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【シリーズ・訪問看護の現場から】難病と共に生きる〜その取り組みと問題点

矢萩邦彦アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授
撮影:安田菜津紀/studio AFTERMODE

病院で亡くなるのが当たり前になってきた今、もう一つの選択肢として再び注目が集まっている在宅医療。この記事では、株式会社ケアプロ在宅医療事業部様の協力で、訪問看護の現場を、写真と看護師さんへのインタビューを通してお伝えしていきたいと思います。

◆「難病」と訪問看護

「今までとは違くても、小さな大切なものを大事に生活しています」
「今までとは違くても、小さな大切なものを大事に生活しています」

訪問看護にマッチするケースの一つがいわゆる「難病」の方です。難病とは、今年施行された「難病医療法」によれば、「発病の機構が明らかでなく、かつ、治療方法が確立していない希少な疾病であって、当該疾病にかかることにより長期にわたり療養を必要とすることとなるもの」と定義されています。簡単に言い換えれば、「原因不明で治療方法が確立していない病気」ということになります。

写真の男性は進行性の難病で基本的に改善は望めません。病気の進行の速さもまた一定ではなく個人差があります。元気な時は英語が得意で、ハワイ好きな奥様と一緒に毎年旅行をしていたといいます。

「今春、お花見に行くことを目標にして、ずっとリハビリを頑張ってきました。肌寒い中、念願だった近所の満開の桜を、車いすでお散歩することが出来ました。日々の中で、今までと違った生活ではあるものの、小さな大切なものを大事に生活されています。カメラを向けると、照れながら優しい笑顔を向けてくださいました」と看護師でフォトグラファーの石塚奈津さん。

在宅医療は、往診医、ケアマネージャーなどからなる在宅チームとご家族が協力して長期的な介護への支援を行います。写真の男性は奥様と二人暮らしをしながら、昼間は近所に住むお母様も手伝いにいらっしゃっています。リハビリなどの「デイサービス」や、家族の法事や旅行、また病気や介護疲れを緩和するための宿泊サービス「ショートステイ」の利用なども在宅チームが調整を手伝っています。ショートステイは現在、多くの施設が満床で予約が取りにくく、介護困難な認知症は断られてしまうなど課題もあり改善が望まれています。

◆在宅医療でできること

その場にあるものを活用する。アイデア次第で減る負担も。
その場にあるものを活用する。アイデア次第で減る負担も。

在宅医療の普及に向けて問題となっていることの一つに「どこまでケアができるのか?」という認知がされていないことが挙げられますが、「手術と、大規模な機械を使うような精密検査以外は、在宅で医療を受けられる」というくらいその守備範囲は多岐にわたります。体温や血圧測定などはもちろんのこと、医師の指示の下、点滴なども自宅で可能です。

病院のように点滴スタンドを使うこともありますが、カーテンレールや、鴨居にハンガーでぶら下げて使うなど、家にあるものを使いながらケアしていきます。医療の現場に関わらず、なんでも専用のものでないと不安だという声はよく聞きますが、実際代用できるものは身の回りに多く、ちょっとしたアイデアで介護が楽になることもあります。

訪問看護師のケアはいわゆる医療行為だけではありません。石塚さんは「介護の愚痴を聞いたり、時にはご家族やご本人おすすめのランチを教えてもらったり」とコミュニケーションの大事さを訴えます。

◆難病への取り組みと問題点

治療方法、介護方法、経済的問題などあらゆる課題のある難病に対する取り組みとして、1989年度から、難病患者医療相談モデル事業が始まり、2003年から2007年にかけて47都道府県に「難病相談・支援センター」が設置されました。また1990年度からは都道府県を実施主体とする訪問診療事業がモデル事業としてスタートしましたが、まだまだその認知度は低く、1997年から始まった難病情報センターによる情報提供をはじめとしたインターネットを活用した取り組みに期待が寄せられています。

今年施行の「難病医療法」によって、難病の患者に対する医療費助成に消費税などの財源が充てられることとなり、治療費のうち公費負担分は、国と都道府県で半分ずつ負担することになりました。しかし、すべての難病患者が対象となっているわけではありません。医療費助成の対象とする疾患は新たに「指定難病」として再定義されることとなりました。条件はたくさんあるのですが、簡単にまとめると「客観的な診断基準があり、患者数が人口の0.1%程度を超えないこと」になります。

これまでは難病の診断は、医師であれば誰でも行うことができたのですが、「難病医療法」では指定難病の新規診断を行えるのは難病指定医のみということになってしまいました。

専門性が求められることはもちろんなのですが、病気発見のきっかけとなる門戸が狭くなってしまっては元も子もありません。大学病院には必ず難病指定医がいることになっていますが、そこへの導線も提示しなければ、適切な医療やクオリティ・オブ・ライフへの道を閉ざしてしまうかもしれません。2015年現在、指定難病患者は約150万人とも推測されています。「指定難病」や「難病指定医」の設定によりせっかく開きつつある難病対策の歩みが止まることのないよう、積極的な情報提供が求められるとともに、在宅医療を扱う企業の活動が期待されます。(矢萩邦彦/studio AFTERMODE・教養の未来研究所)

■関連イベント

フォトジャーナリストと現役看護師が写し出す「在宅」医療の現在「私らしさと、共に生きる。~我が家と訪問看護~」

四ツ谷ひろば CCAA アートプラザ ランプ坂ギャラリー ランプ 2・3にて

2015年12月 12日(土) ~ 21日(月) ※12月17日(木) 休館日

■関連サイト

ケアプロ株式会社

株式会社スタディオアフタモード

アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした学習塾『知窓学舎』を運営。主宰する『教養の未来研究所』では企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに、住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近著『正解のない教室』(朝日新聞出版)◆ご依頼はこちらまで:yahagi@aftermode.com

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