開発途上国のリアルをVRで伝えたい!~変わりゆくジャーナリズムの方法

今年の5月、イラクに身を寄せるシリア難民の家族に新しい命が生まれた(安田菜津紀)

VR(ヴァーチャル・リアリティ)元年とも言われる2016年、ジャーナリズム界でもVRを活用することで、より「伝える」事ができるのではないかというアイデアが聞かれるようになってきました。今回は、VRで開発途上国の現状を伝えたいというフォトジャーナリストの安田菜津紀氏にお話しを伺いました。

●ビデオからVRへ

かつて小型化されたビデオカメラを用いた取材は「スモールフォーマット・ジャーナリズム」と呼ばれましたが、画質の問題もあり、ほとんどは報道されることはなく記録用にとどまっていました。その後カメラの性能が向上することで、ジャーナリズム本来の形である現地での取材を主体とした「ビデオジャーナリズム」として確立しましたが、フォトジャーナリズムと同様にジャーナリストの視点に縛られる受動的な報道で在り続けました。

「写真は撮り手の意思で視点を選び切り取り、その視点にのっとって見て下さる側にも感じて頂くことになります。それは撮り手の意思が込もっているとても大切な点でもあります。一方でVRは映像の中から、自分の意思で見る場所、見まわし方を選択していくので、より見る側に委ねられる余地が大きく、能動的な体験が生まれます」と安田氏は言います。

●日常を伝えたい

ヤジッド教徒の国内避難民の子どもたち。建設途中の住居に家族で身を寄せている。
ヤジッド教徒の国内避難民の子どもたち。建設途中の住居に家族で身を寄せている。

安田氏は、2016年5月のイラク北部の難民キャンプ取材時に、滞在先の過程で出産に立ち会ったといいます。その経験から「多くの人の命が奪われていく中でも、そこには生まれてくる命がある。私たち日本人は、かの地で暮らす人たちと”違うこと”を探すのではなく、共感できるピースを拾い上げる作業が必要なのではないでしょうか」と語ります。

「違い」を報道することは、ジャーナリズムの方法の一つです。しかし、違いばかりにフォーカスすることで、大切な物を見失っているのではないか。安田氏の取材の軸にはいつも「同じ」があります。インパクトのある報道ではなく、いかに共感できる報道をするのか。そのために必要な取材はどのようなものか。それを追求した先にVRという可能性がありました。

そもそも、ジャーナリズムの本来の意味は、「違う場所の日常」を伝える事でした。

●自分事として捉えるために

「カンボジアや陸前高田でスタディーツアーは出来ますが、イラクに「一緒に行こう」と気軽に呼びかけることはできない。誰しもが現地に共に行ける場所ではないところこそ、その場に一緒にいるような感覚に近づけるツールが必要ではないかと感じました」。

百聞は一見にしかず、「自分事」として考えるためには、実際に現地に訪れることが一番です。能動的な体験が、物事の捉え方を変え、自分に引き寄せていく。教育業界においても、ワークショップ型の学習の効果は近年聞かれるようになりましたが、VRを使って報道に少しだけ能動的に関わることは、ジャーナリズムを変えていくかも知れません。

現在安田氏は、作家の石井光太氏らとともに、VRでイラクの現状を伝えるためのプロジェクトを立ち上げ、クラウドファンディングを行っています(下記リンク参照)。まだまだ議論の余地があるVRですが、「伝える」ことを第一義にするならば、従来の型に拘りすぎず、最新技術を活用していく挑戦的な姿勢も必要ではないでしょうか。(矢萩邦彦/studio AFTERMODE・教養の未来研究所)

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