働き方改革「時間でなく成果」はやはり虚偽だった

(ペイレスイメージズ/アフロ)

 働き方改革関連法案がすでに審議入りしており、世論の注目も集まってきました。この法案については、すでに様々な問題点が指摘されており、特に「高度プロフェッショナル制度」(年収1075万円以上、対象職種限定、年間104日の休日保障などの要件で労基法の労働時間規制が適用除外される制度。高プロ制。)について「過労死促進法」「定額使い放題法案」などの異名が定着しています。今年に入ってからは、政府が調査導入の是非を検討した際の基礎データが改ざんされていた問題も浮上し、政府は法案中の裁量労働制の拡大について撤回せざるを得なくなりました。

 2007年の第一次安倍政権の時、現在の高プロ制の原型となった法案が「残業代ゼロ法案」と批判されて廃案になったことを意識してか、政府は、この高プロ制について「時間ではなく成果で評価される働き方の下、高度な専門能力を有する労働者が、その意欲や能力を十分に発揮できるようにしていくことなどが求められており、健康確保措置を前提に、こうした働き方に対応した選択肢を増やしていくことも課題となっている。」などとしており、この「時間でなく成果」が政策の宣伝文句となっていました。新聞紙でも、読売新聞、日経新聞は、いまだに「脱時間給」という世論を誤導しかねない誤ったキーワードを使い続けています。

労基法は「時間ではなく成果」もOKしている

 この「時間ではなく成果」という点ですが、もともと、労働基準法は週40時間、一日8時間の法定労働時間制の範囲であれば、どのような賃金制度を契約しても、それは労使自治の問題である、という考え方をしています(ただし最低賃金法の規制はあります)。成果があがった労働者の賃金を高くすることも、成果をボーナス査定することも、何ら禁止されていないのです。

 そうすると、この「時間ではなく成果」「脱時間給」というキーワードは、法定労働時間制を超えた労働や、法定休日の労働に対して、そもそも禁止する規制や、可とされる場合でも割増賃金の支払を強制する労基法の規制に対するものと考えられます。確かに、直近のところでも、医師について残業代込み込み(基本給等と判別不能)の状態で年俸1700万円とする契約はダメですよ、という最高裁判決が出されました(最二判平成29年7月7日 医療法人社団康心会事件)。

 しかし、そうだとすると高プロ制の「時間ではなく成果」「脱時間給」というフレーズは「残業代ゼロ」を言い換えただけ、ということにもなります。このように労働時間規制を取り払うだけでは、まさに「過労死促進法」となってしまいます。

「成果」ではなく「脱時間」ですらない

 では、現在の法定労働時間制の内側で現行制度と高プロ制を比較した場合はどうでしょうか(念のため言うと高プロにはこのような労働時間の枠組みはありません)。高度プロ制には、「時間ではなく成果」という場合の「成果」の測定方法について何ら規定がないことが、従前から指摘されていました。そして、今国会での政府答弁では、さらに法定労働時間制の内側についても「脱時間」ですらないことが明らかになってきました。

○小池晃君 あのね、同意がある、同意があるといったって、上司から言われたら拒否なんかできないんですよ。今、本当に、部屋に閉じ込められて、もう、やれ、やれ、やれ、やれと迫られると。そういう、笑っている場合じゃないよ、菅さん。それが現場の実態ですよ。全く分かっていない、実態が。

 それから、年収要件が1075万円でごく一部だと言うけれども、日本経団連の榊原……(発言する者あり)うるさいな、ちょっと、自民党席、うるさ過ぎます。日本経団連の榊原会長はこの年収要件の緩和を繰り返し求めていました。

 2015年4月の経営者の会合で当時の塩崎厚生労働大臣はこう言っています。経団連が早速1075万円を下げるんだと言ったものだから、あれでまた質問がむちゃくちゃ来ましたよ、ですから、皆さんそれはぐっと我慢していただいてですね、取りあえず通すことだといって合意をしてくれると大変有り難いと思っていますと。私はこの直後の国会の質問でこれ聞いたら、塩崎さんは、そこはぐっと我慢してくださいねと言っているだけで、私はストレートに言えば、そういうことを言うのはやめてくれということですよと。財界には、年収要件緩和は黙っておいてくださいと、とにかく法案通させてくださいと。

 大臣、前の大臣の発言ではあるけど、こんなことでは年収要件なんというのはアリの一穴でどんどん広がるんじゃないですか。

○国務大臣(加藤勝信君) 今の法律要綱では、高度プロフェッショナル制度の対象となる方の賃金額の要件を、労働契約により使用者から支払われると見込まれる年間の賃金の額が平均給与額の三倍の額を相当程度上回る水準、こういうことを法定するということになっております。大体それがどのくらいかということで1075万という数字は出ておりますが、それはこれから決めていくことになりますが、この考え方は法律を改正しない限り変えることができないわけであります。

出典:2018年3月2日 参議院予算委員会議事録

 太字を付した部分ですが、加藤厚労大臣は、高プロ制の導入要件である年収1075万円について「労働契約により」「見込まれる額」としたのです。これは大変なことです。

 現在、日本のサラリーマンで主流の賃金制度は月給制ですが、実際には欠勤控除がされる場合が多いです。例えば、労働者が業務外で負傷して休業した場合、その分賃金が差し引かれます。高プロ制との関係でこの点を検討するために、例えば、労働契約上、年収1200万円(月給75万円、ボーナスは年2回で半年間の勤務実績90%以上の場合に翌月にボーナスを月給2ヶ月分の150万円支給)の賃金額で制度を導入している場合を考えます。この事例で病気やケガによる欠勤の場合の欠勤控除額を、900万円=(365日-104日)×約3万4482万円という計算式から約3万4482円とし、一日欠勤するごとに同額の賃金を控除することも、上記の加藤大臣の答弁を前提にすれば何の問題もないことになります。

 さらに、この労働者が病気で1年の前半6ヶ月欠勤して、年収が約450万円(ボーナスは2期連続要件を満たさず不支給で75万円×6ヶ月のみ支給)になっても、労働契約上の見込額はもともと1200万円なので、高プロ制を導入し続けることに問題はないことになってしまいます。この場合、後半の6ヶ月に過労死ラインを超える猛烈な長時間労働をして、大きな成果をあげても、年収は450万円ポッキリでOKということになります。なお、この場合、病休で受給できる傷病手当金を計算しても300万円程度であり、合計しても約750万円になります。

まとめ

 結局、この制度は、場合によっては実際の年収がかなり低くても導入可能な上、欠勤控除が可能であるのなら、法定労働時間制の内側ですら「時間ではなく成果」が全く関係ないことになります。欠勤控除は、労働時間と賃金を連動させる考え方の典型だからです。

 また、日本では、大企業を退職すると賃金額が激減するのが一般的なので「そんなひどい会社なら辞めればいいじゃないか」という意見もあまり的を得てないと思われます。

 さらに、上記の国会の質疑でも言われているように、1075万円の年収要件は、導入後に下げられる可能性があります。塩崎前厚労大臣は、財界向けのセミナーで「ぐっと我慢していただいて、とりあえず通すということだ」と語っています。日本経団連は、年収400万円以上の場合に導入する、という政策を持っています。

 このような制度を導入する危険性は、何度でも指摘する必要がありますが、政府が掲げる「時間ではなく成果」という看板が、全くの虚偽であることがますます明らかになってきていることは、重要だと思います。