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コロナバブル崩壊でマスクより値動きが激しかったのは… 「在庫速報.com」運営に聞く

渡辺広明コンビニジャーナリスト/流通アナリスト

マスクやうがい薬などの日用品のみならず、このコロナ禍では“巣ごもり需要”でNintendo Switchなどの娯楽品も品薄になった。そんな折にスタートした「在庫速報.com」は、ネット上に点在する商品の販売価格を一覧で確認・比較できるサービスだ。取材やメディア出演時には私もたびたび参考にさせて頂いている。運営する「アスツール株式会社」加藤雄一代表取締役への取材の模様を、対談の形でお届けする。

アスツール株式会社の加藤雄一代表取締役
アスツール株式会社の加藤雄一代表取締役

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渡辺広明(以下、渡辺):今日はよろしくお願いします。在庫速報.comのサービスは今年に入って始められたようですが、もともとはどういった事業をされていたんですか?

加藤雄一代表取締役(以下、加藤氏):「Smooz(スムーズ)」というブラウザアプリの開発をしています。創業4年、社員は私を含めて6名のベンチャーです。ブラウザというと、アップルの「Safari」やグーグルの「Chrome」がおなじみですが、分かりやすく言えば、これらは万人に向けて作られた「ママチャリ」です。僕らが作っている「Smooz(スムーズ)」はロードバイクやクロスバイクで、少し操作方法を覚える必要があるけど、慣れればとても便利というブラウザです。

渡辺:流通とは関係ない会社なんですね。なぜ「在庫速報.com」のサービスを?

加藤氏:コロナでマスクが手に入らず、社員が困っていたことがきっかけです。最初は「マスク在庫速報」の名前でスタートしました。3月の頭くらいに「やろう」と決めて、3週間ほどでサービスを開始しました。

渡辺:マスクの品薄が問題になっていた頃ですね。私も「マスク品薄評論家」としていろんなメディアに出させてもらっていました(笑)。最初から、現在のようなサービスの形を想定していたんですか?

加藤氏:いま、マスクに関してはAmazonや楽天といったECサイトと、UNIQLOやアイリスオーヤマのメーカーサイトから情報を集め、その販売価格を紹介しています。構想段階では、リアル店舗(実店舗)の販売状況も取り扱おうかと考えていました。ですがあの頃は、リアル店舗に在庫があると紹介したら、お店にお客さんが殺到してしまう恐れがありました。「密」を招いてしまうし、県をまたいで買いにいく、なんてリスクもあるなと思い、止めたのです。一方、ネットであれば、お金を出しさえすれば、マスクが購入可能な状況でした。そうした情報を全部集約して比べられないかな?というのが原点にあります。

渡辺:収益化はどうやって?

加藤氏:アフィリエイトですね。在庫速報.comを通じて商品を買って頂ければ、いくばくかのキャッシュバックが弊社に入るという仕組みです。ただ、アフィリエイトの対象にならないサイトもあるので、半分はボランティアの気持ちで運営しています。「ここのアフィリエイト率が高いから、在庫速報.comで上位に表示させてクリックしてもらおう」というのもやっていません。基本的にはユーザーのためになるものを作って、そこから売上があれば……という意識ですね。

◆扱う店舗データは膨大、価格をどうやって集約しているのか

渡辺:利用者がもっとも多かった時期はいつ頃ですか?

加藤氏:4月のGW前ですね。訪問者ベースでいうと、月400万人にご利用いただきました。正直、こんなに利用いただけるとは思っていませんでした。自分や社員、その家族など、身の回りの人の役に立てればいいかなくらいの気持ちだったので。

渡辺:在庫速報.comは、マスクの値段が「1枚ごと」の表示になっているのが便利です。

加藤氏:多くの方に支持いただいたのは、そこが大きかったと思います。楽天さんやYahooさんなどの通販サイトでもマスクで検索するとヒットするのですが「5000円」「8000円」と値段が出るばかりで……。

渡辺:何枚入りかわかりにくい、と。マスクでは「枚数」もポイントですもんね。

加藤氏:通販サイトの場合、出店業者によって、値段や枚数の表記が異なるんです。だから在庫速報.comで商品情報を集める際には、商品タイトルから「たぶん50枚入りだろう」というのを機械学習的に解析しています。99.9%は正確な情報をご紹介できているのですが、たまに商品情報に〈当店の販売数5万枚突破!〉のような文言があると、5万枚として計算されてしまうことも……。

渡辺:一枚あたりがすごく安いことになってしまう。

加藤氏:そうなんです。ですので、平均値よりあまりに安い商品がある場合には、内部で通知を飛ばし、人の目で確認してからデータを採用するようにしています。

渡辺:毎日18時更新の区切りで、その日の価格を表示するようにしていますね。

加藤氏:商品価格はリアルタイムの価格を表示していますが、サイトに掲載している価格推移表については、毎日1回18:00に更新をかけています。日ごとの大枠の価格の変動具合がわかればいいかなと思い、そうしました。18時の更新前に一度、僕のところに価格情報が届くようになっています。

渡辺:なるほど、そこで価格はおかしくないか〈5万枚〉が反映してないか、確認されると。今は全部で何種類のカテゴリの価格を表示しているんですか?

