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「子ども達の学びを楽しむ」体験型教育イベント『みらいの学校』開催

矢萩邦彦アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授
目玉企画の1つ「世界一の授業リレー」(写真提供:みらいの学校)

2020年の大学入試改革に向けて、またすでに始まっている新しい学習指導要領へのシフトは、教育業界に大きな期待と大きな混乱を同時にもたらしているように見える。一方で、保護者の価値観もまた従来型の学習への懐疑や、新しい学びへの不安が渦巻き、大きな変革期に差し掛かっていると言えそうだ。

時代の要請に応える形で変化が加速する教育業界において、「子どもたちと先生との出会い」に注目して活動を続けているみらいの学校代表の北本貴子さんにお話を伺った。

●生徒個人と先生個人をつなぐ場作りを

(写真提供:みらいの学校)
(写真提供:みらいの学校)

北本さんが2014年に立ち上げた『みらいの学校』は、「それぞれの子どもたちにとって相性の良い先生を見つけて欲しい」という思いから、ネット上でのコンシェルジュサービスを運営している。問い合わせ内容に合わせて、スタッフが実際に知っている先生を“母親目線”で紹介する。特定の塾や教育機関と繋げるのではなく、先生個人と直接繋げるというのは業界では画期的である。

私も、いくつかの大手塾に関わっていたが、大学受験予備校を除いて、一様に「先生個人の顔」は出さない。あくまでカリキュラムや教材・テストが中心で、講師による違いは隠されている状態だ。均一なサービスを目指すというのはビジネスとしては1つの誠意だが、均一が実現しているかどうかには疑問が残る。実際、リアルな対面授業は属人的であり、講師による“差”はかなり大きい。均一を目指すことはできても、均一にすることは不可能だ。

しかし『みらいの学校』のコンセプトを、ネット上のサービスだけで実現するのは難しい。そこで、実際に学びの現場を見て体験してもらうイベントを開催しているという。大規模イベントは今年で4回目を数える。

●学びを遊び尽くすための出会いを

(写真提供:みらいの学校)
(写真提供:みらいの学校)

「パズルゲームは分かりやすく遊び的ですが、先生と相性が合えば数式だって遊びになるんです」。

アクティブ・ラーニングは対話によって主体的な学びを導くが、関わる大人との相性次第ではコンテンツにもメソッドにも頼らずに、生徒はアクティブになる。そんな理想的な関係を見つけるためには、実際に多様な先生と出会う場が必要だ。北本さんは「“ママコミュニティ”を運営する中で、お母さん達が欲している情報と、教育事業者さんとの熱の違いを感じた」ことがモチベーションとなって、このイベントを立ち上げたという。

北本さんは自らの足と目、口コミを駆使して探しだした先生たちと子ども達が楽しく学ぶシーンを、保護者だけでなく、学校関係者や民間の教育関係者が目の当たりにできることにも意味があると考えた。対話の間や先生たちの作り出す空気感は、メディアを通してでは伝わらない。そこにこのイベントの最大の意義があると言える。楽しい学びが民間にあるか学校にあるか自体は、子ども達にとってはあまり関係がない。もちろん、家庭にあったっていい。「子ども達の学びを楽しむ体験」を通して、これからの教育に必要なものを参加する全ての人にフィードバックすることで、広めていきたいと北本さんは語る。

●多様な先生を知って欲しい

(写真提供:みらいの学校)
(写真提供:みらいの学校)

「たとえ、その先生のところに通わなくても、“いい先生っているんだな”ということを知ってもらうきっかけになればいいと思っています」。

私自身も学生時代、自分のことを分かってくれる“先生”に出会えなかったことが、教育関係の仕事を志す1つのモチベーションとなった。また、保護者からの相談を受ける中で、そもそも“教育者や先生=面白くない・分かってくれない”という偏見を持ってしまっているケースも散見する。そうなると、保護者の教育機関に対する要望は目に見える形での「成績」という評価に偏ってしまう。偏差値を基準にした極端な結果主義が、本来楽しいはずの学びを疎外してきたという一面がある。従来型の教育を受けてきた保護者世代・教育者世代こそ、学びを楽しむという体験で視野を広げたい。楽しい学びがあることや、信頼できる教育者の存在を知るだけでも、教育に対してもっと柔軟でポジティブになれるだろう。

2020年に向けた教育改革の中で、教育関係者からも様々な発信があるが、従来型の教育に疑問を抱き、子ども達の幸せを願う保護者主導の教育イベントにはとりわけ本質的な価値がある。教育は教育者のためのものではない。もちろん保護者のためのものでもない。子ども達が主体的に楽しみ、成長することに意味を感じられるような大人達が増えることで、教育改革はようやく現実味を帯びてくる。このようなムーブメントが広まっていくことを、一教育実践者として強く願う。

当日は高校生が理想の授業を考えるアイデアソンや全国小学生算数王者決定戦、YES International School校長でサイエンス作家の竹内薫氏、明蓬館高等学校校長で日本ホームスクール支援協会理事長の日野公三氏をはじめ、様々な教育関係者によるパネルディスカッションも開催される。私も中学受験をテーマに私学の先生達と対話させて頂く。2018年8月19日(日) 10:00から18:00まで、スクエア荏原 イベントホールにて。(矢萩邦彦/知窓学舎教養の未来研究所

■関連リンク

→みらいの学校2018公式WEBサイト

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アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした学習塾『知窓学舎』を運営。主宰する『教養の未来研究所』では企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに、住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近著『正解のない教室』(朝日新聞出版)◆ご依頼はこちらまで:yahagi@aftermode.com

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