湖池屋京都工場で深夜残業代等の賃金未払い

筆者も大好きなんですが・・(写真:アフロ)

去る5月27日、京都地方裁判所(高松みどり裁判官)は、スナック菓子で有名な「株式会社湖池屋」の親会社(株式会社フレンテ。従って被告も同社)に有期雇用され、京都府南丹市にある「湖池屋京都工場」で、ジャガイモのカット、油で揚げられたジャガイモの選別等の業務に従事していた労働者が会社に対して未払残業代の支払い等を求めていた事件(京都地方裁判所平成26年(ワ)3216号)について、支払いを命じる判決を出しました。双方、控訴はせず、判決が確定しました(原告代理人は尾崎彰俊弁護士)。

この件、支払いを命じられた残業代等の賃金額は30万円弱ですが、賃金不払いの典型的なパターンがいくつも含まれている事例であるため、事件概要を紹介します。

その1:昼間でも980円の時給に深夜割増賃金を込みにしてしまう

この事案では労働者は時給980円の時給制で働いていました。そうである以上、夜10時以降の深夜時間帯の労働については、深夜割増賃金245円が上乗せされるべきことになりますが、この割増部分が支払われていませんでした。この点、会社は訴訟において「基本賃金として時給980円とし、深夜労働の割増率を25%としつつ、深夜割増部分は基本賃金に含む」という主張をしていました。時給制の労働者について、深夜でも同じ賃金額を払っておいて「実は昼間の賃金を多めに払っているんだ」という類の主張は、筆者自身も見たことがありますが、もちろん、このような主張が通用するわけはありません。裁判所は夜10時以降の労働分について深夜割増賃金の支払いを命じました。

その2:タイムカード打刻後始業時刻までの準備行為を無視

この工場ではタイムカード打刻後に、(1)作業着への着替え、(2)手洗い・靴底クリーナー・アルコール消毒・エアシャワー・粘着ローラーを行って工場に入る、(3)ラジオ体操・朝礼、(4)始業時刻前にラインに立ち、(5)始業時刻と同時に作業開始していました。

判決では、(3)について参加が任意であった(出なくても不利益が無かった)と認定され、労働時間であることが否定されましたが、(1)(2)については労働時間であると認められました。結局、タイムカード打刻後、始業時刻までの時間から(3)(4)の時間を控除した時間を労働時間として認め賃金の支払いを命じました。

労働時間に該当するか否かは使用者の「指揮命令下」にあるか否かで客観的に決まります。判決は妥当な判断と思われます。

その3:繰上終業の場合の残りの所定時間の賃金不払い

原告は「5時間パート」として労務管理されており、労働契約上、労働時間は「始業17時10分から終業22時10分まで」とされていましたが、一方で「業務の都合その他やむを得ない事情により始業及び終業を繰上げ、又は繰下げることがある。」とされていました。実際には、作業が定時より早く終わることがあり、その場合、22時10分までの賃金は支払われませんでした。

判決は、労働契約の内容として一日5時間労働であることを認定した上、繰上・繰下の規定については「これをもって労働時間をいかようにも変更(伸張及び短縮)することができるとするならば、上記の通り労働契約において始業時刻及び終業時刻を定めた意味を無にするものであるから、この定めは、労働時間を変更しないで、始業・終業時刻を変更できる旨を定めたものにすぎないと解するのが相当」とし、繰上の場合、定時の22時10分までの賃金を支払うように命じました。

この点についても、契約で労働時間が定められていた以上、妥当な判断と思われます。

その4:終業時刻後の作業時間を無視

作業の終了にあわせて10分単位で終業時刻が指示されるものの、その後、(1)工場から退室し、(2)着替え、(3)タイムカード打刻までの時間は労働時間と扱われていませんでした。しかし、裁判所は(1)、(2)については、労働時間と認定し(一日原則3分)、賃金の支払いを命じました。

これについても、始業前の準備行為と同様、妥当な判断と思われます。

まとめ

この工場に限らず、一般論として、昼間でも同額の時給制賃金に深夜割増賃金も込み、とするような措置は違法なので、そのような事業所では当然ながら是正が必要になります。

次に、始業時刻前でも、制服の着脱や消毒等のその他の始業のための準備行為が義務づけられている場合、それらの作業の時間は労働時間とされるのは、過去の最高裁判決でも示されている点です。工場に限らず、店舗でも、始業時刻と開店時刻が同じなのに、実際にはその前にオープン作業をしている場合などがありますね。このような労働時間が実際にはカットされてしまう事例は多いと思われ、現場から声を上げて改善していく必要があります。当然、会社の側からも是正の必要な点です。

そして、契約で一定の労働時間の約束がされている場合、使用者側の都合で業務を切り上げたからといって、賃金の支払義務がなくなるわけではありません。この点で泣き寝入りしている例も多いと思われますが、声を上げれば、賃金を支払わせることは可能です。この点も、会社側からも是正をすべきでしょう。

本件では、これらの点のいずれについても、「湖池屋京都工場」の他の労働者について、少なくとも過去の分については当てはまる可能性が高いと言え、使用者による自浄作用が期待されます。筆者も、ポリンキーやカラムーチョなど湖池屋の製品への信仰を告白せざるを得ない人間の一人ですが、三角形の秘密が不払い残業だ、とか、そういうのはやっぱり嫌ですよね。判決が確定した以上、有名企業が過去の不払い労働を放置するとは思えませんが、同工場がある京都府南丹市を管轄する園部労働基準監督署は、念のため、同工場での是正措置が行われているか(過去の分を含めて不払いが是正されているか)、適切な監督を行うことが期待されるのではないでしょうか。

この件、細かく論じると、他にも論点があるのですが割愛します。労働者側は離職そのものの違法性を争い、地位確認等を求めていましたが、こちらは認められませんでした(この点も含めて確定)。