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ひらきなおれず!舛添要一氏の陰で「飛んで」しまった課題

渡辺輝人弁護士(京都弁護士会所属)
舛添要一氏の公式YouTubeより

舛添要一・東京都知事が辞表を提出しました。舛添氏の問題は、出張旅費の濫用の問題に始まり、政治資金の濫用・流用の問題に発展していきましたが、前者は所詮ローカルな東京都の財政の問題で、後者については東京都の財政にすらあまり関係ない一政治家・舛添要一の問題でした。日本国民の将来がかかった7月10日の参議院選挙を前にして、「事実上の選挙戦」が始まっているにもかかわらず、毎日一定量しかないニュースの時間を東京ローカルのネタに占領されることに、筆者は「それでいいのか」という思いに駆られていました。しかし、舛添氏は辞任し、参院選・東京都知事選に向けてことは動き始めました。そこで、舛添氏の問題でどこかへ飛んで行ってしまった、法的にも、政治的にも重要な問題について、いくつか指摘しておこうと思います。

1 舛添氏を都知事候補に担いだ人たちがいること

すでに拙稿「ひらきなおれ!舛添要一」で指摘したことですが、舛添氏の政治資金に関する疑惑は2014年2月の舛添氏が当選した東京都知事選の前から指摘されていました。東京都知事の旅費濫用についても、石原慎太郎氏のガラパゴス旅行以来、東京都では“当たり前”になっていたことでした。

それらの問題がすでに顕在化していたのに、特に問題にされることもなく、舛添氏は都知事候補として担がれたのです。下記動画をご覧下さい。YouTubeの舛添氏の公式ページにアップされていたものですが、タイトルは「舛添要一(ますぞえよういち)【東京都知事選 2014 街頭演説動画】自民党の安倍総裁、公明党の山口代表と共に支持を訴えました!- 2月2日(日) 銀座編-」です。

司会は東京都選出の自民党の参議院議員・丸川珠代氏ですね。舛添氏を紹介するときに「私たちにはこの人しかいない」(2:36~)と言っています。

舛添氏本人の演説の後に登場するのは山口那津男・公明党代表(10:47~)です。街宣に公明党の街宣車が使われていることを指摘した後、「ぜひとも、舛添さんに勝ってもらって、この世界の都市東京、日本の首都東京、素晴らしい世界一の都市東京を作ろうではありませんか」(11:18~)と述べます。

その次にマイクを握ったのは安倍晋三・自由民主党総裁(総理大臣)(19:23~)です。「この東京の良さを引き出し、競争力を引き出し、国際社会における、この競争に打ち勝つことができる、その都知事候補は、舛添要一さんしか、みなさん、いないじゃないですか」(25:46~)と言った上、安倍氏、舛添氏、山口氏が三人で手をつなぎます。

すでに指摘されていた舛添氏の政治資金問題に知らん顔して、舛添氏を推薦した人たちに、責任はないのでしょうか。

2 東京五輪の裏金問題がどこかへ行ってしまった件

思い返してみると、舛添氏の問題に火がつく直前まで、私たちが目にしていた政治ニュースは、2020年の東京五輪招致に絡む裏金問題でした。2億2千万円ものお金(実際には10億円ものお金が動いた、という報道も一部にあります)が投票権を持つ国際オリンピック委員会の委員の買収工作に関連して使われた、とも言われています。フランスでは、現在でもこの問題の捜査が続いており、万が一の可能性としては東京五輪が取り消しになることもありうるとさえ言われています。

五輪招致委員会は、東京都や日本オリンピック委員会などが中心になって作られたNPO法人ですが、すでにホームページの主要部分は消され、財政報告を見ることはできません。一方、オリンピック招致に多額の都税(平成24年度、25年度だけで33億円)が投入されたことは明らかであり、本来、6月の東京都議会では、この問題も審議されるものと思っていました。が、舛添氏の問題で完全にどこかへ行ってしまいました。

私も一国民として支払っている税金が、疑惑にまみれた東京五輪に関連して投入されるのは、正直言って御免被りたいです。また、報道されていることが本当であれば、五輪絡みの不正な金員の額は、舛添氏が不正に使用したお金の比ではないはずです。参院選でも、都議会でも、焦点にされるべきこの問題が舛添氏個人の問題に押し出される形でどこかへ行ってしまったのは遺憾としか言いようがなく、今後の都知事選、参院選で改めて議論をして頂く必要があると思います。徹底調査と、クロだった場合のオリンピック返上を掲げるくらいの都知事候補は出てこないのでしょうか。そういう政党はないのでしょうか。

3 政治資金規制法、収賄関係の法律の改正こそ急務

舛添氏の政治資金問題は、一部、違法の可能性もありますが、多くの部分は乱脈ではあっても、現行法では責任すら問えない可能性すらあります。これは舛添氏に限った話ではなく、今の政治資金規正法はあまりにザル法過ぎ、小渕優子氏(元経産大臣)、下村博文氏(前文科大臣)など、安倍政権の閣僚たちがザルの目をかいくぐって責任を問われないままになっています。安倍首相自身の多額のガソリン代の問題は利益供与の可能性すら指摘されながら大きな話題になっていません。これを機に、政治資金規正法の改正をすべき事は、国民の大方が一致する意見なのではないでしょうか。

そして、政治家と金の問題では、この間、甘利明(前特命大臣)によるあっせん利得の問題について、東京地検特捜部が不起訴にする、という大変ショッキングな話題がありました。この件も、舛添氏の問題に押しのけられる形で、どこかへ行こうとしています。あれだけ証拠が揃っているのに不起訴になるのなら、今後、政治家が汚職めいたことをやっても、ほとんどは無罪放免になってしまうでしょう。そうであるのなら、悪いのは法律です。政治家の贈収賄をもっと厳しく取り締まる法律の制定は待ったなしの課題であるはずなのです。

報道各社は、舛添氏に対する微に入り細に穿った報道と同じレベルで、これらの問題を報道し、追及し、不正を暴き、厳しい法律を制定するために、頑張って戴きたいと思います。そうしないと、我が国の政治倫理は、崩壊してしまいます。政権に近い者だけが免罪され、そうでない者はマスコミ総動員でクビを飛ばすことになってしまうのですから。

弁護士(京都弁護士会所属)

1978年生。日本労働弁護団常任幹事、自由法曹団常任幹事、京都脱原発弁護団事務局長。労働者側の労働事件・労災・過労死事件、行政相手の行政事件を手がけています。残業代計算用エクセル「給与第一」開発者。基本はマチ弁なので何でもこなせるゼネラリストを目指しています。著作に『新版 残業代請求の理論と実務』(2021年 旬報社)。

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