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あれ、コンビニから「成人誌」は無くなったはずでは? 終了から1年2カ月経っての実情

渡辺広明コンビニジャーナリスト/流通アナリスト

 コンビニエンスストアにおける成人雑誌の取り扱いは、まず2018年1月をもってミニストップが販売を中止し、ついでセブン-イレブン(以下セブン)、ファミリーマート(以下ファミマ)、ローソンが2019年8月末に取り扱いを止めた。一応、0・2%の店舗では継続販売がなされているというが、近所のコンビニから成人誌は姿を消したと言えるだろう。

 背景にあるのは、子供や女性客が不快にならないようにするための配慮だ。それに東京五輪やその先の大阪万博などで外国人観光客が増加することを見越しての対応もあった。そもそもコンビニにおける成人誌販売は、店からすると割に合わないものだった。2018年ごろのデータを振り返ってみると、コンビニにおける成人雑誌の売り上げ単価は、1日1店舗あたり200〜300円。雑誌の価格が400〜800円前後だったとすると、売れたのは3日に1冊程度だったことになる。だから販売効率の観点からも、成人誌に売り場スペースを割くことは決して正解ではなかったのだ。

 そんな成人誌が店頭から消えて1年2カ月が経つわけだが、先日訪れたセブンで、それと思しき雑誌を発見した。媒体への配慮および多くの人の目に触れるであろうYahoo!ニュース 個人への掲載であることを加味し、モザイクをかけている。

 試みに近所のコンビニを回ってみると、別のセブンでまた異なる雑誌が、ローソンでまた別の雑誌が見つかった。ファミマにはなかったが、たまたま私が見つけられなかっただけかもしれない。

大手コンビニで発見したソフト成人誌 筆者撮影
大手コンビニで発見したソフト成人誌 筆者撮影

何をもって私がこれらを「それと思しき雑誌」と判断したのかは説明が難しく、以下は独断と偏見に基づく分析になってしまうことを了解されたい。「子供に聞かせられないワードが表紙に載っている」がこれらの共通点ではある。

◆出版社とコンビニの妥協点

 先に答えを言ってしまえば、これらの雑誌は、もともと成人誌を作っていた出版社とコンビニとの「妥協の産物」であるといえる。コンビニで成人誌の扱いをやめるとなった時、作り手は大いに困った。なにせ約2万店のセブンを筆頭に、万単位での売り場で雑誌を売ることができなくなってしまうのだ。

 そこで考えたのが、グレーゾーンを突く「ソフト路線」ともいえる方向性だ。全ページが成人向の内容だった成人誌を改め、非アダルトのコンテンツもページに入れる。だからこれらの雑誌には、プロ野球の歴史やテレビのヤラセの解説記事、お菓子の「おまけ」についての紹介や、白人至上主義団体「KKK(クークラックスクラン)」特集も載っている。

成人誌の編集者が、

〈事件やスポーツなどの記事もあり、その合間合間にヌードや成人向けのページがあるイメージです。これならばグレーゾーンをうまく突けるだろうと考えたわけです>

と取材に答えている通りだ(19年10月4日配信「デイリー新潮」より)

また、これまで成人誌を商品の宣伝に活用していた映像メーカー関係者も、次のように語る。

「コンビニでの取り扱い中止で、弊社の商品の売り上げにはそれほど影響はありませんね。もともと成人誌を読んでいた世代は高齢化していますし、若い人はインターネットを使いますから。ただ、映像作品そのものの写真を載せなければ、コンビニでも雑誌を扱えるというルールがどうやらあるみたいです。私は『ソフト成人誌』と読んでいるのですが、女優さんのグラビアやインタビュー記事などそうした媒体に載せてもらって、引き続き雑誌を宣伝に活用させてもらってはいます」

もっとも販売中止直後は、コンビニ側も「ソフト成人誌」の過激な表現を取り締まり、表紙を穏当なものに修正するよう、出版社に注文していたそうだ。販売中止から1年2カ月が経ち、双方の妥協点もある程度固まってきたということだろうか。

◆これでいうかというと…

 とはいえ、現状の販売方法で良いかというと、難しいと考える。これも配慮なのであろう、各誌とも表紙には裸体ではなく水着を着けた女性が起用されている。とはいえ、中身をめくればヌードの女性が映っているページもある。建前上は成人誌ではないのかもしれないが、ではこれを未成年に見せられるかというと、断じてそれはない。実際、この記事を書くために雑誌を購入する際、小学生と思しき少年たちがレジの前に並んでいたため、彼らが去るまで待った。また、酒類を購入する時のような年齢確認もされなかった。「成人誌」ではないので当然といえば当然なのかもしれないが、釈然としない。

 なお、各誌ともテープで雑誌は止められていた。一般誌もテープで止めている店舗だったので、これが中身ゆえの配慮なのか、立ち読み防止なのかは定かではない。

販売中止の背景には、逆説的だが、2000年代の初めに成人雑誌に貼られ出した「テープ」の影響もあったかと思う。各地域の条例に基づく青少年に向けた配慮だが、私の印象では、これを免罪符とばかりに成人誌の表紙は過激化し、女性や子供に不快感を与えるもになった。あの時、テープをつけると同時に、シンプルな文字だけの表紙などにすれば、いまもコンビニで成人誌は展開されていたかもしれない。これもコンビニの歴史のひとつの出来事なのだろう。

コンビニジャーナリスト/流通アナリスト

渡辺広明 1967年生まれ、静岡県浜松市出身。コンビニの店長、バイヤーとして22年間、ポーラ・TBCのマーケッターとして7年間従事。商品開発760品の経験を活かし、現在 (株)やらまいかマーケティング 代表取締役として、顧問、商品開発コンサルとして多数参画。報道からバラエティまで幅広くメディアで活動中。フジテレビ「Live News a」レギュラーコメンテーター。 「ホンマでっか⁉︎TV」レギュラー評論家。全国で講演 新著「ニッポン経済の問題点を消費者目線で考えてみた」「コンビニを見たら日本経済が分かる」等も実施中。

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