーズ第1回では「オンライン授業の是非を問う(1)学校現場の葛藤と最前線」と題して、いち早く具体的な対策を講じている2つの学校を紹介した。今回は、多様化が進む塾業界の一部にフォーカスして動向を紹介し考えてみたい。

オンライン化が進む学習塾

私が塾長を務めている知窓学舎(神奈川県横浜市)では、3月中に全ての授業をオンラインに移行した。「探究型」と「受験対策」を両立させるコンセプトのため難しさもあったが、もともと少人数制であったことや、規模が大きくないため意思決定も迅速に行えた。講師がパラレルキャリアであることや、また私自身が2001年からオンライン配信を実践していたこと、eラーニングの学校での指導経験があったこともうまく働いたが、オンライン授業運営を進め、また現場での実践者と対話する中で、一番のハードルだと考えられている「設備・技術・セキュリティ」よりも先にクリアーするべき課題があることも浮き彫りになってきた。

4月にオンライン授業に移行した花まるグループの進学塾部門・スクールFC(東京都千代田区)の代表松島伸浩氏は、「私たちのオンライン授業は、授業の始めに「ホームルーム」、授業の終わりに「終わりの会」という時間を設けています。オンラインで大切なことは、子どもとのつながりをどう保つかです。一方的な動画配信やライブ授業では、子どもの集中力は続きません。大切にしていることは、「楽しい、温かい、自立」です。「楽しい」は、先生や友達とのやり取りの中で生まれてきます。名前を呼ばれるだけでもうれしい。友達の顔を見ることで安心。声を出して発言できたらもっと楽しいのです。ちょっとした脱線も前向きに学ぶための大切なエッセンスです。限られた時間の中でもそういう個々の時間を作ってあげたいということから、授業の前後でアイスブレイク的な時間を用意しています」と、楽しさや温かさを感じる授業であることが重要だと指摘する。

動画では集中力が持たないという意見も多いが、私の授業は50分から100分と長い。教科や方法、メンバーによっても適正時間は変わってくるが、しっかり対話ができていることと、飽きさせない仕組み、そして何よりも人間関係ができているクラスは問題なく運営できている。もちろん休憩などは適宜はさむが、「しっかり取り組み考える」ためにはある程度連続性が必要である。YouTube番組のような細切れの学びは消費されやすく、なかなか自学自習にも結びつかないことが多い。また、松島氏が触れている「脱線」はインタラクティブな学びにおいて重要なポイントである。これは、あらかじめ用意された予定調和の脱線ではあまり意味はない。誰かの回答や発言から始まる分岐でこそ価値がある。今まさに場を共有している実感や、自分たちの発言が授業に影響を及ぼしている感覚は自己肯定感にも繋がって行く。もちろん、脱線といえどテーマやもっと大きな学びの伏線としてあとで回収していく編集ができることが望ましいだろう。

オンラインを避ける現場と問題点

一方で、講師にオンライン授業のスキルがないことや、機材や環境を理由に、オンライン移行を踏みとどまっている現場も少なくない。しかし、オンラインスキルの前に、純粋に授業力の問題もある。人手不足の塾や研修体制が整っていない塾、あるいは学生のアルバイトが主力になっているような塾では、そもそも自由に授業見学ができないことも多い。大義名分としては「生徒の気が散るから」「保護者が見ていることでネガティブな影響があるから」などと言われるが、実のところ、とても保護者には見せられないレベルの授業である場合も少なくない。そのような状態でも運営できてしまっていたこと自体が問題だが、オンライン移行で保護者に授業が見える「透明な教室」になった。そういう意味では、改善あるいは淘汰される良い機会になるのではないかとも考えられる。

実際、一部の塾や学校におけるオンライン授業への移行で、すでに問題は噴出している。中学受験4大塾の一つに通う保護者は「送られてきた動画が教育実習みたいでビックリした。とてもプロの授業とは思えなかった」という。別の大手塾では「カメラから遠いから板書は見えないし、何言ってるのか分からないし、動画のシロートだから許されるというレベルではない」などテレワークで自宅にいる父親が授業を見て憤慨しているという声も聞く。生徒からも「面白くない」「すぐ飽きる」という声は多い。授業料返還を求める意見も出はじめており、日能研では希望者に対して4月の授業料の25%減額する対応を決めている。

そもそも「知らない先生の授業動画」を見て「知らない生徒たちが集まるオンライン教室」に集められて質問しろと言われても難しいに決まっている。その対策として電話での質問対応があるが、講師のAさんは、「基本的に自宅待機をしていて、校舎に質問の電話がかかってくると非通知で折り返すことになっているが、一度もかかってきたことはない」という。また、別の大手塾の講師Bさんは、「他の講師の授業動画を見る事ができないので、どう対応して良いのか分からない」とこぼす。本部からは「今は緊急事態だから各現場でなんとかしてくれ、事態が収まってから巻き返す」など「無茶振り」が多いという。サピックスでは、5月のオンライン化が講師に伝達されたのは4月末。その時点で5月7日以降は教室で授業をすると言っている大手塾もあった。「本部は元に戻る前提でしか動いていない。withコロナという発想ではない」。

