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安倍君、言葉を慎みたまえ

渡辺輝人弁護士(京都弁護士会所属)

いやー、昨今の国会の安倍首相の発言。酷いですね。酷いのに大手新聞があまり取り上げないのでいくつかピックアップして見たいと思います。

「日教組、日教組」

2月19日の民主党の玉木議員の国会質問。精糖業界が傘下に置いている会社を通じてTPP交渉直前に西川公也農林水産大臣の政党支部に100万円の献金をしていた問題についての質問をしていたようです。TPP交渉では砂糖を自由貿易の例外とするかが焦点となっており、法的には、業界団体が迂回献金をする手法を許して良いのかかが問題なのです。ところが、質問中、安倍首相が「日教組」「日教組どうするんだ」と繰り返し不規則発言をし、議長にすら「やや、総理、静かに」とたしなめられる始末。質問者の玉木議員、安倍首相が質問と関係ない不規則発言を繰り返しているので、ブチ切れてます。下記動画だと20:55のあたりから問題の場面になります。

総理大臣は国会質問に答える側の人間なので、ヤジはもちろん、野党議員が質問中に逆質問をする行為自体が「質問を質問で返すなあーっ!」という例のマナー違反なんですが、さらに教職員組合の名前を持ちだして非難するセンスも総理大臣としては大変下品で、憲法で定められた首相の職責の重さに悖る行為だと思います。安倍首相の中では日教組という組織はショッカーみたいな悪の組織の象徴なのかもしれませんが、それを口にして相手を攻撃した気になるのは、ほとんどネット上の落書きレベルですね。

憲法9条はどこへ行ったのさ

集団的自衛権に関する安倍首相の国会答弁も、もはや完全にぶっ飛んでいます。首相の答弁によると、ある国や勢力がホルムズ海峡に機雷を撒いたら、集団的自衛権を行使して、自衛隊が機雷を除去するんだそうですが(2月16日朝日)、その根拠は昨年7月の閣議決定にある「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使することは~中略~憲法上許容される」という文言のようです。

この閣議決定自体が憲法違反であることはもちろんですが、安倍首相の答弁は、もはやこの閣議決定をダシにして、日本にとって何か不利益なことがあれば、自衛隊が同盟国と一緒に世界中どこでも武力行使できると言っているに等しく、そもそも憲法9条が武力行使を禁止していることと全く矛盾する答弁になってしまっています。安倍首相は同盟国が他勢力に対して先制攻撃して、その勢力が反撃してきた場合には自衛隊が参戦可能だ、という答弁もしており(2月2日日経「同盟国先制でも「行使できる」 集団的自衛権で首相が見解 」)、これでは、平和憲法を持っている国が、かえって世界有数の好戦国になってしまいます。内閣総理大臣が負っている憲法尊重擁護義務を完全に逸脱しているように見えます。

憲法24条は変な厳格解釈して同性婚を否定

一方、安倍首相は2月18日の国会答弁で「現行憲法の下では、同性カップルの婚姻の成立を認めることは想定されていない」と述べました(2月18日朝日新聞)。確かに憲法24条1項は「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。 」としていて、婚姻は「両性」(男と女)がするものだという文言に読めます。しかし、この規定の意味は、旧民法で結婚について親の許可が必要だったことを改め、カップル相互の同意のみで結婚できるようにしたことに意味があります。憲法は国民が国に対して有する権利の章典なので、憲法ができた当時、同性婚が想定されていなかったとしても、憲法が同性婚を否定したり、抑制的な態度を取っているとは到底思えません。有名な憲法の注釈書を読んでも、憲法24条のところには「同性婚の許容性」という項目すら存在しません。許容されて当然だからです。また、フランスがそうだったように、同性婚を認める前に、まず、同性間でも異性間でも利用可能なパートナー同士の相互扶助契約を立法することも可能でしょうし、そういうことを日本国憲法は何も否定しないはずです。

安倍首相の答弁は、憲法24条1項を「結婚は男と女しかできないんだ」という国民に対する義務規定だと捉えているようにも見えます。いずれにせよ、単に政策的にやりたくないだけのことを、日本国憲法のせいにする態度は法律家として許しがたいものがあります。

もっと批判を

上記はわずかな例ですが、今のマスコミを通じた報道は、安倍首相の常軌を逸した言動を伝えなかったり、大きな問題はないものとして政治論争の範疇としてしか伝えない傾向があります。しかし、我が国は日本国憲法を根本規範とする法治国家です。首相が国会で責任を果たさず、憲法を逸脱する発言を繰り返していることについて、もっと公然と批判がされるべきだと考えます。

弁護士(京都弁護士会所属)

1978年生。日本労働弁護団常任幹事、自由法曹団常任幹事、京都脱原発弁護団事務局長。労働者側の労働事件・労災・過労死事件、行政相手の行政事件を手がけています。残業代計算用エクセル「給与第一」開発者。基本はマチ弁なので何でもこなせるゼネラリストを目指しています。著作に『新版 残業代請求の理論と実務』(2021年 旬報社)。

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