安倍首相は稲田防衛大臣を即刻罷免せよ(三ヶ月ぶり二度目)

安倍首相と稲田防衛大臣(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 稲田朋美・防衛大臣が、東京都板橋区で行われた自民党の都議選候補の集会でした演説で、また、大きな問題のある発言をしました。具体的な発言の要旨は以下のようです。

自民党の下村博文幹事長代行との強いパイプ、自衛隊・防衛省とも連携のある候補だ。ぜひ二期目の当選、本当に大変だから、お願いしたい。このように防衛省・自衛隊、防衛相、自民党としてもお願いをしたいと、このように思っているところだ。

出典:東京新聞:稲田氏[]発言に批判続々「全自衛官が自民支持と誤解されるのでは」

自衛隊法61条に直接違反する訳ではなさそう

 自衛隊法61条では自衛隊の「隊員」は、一定の政治的活動を禁止されており、罰則もあります。しかし、ここでいう「隊員」からは防衛大臣は除かれています(自衛隊法2条5項)。昨日の稲田氏の発言以降、この規定を引く報道評論が見られます。たしかに、防衛大臣である以上、直接的な適用対象でないにせよ、その趣旨を遵守すべき事は当然と思います。自衛隊ぐるみで自民党を支援しているとも受け取れる発言であり、最後に述べるように、大臣の資質には関わるでしょう。しかし、同条との関係で直接的に稲田氏の行為の違法性が導けるわけではありません。

公職選挙法136条の2に違反する可能性がある

 一方、公職選挙法136条の2は以下のように定めます。後でまとめを書きますので、法律の条文が苦手な方は読み飛ばして結構です。また、条文自体も、本件と関係ない部分は「(略)」と省略して表示します。

(公務員等の地位利用による選挙運動の禁止)

第百三十六条の二  次の各号のいずれかに該当する者は、その地位を利用して選挙運動をすることができない。

一  国若しくは地方公共団体の公務員(略)

二  (略)

2 前項各号に掲げる者が公職の候補者若しくは公職の候補者となろうとする者(略)を推薦し、支持(略)する目的をもつてする次の各号に掲げる行為(略)は、同項に規定する禁止行為に該当するものとみなす。

一  その地位を利用して、公職の候補者の推薦に関与し、若しくは関与することを援助し、又は他人をしてこれらの行為をさせること。

二  その地位を利用して、投票の周旋勧誘、演説会の開催その他の選挙運動の企画に関与し、その企画の実施について指示し、若しくは指導し、又は他人をしてこれらの行為をさせること。

三  (略)

 公選法136条の2の第1項にいう「公務員」は、防衛大臣のような特別職の国家公務員(国家公務員法2条3項2号)も含まれるとされます。そうすると、稲田氏は、同項により、防衛大臣の地位を利用して選挙運動をすることが禁止されていることになります。

 次に、同条2項では、そのような地位を利用した選挙運動を禁止されている防衛大臣が「公職の候補者」を「推薦し、支持」する目的を持って、その地位を利用して、子候補者の推薦に関与したり、演説会の開催に関した場合は、禁止行為に該当する者と「みなされ」ます。二項の場合は問答無用で違法、ということです。もともと不人気の稲田大臣をわざわざ選挙の演説会に呼ぶのも、「自衛隊の駐屯地」の自衛隊員の票を意識している可能性があるだけに、稲田氏がこの演説会の開催にどのように関わったのか、きちんと検証されるべきでしょう。

 いずれにせよ、稲田防衛大臣の発言が特定の自民党の候補者を支持する目的をもって公になされたものであることは明確です。そうすると、稲田防衛大臣が「その地位を利用して」上記発言をしていた場合は、公選法136条の2の第1項違反とる可能性が十分あります。場合によっては、第2項で違法行為とみなされる可能性すらあるでしょう。そして、公選法136条の2に違反した場合、1項にせよ、2項にせよ、同法239条の2の第2項で、「二年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金に処する。」とされています。