加藤氏:ちょうど20種類ですね。

渡辺:サービスのライバルでいうと「価格.com」(運営:カカクコム)になるんでしょうか。

加藤氏:そうですね。ただ、在庫速報.comは「需給ギャップ」を埋めるのが目的で、価格.comさんは商品を比較検討するサービスですから、少し違うと思っています。

渡辺:あちらはレビューサイトの性格もありますからね。マスクやフェイスシールドなどのコロナ関連商品と共に、ゲーム機なども扱われています。今もマスクカテゴリが一番見られていますか?

マスクの価格推移
マスクの価格推移

加藤氏:そうですね。マスクも値段は落ち着き、ピーク時より8~9割価格が下落して1枚10円を切っている状況です。ただ、それでも日本製のマスクは1枚70円(※取材時、9/26日現在は平均価格62円)と、原価が違うこともあって、同じ「マスク」でも値段にずいぶん差があるんです。「夏用マスク」や「小さめマスク」など、ユーザーが求める情報にも細かい差があり、そこもカテゴリ別に販売状況を表示するよう、改善しています。

渡辺:マスクの値段が下がってきたのはGW後くらいでしょうか。私も何度か東京・新大久保に足を運び、マスク事情をウォッチしてきました。(参考:「マスクがコンビニにいつも並ぶ時が品薄解消」)

加藤氏:在庫速報.comのデータでもそうですね。

渡辺:これにははっきりとした理由があって、3月31日に、マスク生産の中心地の中国で、規制が緩和されたんです。海外にもマスクを輸出できるようになった。そこから船便などで2週間くらいかけて日本に届くようになり、在庫が出回りはじめたのがGWの後くらいです。モノが出てきたら、当然、値段は下がります。

加藤氏:それは納得です。以降、マスクの価格はずっと下落しています。

渡辺:いま1枚4円で売っている業者さんもいますが、そうしたところは赤字だと思いますよ。お金に換えないと倉庫代がかかってお金がかかるという状況でしょうね。

加藤氏:原価構造を知りたいところですね。

渡辺:計算してみましょうか。コロナ前、大手ドラッグストアのマスクの価格は、50枚で600円くらいが相場でした。おそらく卸値はその半分の300円。これは日本開発製品のきちんとした商品ですが、それはいったん置いておきましょう……。300円のうち20%が卸業者のマージンとなると、240円位が製造メーカー出しの価格です。そのうち50%が儲けでしょうから、原価は100円〜120円くらいではないかと推察します。

加藤氏:120円を50枚で割ると……1枚あたり2.4円ですか。もうちょっと下がることになりますかね。ただ、1枚あたりを安く設定している業者さんは、販売単位が1000枚と多いケースがあります。もしかすると卸業者さんがそのまま出店していることも考えられますから、そうなるとたしかにギリでしょうね。

◆1万円が300円になったのは……

渡辺:倉庫保管料もかかってきますからね。さらにいえば、マスク以上に業者を困らせているのは消毒液なんです。次亜塩素酸水です。マスクはまだ店によって品薄ですが、こちらは小売業でも在庫が余っている状況のようです。

加藤氏:ためしに在庫速報.comで「除菌スプレー」の変動を見てみると……。おお、値下がりがすごいですね。1万円だったものが、今の平均価格は300円台です。

アルコール除菌商品の価格推移
アルコール除菌商品の価格推移

渡辺:マスクの波にうまく乗れなかった業者が、二匹目のドジョウ狙いで参入したようなのですが、事態は深刻ですよ。

加藤氏:この値動きを見ていると、改めて資本主義だなあ、と思いますね。需要と供給がマーケットの力によってマッチングされて価格が決定されていることが明確に分かりますね。

渡辺:ここまで世界的に同じものの値段が動いたのは、それこそ太平洋戦争(1941~45年)以来では?と思いますね。

加藤氏:オイルショック(73年)の時はどうだったんでしょう。

渡辺:あれは、コロナ禍のトイレットペーパー不足騒動と同じだと私は思います。店頭から無くなりはしましたけれど、値段はあまり変わらなかったはず。というのも、マスクや次亜塩素酸水は新規参入しやすい商品ですけれど、トイレットペーパーやティッシュを作るには巨大な設備が必要ですから、新規参入はできなかったと思いますよ。だから不足はしても、値段は上がらなかったはず。

加藤氏:経済学の題材になりそうですね。実際、在庫速報.comのデータを利用される際には所属を入力してもらうのですが、教育関係の方が多いです。

渡辺:流通アナリストの立場からですと、「家電」や「野菜」の価格変動を知りたいですね。買い時や高騰について、よく取材されるので……(笑)。旅行なんかも面白いかもしれません。いや、妄想が広がるサービスですよ。

コンビニジャーナリスト/流通アナリスト

渡辺広明 1967年生まれ、静岡県浜松市出身。コンビニの店長、バイヤーとして22年間、ポーラ・TBCのマーケッターとして7年間従事。商品開発760品の経験を活かし、現在 (株)やらまいかマーケティング 代表取締役として、顧問、商品開発コンサルとして多数参画。報道からバラエティまで幅広くメディアで活動中。フジテレビ「Live News a」レギュラーコメンテーター。 「ホンマでっか⁉︎TV」レギュラー評論家。全国で講演 新著「ニッポン経済の問題点を消費者目線で考えてみた」「コンビニを見たら日本経済が分かる」等も実施中。

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