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【戦国こぼれ話】伊達氏、北条氏、佐竹氏、武田氏ら戦国大名を支えた御用商人たち

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
今も昔も経済を動かすのは商人だった。(提供:KIMASA/イメージマート)

 「商人」という言葉は古いものの、現在の世界経済を支えるのは商才が豊かなビジネスマンである。それは戦国大名にも商人が欠かせざる存在だった。以下、その一部を紹介することにしょう。

■伊達氏の豪商・簗田氏

 会津(福島県会津若松市)に本拠を構えたのは、豪商の簗田氏だ。簗田氏は薩摩国阿佐郡に本拠を持つ武士だったが、南北朝期に会津に移り住んだという。

 天正5年(1577)、簗田氏は大名の蘆名氏から、商人が販売する塩などの商品への課税権を認められた。簗田氏は特権を与えられ、御用商人としての地位を認められたといえよう。

 天正17年(1589)に伊達氏が会津に入ると、簗田氏を商人親方に任命した。その役割は、市の開催など商売を取り仕切るもので、簗田氏は自由な通行権を認められた。

 また、商人が商品の運搬中に盗賊の被害に遭った場合は、簗田氏が商品を取り戻す交渉も行った。紛争解決も、商人親方の役割の一つだったのである。

■北条氏の豪商・宇野氏

 関八州を支配した北条氏の豪商としては、中国から渡来した宇野氏が有名である。宇野氏の先祖は、薬の売買をしていた外郎(ういろう)氏だった。

 外郎氏は15世紀後半に博多(福岡市博多区)に渡来し、天文8年(1539)に小田原(神奈川県小田原市)に住み着いたという。

 のちに外郎氏は宇野定治と名乗り、北条氏綱から武蔵国河越(埼玉県川越市)の今成郷の代官職を与えられた。それは商人というよりも、武士に近い存在だった。

 『小田原所領役帳』によると、宇野氏は「御馬廻衆」として、直属の親衛隊の役割も担った。当時の商人には武士的な性格を持つ者も珍しくなく、武士だった宇野氏は薬の売買にも携わっていたのだ。

 北条氏には、宇野氏のほかに甘粕で塩の売買をしていた長谷部氏、武蔵熊谷城下で小間物店や木綿売買宿を支配していた長野氏らの多彩な商人が存在し、領国経営を支えていたのである。

■佐竹氏の御用商人

 常陸佐竹氏の御用商人としては、深谷、遠山、小川などの諸氏がいた。深谷氏の場合は商人役免除の特権を佐竹氏から与えられており、領内の商業の采配などで貢献していた。

 天正19年(1591)に佐竹氏が水戸(茨城県水戸市)に入ると、深谷氏らは城下町の形成プランに参画し、商人たちを城下に集住させた。

 深谷氏らは領外からの商人に宿を提供するなど、佐竹氏やその家臣との仲介役を担った。さらに、商品価格の決定、商人の売上代金の立替・預託などの業務もこなしたのである。

■上杉氏の御用商人

 越後上杉氏に仕えた御用商人としては、青苧座の頭人を務めた蔵田氏がいた。蔵田氏は、もと伊勢神宮の神官であったといわれている。

 15世紀前半、すでに蔵田氏は青苧座を支配していた。青苧とは麻の原料のことで、京都や摂津で売買されるなど、越後で一番の特産品だった。

 蔵田氏は売買取引、青苧役の徴収、そして柏崎港(新潟県柏崎市)からの輸送の管理などを行っていた。

■武田氏の御用商人

 甲斐武田氏の御用商人としては、古府八日市(山梨県甲府市)の坂田氏がいた。坂田氏はもともと伊勢・北畠氏の家臣だったが、16世紀前半に甲府へ移り住んだ。

 坂田氏の商いの中心は、駿河や相模で水揚げされた魚介類を仕入れ、甲斐に流通させることだった。

 甲斐は海岸に接していないため、魚、塩、干物などの海産物を調達することは、極めて重要だった。

 こうして坂田氏は諸役免除の特権を武田氏から与えられたが、天正10年(1582)に武田氏は滅亡する。

 武田氏に代わって浅野氏が甲斐に入ると、引き続き坂田氏に領国内の魚介類の取引などを一手に任せた。

 代わりに坂田氏は年に一度、浅野氏に40両の納入をしなくてはならなかった。さらに、坂田氏は麻布取引の課役徴収を担当し、木綿役として金子の納入を行っていた。

 このように、戦国大名の商人はさまざまな特権を与えられる代わりに、大名に奉仕するなどして、繁栄の礎を築いたのである。

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『大坂の陣全史 1598-1616』草思社、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房、『倭寇・人身売買・奴隷の戦国日本史』星海社新書、『関ヶ原合戦全史 1582-1615』草思社など多数。

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