稲田防衛大臣の発言は「地位を利用して」に該当するか

 防衛大臣は、自衛隊の「隊員」ではありませんが、「自衛隊」の一部です(自衛隊法2条1項)。そして、内閣総理大臣が「最高の指揮監督権」を有するとする同法7条を受けた上で、防衛大臣は「防衛大臣は、この法律の定めるところに従い、自衛隊の隊務を統括する。」(同法8条柱書)とされています。

 そして「公務員等の内部関係において、職務上の指揮命令権、人事権、予算権等に基づく影響力を利用して、公務員等が部下または職務上の関係のある公務員等に対し、選挙に際して投票を勧誘すること」は、「地位を利用して」に該当するとされます(安田充/荒川敦編著『逐条解説 公職選挙法 下』 2009年1月30日 ぎょうせい 1007頁)。裁判例として「法令上当然には指揮監督権はなくとも、人事、予算等につき影響力を有する地位に当たることを持って他立とした例」として、名古屋高判昭和39年5月11日(判例タイムズ165号113頁)が引用されます。

 稲田防衛大臣は、発言を「撤回」した際と思われる釈明の記者会見で「近くに練馬駐屯地もございますので、大変応援を頂いていることに、感謝をしております、という趣旨で演説を行ったわけでありますが」と述べています(「自民からも“中立は当たり前”稲田氏に批判」 NNN 2017.6.28)。

 これは全く釈明になっておらず、そういう自衛隊の駐屯地が近くにあって、応援して貰っているという認識があるもとで、上記発言を行ったのなら、かえって、自衛隊のトップが自衛隊員に対して自民党候補への投票を呼びかけたことになり、地位を利用した選挙運動をした疑いが強まります。

安倍首相は即刻罷免せよ

 そもそも、自衛隊の駐屯地から大変応援して貰っている、という事実認識自体、おかしなものだと言わなければなりません。自衛隊は、場合によっては強力な防衛力を行使する実力部隊です(「暴力装置」という言葉を用いて批判を浴びた政治家もいましたね)。同時に自衛隊は、国家公務員の組織であり、全体の奉仕者(憲法15条)です。一方、自衛隊は上意下達の関係が極めて厳しい組織なので、選挙に際して自衛隊組織に対して不当な政治的介入が行われれば、自衛隊員の投票の自由が保障されなくなる懸念が出てきます。そのような組織を司る立場にある防衛大臣がこのような発言をすれば、自衛隊そのものが自民党の集票装置なのではないか、と自衛隊の政治的中立性が疑われる事態になりかねません。ただでさえ、自民党の佐藤正久・参議院議員など、自衛隊出身者が各地の自衛隊の隊友会と“二人三脚”で選挙運動を行っている実態があります(拙稿「自民党の18歳選挙権パンフはなにがマズイのか」参照)。

 なお、自民党は、昨年の参院選の際に、「学校教育における政治的中立性の実態調査」と称して教育への政治介入をしました。しかし、もともと、個々の一般職の公務員の職務外での政治活動はかなり自由化されているのが実態です(拙稿「自民党が学校の先生の政治発言の密告を推奨した件」参照)。今回の発言は、自衛隊という上意下達の公務員組織のトップの発言であり、全く質が異なります。前者は問題のものにあえて因縁をつけて政治的な自由を奪おうとするものであり、後者は違法性が大きな問題となります。

 筆者はすでに、教育勅語礼賛、南スーダンPKOの日報隠ぺい問題との関係で「稲田防衛大臣を即刻罷免すべきである」という論考を書いていますが、これで、三つ目の罷免事由(公選法違反の疑い)、四つ目の罷免事由(防衛大臣が自衛隊の政治的中立性に疑念を生じさせた)が発生しました。安倍首相はまだ稲田氏を庇う気でしょうか。安倍首相は4アウトの稲田防衛大臣を即刻罷免すべきでしょう。