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引越社関東さん、団交拒否。ダメ、絶対!

渡辺輝人弁護士(京都弁護士会所属)
引越企業である自らをアリに例えるって結構凄いことですよね(提供:アフロ)

ここ数日あのワタミに労働組合ができたとニュースが流れております。経営者が組合結成を「チャレンジ」と言い、いきなりアルバイトも含めて9割の労働者が組合に加入するなど、筆者の周りにいる若手の労働組合活動家たちの苦労・辛酸とは全く異なる世界なのでなかなかビックリさせます。ワタミにできた労組は、拙稿「ワタミの過労自死事件の和解の凄さに付きとりあえずの解説」で紹介した、過労自死事件を支援していた全国一般東京東部労働組合とは全く別の大手の労働組合のようで、わざわざ東部労組とは違う労働組合とユニオンショップ協定(ワタミに入社するとこの労組に加入したことになるそうです)を締結するワタミの経営者の思惑は奈辺にありや、と思ってしまいますね。

それはそれとして、今日は、ワタミではなく、アリさんマークの引越社グループの株式会社引越社関東に対する労働組合の苦労の話です。

団交拒否。ダメ、絶対!

労働者は日本国憲法28条で労働基本権を保障されています。それを具体化したのが労働組合法です。労組結成(団結権)、経営者と労働組合の交渉(団体交渉権)によって労働条件を決めていけば良いじゃない、だけど、組合が弱くても労基法の最低限は守ってね、というのが我が国の労働法制の元々の制度設計です。労使の交渉が暗礁に乗り上げたときは、労働組合には伝家の宝刀であるストライキ権(争議権)が与えられています。

この制度設計からして、労使対等の立場での団体交渉が極めて重要で、そのため、使用者がやってはいけない行為(不当労働行為)のリストに「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。」(労働組合法7条2号)が含まれています。「団交拒否。ダメ、絶対!」ですね。

引越社関東の経営者の漫画的対応

引越業界大手の「アリさんマークの引越社」グループの株式会社引越社関東の数々の所行については、すでに、同社で労働者を組織し、天引きされた賃金や未払残業代の請求を支援しているプレカリアートユニオン(以下「PU」)のブログに多数紹介されています。

最近、PUのブログに、引越社関東の経営者の漫画的な団交拒否のやり方が紹介されています。詳しくはPUのブログ(こちら)を見ていただくとして、概略を紹介します。

(1)「団交する・・!するが・・・東京の霞ヶ関駅とは言っていない」

PUと引越社関東(以下「会社」)は団体交渉をしています。会社の5月11日付「団体交渉開催の件」という文書には「開催場所については、現在検索中で、霞ケ関駅周辺を予定しております。詳細につきましては、分かり次第ご連絡させて頂きます。」と書いてあります。会社の本社は中央区日本橋小伝馬町、PUの事務所は渋谷区代々木にあるようなので、なるほど、両者の中間地点にある地下鉄丸ノ内線の霞ヶ関駅か、と思いますよね。

「霞ヶ関駅周辺」で開催予定
「霞ヶ関駅周辺」で開催予定

ところが、団交前日の5月25日22:00にPU事務所に送られてきたFAX文書には開催場所の住所として「川越西文化会館」とあります。

埼玉・・・だと?

最寄り駅の表示として「霞ヶ関駅より徒歩10分」。グーグルマップで探すと、確かに東武東上線の霞ヶ関駅から500mほどのところに会場がありますね。なるほど埼玉の霞ヶ関駅か・・・・・な訳ないですよね。会社の本社からですら1時間20分ほどかかります。勤務終了後の組合員も参加できません。これではPUに対する嫌がらせです。PUによると、当日、行ったものの、ほとんど話にならなかったそうです。

前日に「埼玉の霞ヶ関駅」
前日に「埼玉の霞ヶ関駅」

(2)「我々がその気になれば団交開催日は10年前20年前だったということも可能だろう・・ということ・・!」

めげないPUは会社に抗議した上、次の団交を設定するよう求めるわけですが、それに対して、6月8日20:04に会社から、開催場所を池袋駅近くの貸し会議室と指定するFAXが入ります。やっぱり山手線圏内でできるじゃないか・・・と思うと、あれ、開催日時が書いてないぞ?

PUは当然、いつやるんですか、日時の候補を下さい、旨の返信のFAXを即日出しました。すると、一日おいて、6月10日、会社から以下のようなFAXが届きました。

「しかしながら、前回の団体交渉の際に、執行委員長の清水様より、「2週間後のこの時間で再度団体交渉を今、正式に申し入れます」と発言され、弊社もその場で了承しておりましたので、2週間後にあたる6月9日18時から開催するものと思い、昨日お待ちしておりました。」

翌日に「実は昨日でした」
翌日に「実は昨日でした」

・・・どこの○愛グループなのかと思ってしまいました。組合が、日時の確認を即座にしているのに翌日の日中無視して、翌々日に「昨日でした」というわけです。しかし、現実世界では、このように子供じみたトリックを使って団体交渉をしないのなら、結局、団体交渉を拒否したのと同じで、不当労働行為になります。

違法行為は企業の信用を低下させる

PUもその例に含まれる、最近の労働組合は、有効なストを講じるのが困難なため、企業の不当労働行為を積極的に情報発信する方針を採り始めており、インターネットを通じて瞬時に日本中に広まります。引越社関東は、昨年来の数々の所行がネットで公開され、大きな話題になりました。こんなことやって、会社は売上を維持できているのでしょうか。やはり、現代でも、企業が、職場の労働問題の解決を求める労働者や、労働組合に対して違法行為をすれば、それなりの報いを受けるのだと思います。引越社関東も、その他の企業も、団体交渉くらいは、真面目にやるべきだと思います。なんと言っても、それがまともな労使関係を作る第一歩なのですから。

弁護士(京都弁護士会所属)

1978年生。日本労働弁護団常任幹事、自由法曹団常任幹事、京都脱原発弁護団事務局長。労働者側の労働事件・労災・過労死事件、行政相手の行政事件を手がけています。残業代計算用エクセル「給与第一」開発者。基本はマチ弁なので何でもこなせるゼネラリストを目指しています。著作に『新版 残業代請求の理論と実務』(2021年 旬報社)。

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