また、別の大手塾生の保護者は「授業もなく、電話で自習の様子を聞かれるのみで困惑している」という。なんとかオンラインでの授業をお願いしているが、「セキュリティの問題でオンラインは難しい」の一点張りだという。授業の遅れについても「大丈夫です。この時期に基礎を固めておきましょう」というばかりで、流石に不信感が芽生えたものの、「やはり塾を頼ってしまっているし、塾の言うことを聞かなかったところでどうしたら良いのか分からない」という。「中学受験の価値観に洗脳されてしまっていることは分かっているのだけれど……」という保護者の声もあった。個別指導ほどオンライン化に踏み切りやすい印象もあるが、ある大手個別指導塾でも「授業を受けたいなら教室に来て欲しい」と言われていると困惑する保護者からの相談もあった。

何よりも大事なのは信頼関係

では、コロナ対応がうまく行っている塾にはどんな特徴があるのだろうか。月刊私塾界・全国私塾情報センター(東京都豊島区)代表の山田未知之氏はこう分析する。「第一に、通っている教室の先生とご家庭(保護者)との信頼関係ができているか、二点目は、学校が休校になり、学習が進んでいない子供たちに対して不安を感じている保護者に対して、安心できる要素を提供・提案できているかどうかです」塾経営者からは、授業の理解度の確認や、進捗状況の管理が対面に比べてはるかに難しくなっている点や著作物の利用についての悩みが多く寄せられているというが、生徒や保護者の立場から考えれば、問題の焦点はそこではない。「何をやっているか、あるいはやっていないかということよりも、信頼関係が構築できているかどうかがとても重要だと感じています」。

実際、オンライン化だけがコロナ対策ではない。週毎に問題集やプリントを郵送して添削するなど、アナログな方法も含めて様々な家庭学習支援が講じられている。しかし、状況把握や管理などはSNS、学習管理アプリなどオンラインを活用するケースが大半だ。また、ホームルームのみをオンラインで行い、授業は録画された動画を見るかプリントで対応するという塾や、「オンライン自習室」などの対応も増加傾向だ。お題や「クエスト」を出題して、取り組みやレポートをYouTubeやSNSでシェアするという試みもある。現状では、家庭に配慮しつつ学びを止めない試行錯誤をしていることが何よりも大事だろう。

ここまでの話から、オンライン化が成功している塾のポイントをまとめてみる

(1)生徒・保護者との信頼関係が築けている

今までの取り組みや方針と違和感なく対応ができているかが重要

(2)繋がりを保てる「楽しさ」がある

授業内で十分なコミュニケーションがとれない場合はホームルームなどを活用

(3)適正人数(個別か少人数)である

双方向の場合は教科や講師の力量によって人数の調整が必要

(4)適正な授業時間と休み時間である

トイレの待ち時間などがないため、こまめに短い休憩をとると効果的

(5)塾や講師自身が試行錯誤をしてアップデートしている

生徒のためにチャレンジする姿勢を見せることが生徒のモチベーションに繋がる

塾の形は変わらざるを得ない

「今の状態をみて正直驚いています。急場凌ぎや間に合わせをやっている場合ではない」というのは花まる学習会代表の高濱正伸氏だ。「これだけ世間が騒いでいるのだから、当然どこの塾もすでにオンライン化に着手して試行錯誤をはじめていると思っていましたが……オンラインができない組織は存在できなくなりますよ。基本的に花まる以外の塾には興味はないんですけれど、大企業病になってしまったり、昭和の様式でやっている塾が淘汰されれば健全ですよね」。

一般的に小学校高学年まではオンラインは難しいといわれているが、花まる学習会は、年中からコースがある。「年中・年長・小1の動画やオンラインは難しかったですね。もともと子どもは人になつくし温もりに寄り添いながらやる気を出すものだと言っていました。ですが、もう彼らも私たちと違う社会に活きていくしかないのだから、やるしかないと思ってオンライン化に踏み切った結果、子どもたちも付いてきてくれています」。

子どもたちは順応性がある。知窓学舎も小学1年生から塾生がいるが、思ったよりも素早く順応している生徒が多い。家にいるという安心感から、引っ込み思案な子どもでも意見を言えているシーンもよく見かける。3年生や4年生に至ってはチャットを使いこなして普段よりも活発に意見交換をしているクラスもある。もちろん、オンラインで教室での授業が代替できるわけではない。そもそもやり取りする情報量が違いすぎる。しかし、オンラインならではの利点もある。今はいかにそれを見つけ活かして行くかという視点が必要ではないか。

「僕も正解が分かっているわけではないけれど、超長期化するという最悪の想定をして、我々も頑張るからご家庭も頑張りましょう、という感じで必死に生き抜いていくしかないですよね。オンライン授業は実力が見えちゃうし、だからこそしっかりと実力をつけていかないと」と高濱氏は言う。

これからの時代は、オンラインリテラシーは必須だ。社会に出る準備として学ぶのであれば教科内容だけでなく学び方も時代に合わせる必要がある。当然、インターネットなどに関しても、ある程度それを使いこなせる大人から学ぶことに意味がある。逆に言えば講師も挑戦し、学び、アップデートする機会とも言える。挑戦して学ぶ姿を見せることは、教育的影響も大きい。生徒たちは、やらせるだけで自分はやらない大人を軽蔑する。授業レベルやオンラインスキルを磨くだけでなく、生徒と共に学習することを構造化できれば一気に教育改革は現実味を帯びるのではないかと考えられる。

私は今まで保護者に対し、「有限の時間をどんな大人と過ごすのか」ということを問うてきた。一体どんな塾なら「通う」意味があるのか。受験や塾の必要性も含め、今まさに、真剣に問い直すタイミングだと言えるだろう。(矢萩邦彦/知窓学舎教養の未来研究所