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多様化する教育系イベントの今〜『みらいの学校』『未来の先生展』の挑戦

矢萩邦彦アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授
(写真:アフロ)

「アクティブ・ラーニング」という言葉に続いて学習指導要領に登場した「主体的・対話的で深い学び」という学校教育のコンセプト。どちらも具体的な実践方法を共有できないまま、言葉だけが一人歩きしているようにも見える。一方で、わざわざそんな言葉を使わずとも、対話によって生徒をアクティブにして、深く探究していくような生徒中心の授業を実践している現場の教育者も少なくない。

そんな中、生徒・保護者・教育者それぞれの視点で新しい教育の形を模索するイベントが全国で立ち上がりはじめている。それらのムーブメントについて、中心となって企画運営をしている方々にお話を伺った。

●親子で相性の良い先生や学びを探すイベントを

「良い先生との出会いを提供したい」という北本貴子氏
「良い先生との出会いを提供したい」という北本貴子氏

2014年に立ち上がった『みらいの学校』代表の北本貴子氏は、“ママコミュニティ”を運営する中で、「お母さん達が欲している情報と、教育事業者さんとの熱の違いを感じた」という。そこで、家庭・民間の教育事業者・学校を繋ぐイベントを企画、三者が集うすべて体験ベースの場作りをして、三者それぞれにフィードバックがあるように仕掛けた。「とにかく子どもが楽しく学ぶところを見てもらいたかった。運営としては難しかったですが、反響は大きかったですね。学びの場は実際見ないと分からないんです」。

『みらいの学校』のコンセプトは「コンテンツや教え方」ではなく「先生と生徒の出会い」だという。教育者や企業が主体となることが多い教育系イベントでは、なかなかお目にかかれないリアルな切り口だ。「2015年のイベント中に、参加されたお子さんがある1人の先生に出会ったんですね。その時、子どもの直感が働いたのを目の当たりにしたんです。1人の先生でこんなに子どもは変わるんだ。その子の人生のターニングポイントがあるのだとしたら、あの瞬間だったな、と実感したんです」。

名物コーナー「世界一の授業リレー」では様々な授業に親子で参加できる
名物コーナー「世界一の授業リレー」では様々な授業に親子で参加できる

規模の拡大や、地方での開催を求める声も多いが、大きくすることリスクは常に感じているという。「たくさんの学校が集まる進学説明会に行ったんですが、親は真剣で夢中なんだけど、子どもは休憩所でゲームやっているんですよ。それじゃあつまらないですよね。現場に立つ先生の実践を見せて、家庭に伝えるべきだと思うんですね。教育全体を混ぜ込むような、もちろん子どもが中心に居て」。北本氏は3児の母である。現在進行形で子育てをする目線から、絶対的にニーズがあると断言する。2017年のイベントも大盛況のうちに幕を閉じた。早くも来年の開催に期待が集まっている。

→みらいの学校「Kids教育Festival」

●実践を博覧できる大規模イベントを

「教育関係者の学びあいの場を作りたい」という宮田純也氏
「教育関係者の学びあいの場を作りたい」という宮田純也氏

『未来の先生展』実行委員長の宮田純也氏は、この2017年8月26日〜27日に都内の大学キャンパスを借り切って大型イベントを仕掛ける。公・私・民間、営利・非営利、国内外、様々な教育関係者と関わる中で、「“主体性を育む”という同じ理念にもかかわらず、そのアプローチにずいぶん大きな違いがある」ことに気づき、学びの博覧会というコンセプトにたどり着いたという。「互いに実践を見せ合うことのできる場を創り、相互につながりあうことで何か領域横断的なものが生み出されるのではないかと考えました」。多領域の教育実践家がそれぞれの取り組みや概念、プロダクトを紹介するだけではなく、交流を図ることによる創発を目指すという。

宮田氏は教育者ではない。そして父親でもない。第三者的立場から教育に切り込もうという視点は新しい感覚とも必然的とも感じる。そんな宮田氏は、教育の重要性については誰も異を唱えないにも関わらず、教育者や教育業界の社会的地位が相応ではないと指摘する。「教育業界の側から、日本社会に対して教育の社会的意義を訴え、取り組みの有用性を認知してもらい、社会的地位の重要性を唱える機会を創ることが必要なのではないかと漠然と考え始めました」。

複雑化する現代社会に対応した学びの未来をイメージしたというイベントロゴ
複雑化する現代社会に対応した学びの未来をイメージしたというイベントロゴ

いきなり大規模なイベントを行うことには当然相応のリスクがある。リスクを負ってまでなぜ大規模イベントなのかについて宮田氏は、第一にスケールメリットがあるという。「教育業界全体を盛り上げていこうという目的なので、規模は大きい方が良いと考えました」。そして、第二に同規模での新規性を挙げている。「既存の大規模教育イベントの中に来場者やプログラム提供者の学び・交流に特化しているイベントがなかったことが開催を決めた理由です」。来場者10000人を目指すという挑戦に教育業界からの注目が集まる。

→未来の先生展

●教育イベントの光と影

公教育・民間教育を問わず、教育者の実力やモチベーションについて問題視されることが多い。そのような視点から、実践を見ることができる機会が求められるものの、実際それが現場の底上げに繋がるかどうかについては疑問が残る。「良い先生と出会いたい」という保護者や学生、そして「良い実践の方法を知り学びたい」というモチベーションの高い教育者にとっては格好の機会と成り得るが、現場からは「そんな余裕はない」「参加してもどうせ何も変わらない」というようなネガティブな声も聞こえる。

また、教育に興味関心が持てず、放任が過ぎることが原因の1つとなって家庭や学校で問題を起こしてしまう生徒の保護者もまた然りである。解決できるはずの問題が公然と放置されているような事例は枚挙に暇がない。必要なところにほど届かないというジレンマは、今までも数多の誠実な教育系イベントが抱えてきた葛藤だ。教育機関の構造的な問題もあり、問題を抱える現場ほど、このような機会を活かしにくいとも考えられる。地道に現場や当事者の無関心を関心に変える必要がある。

このようなイベントがきっかけに、各地で開催されるようになることでムーブメントを起こし、うまく現場の教育者達を巻き込んで日常化し、実践をシェアし、個性に合った良い教育を選ぶことができる世の中に近づくことを願う。可能性を想像することと、まずは参加することで、その意義を確かめたい。(矢萩邦彦/知窓学舎・教養の未来研究所)

アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした学習塾『知窓学舎』を運営。主宰する『教養の未来研究所』では企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに、住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近著『正解のない教室』(朝日新聞出版)◆ご依頼はこちらまで:yahagi@aftermode.com

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