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【特別養子縁組】養子がひとりで悩まず「生みの親は誰?」と聞ける仕組みを ルーツ探し支援へ研究会

若林朋子北陸発のライター/元新聞記者
特別養子縁組の戸籍に実親の名はなく、養親と養子の続柄は実子の場合と同じように記載(写真:mapo/イメージマート)

 日本財団は「養子縁組記録の適切な取得・管理及びアクセス支援に関する研究会」を立ち上げ、10月6日にオンラインで初会合を開いた。研究会の委員は有識者や養親(里親)、養子、自治体・あっせん団体などの関係者、日本財団の担当者などで年度内は毎月、検討を進める。2022年4月4日の「養子の日」までに成果を取りまとめる方針。初回は養子当事者がルーツ探しの体験や、どのような支援が必要だと感じたかを発表し、ほかの委員と質疑応答を行った。意見交換では開示のためのガイドラインを策定するために、どのような情報を集めるべきか、海外の事例を踏まえて検討していくことなどが確認された。

 はじめに日本財団公益事業部国内事業開発チーム・チームリーダーの高橋恵里子さんが「特別養子縁組の普及を進めてきた経緯を紹介し、養子縁組記録の保管・開示と『出自を知る権利』をどう守るか。国際的な養子縁組をどうしていくか、子ども庁創設の動きにおいて特別養子縁組についてどのように理解を求めていくか」などの課題を考えていきたいと研究会立ち上げの狙いを述べた。続いて出席者が自己紹介した。主な委員の皆さんの顔ぶれは次の通り(養子2人、養親3人及び事務局担当者の氏名は除く。メンバーは全19人)。

▽研究者 阿久津美紀(目白大助教)姜恩和(目白大准教授)徳永祥子(立命館大准教授)林浩康(日本女子大教授)※座長

▽あっせん団体 石川美絵子(福祉法人国際社会事業団理事)

▽自治体 河野洋子(大分県福祉保健部こども支援家庭課長)福井充(福岡市こども家庭課こども福祉係長)

▽日本財団 新田歌奈子(公益事業部国内事業開発チーム)

自治体に個人情報を開示請求

 続いて、委員のメンバーである養子当事者2人(男女各1人)が自身の体験を発表した。男性は高校時代に養子だと養親から聞いた。「自分を産んだ母親が生きているかどうか分からないのは薄情だ」とルーツ探しを始め、自身が過ごしていた乳児院がどこであるか偶然知ることができた。また、いくつかのあっせん団体に情報提供を求めたものの「直接関わったケースではない」と対応を断られた。そこで当時、自身を取材していた記者と方法を検討し、自治体に個人情報の開示請求をしたところ、かつて養子縁組を担った児童相談所(児相)から連絡があり、養子縁組に至った経緯を知ることができた。

 この男性は「ルーツ探しは、とてつもないエネルギーが必要であり、大変だった」とし、この経験から特別養子縁組家庭を支援する団体「Origin(オリジン)」を立ち上げ、その代表を務めている。実際、アクセスしてきた当事者のルーツ探しについての相談を受けており、支援の必要性について次のように話した。

「人生において養親が養子の支えになってくれているとしても、ルーツ探しでは支援を求めにくい心情があると思います。なぜなら生みの親について言及すると養親が『自分は親として不十分なのではないか』という思いを抱いてしまうこともあるからです。ルーツ探しにおいては、養子が安心して語れる第三者が必要です」

どこに相談していいか分からない

 男性によると、真実告知(養親が子どもの生い立ちや養子縁組の経緯について語ること)は年齢を追うごとに内容を深め、養子と養親が安定した関係を築けることが理想的だが、なかなかそうはいかないという。真実について聞きたくても聞けない養子や、子どもや周囲に秘密にしたままの養親もいる。自身が代表を務める団体への相談では「自分が養子だと知っているが親に『知っている』と言えないケースは1人や2人ではない。どこに相談していいか分からず悶々としている人が少なからずいる」と述べた。

 こういった背景から「真実告知は子どもの『知りたい気持ち』に合わせたペースで行い、聞きたいことをいつでも家庭で話せると思わせてくれることが養子にとって一番大切」と述べた。

「社会的養育の推進に向けて」(2021年5月、厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課)より
「社会的養育の推進に向けて」(2021年5月、厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課)より

 男性に続いて発言した女性は、特別養子縁組という制度ができる前に「普通養子縁組」で養親との縁がつながったケースである。結婚して母親となり、社会福祉士として地域の子育て支援も担う立場から10代の自分を振り返り、ルーツ探しについて話した。

生みの母の現住所を調べて会いに行く

 養子であると意識したのは子どものころ。友人などから「両親に似ていないね」と何度か言われ、親に質問しても納得のいく回答が得られず、その回答も聞くたびに違ったことから、疑問が確信に変わっていた。

 高校生になってから市役所へ足を運び戸籍を取ったところ、養子であることや、生みの親の欄に全く知らない人の名前が記載されていることを知り、ルーツ探しを始めた。高校卒業後に生みの親の本籍がある都道府県の行政窓口を訪ね、生みの母の現住所を調べてそのまま会いに行き、自分との離別の理由について説明を受けた。女性は次のように話す。

「自分のルーツをきちんと知りたいと思った時、子どもが主体的に選択できるといいと思います。真実を知りたい子どもが何を聞きたいのか。現時点では、どこまで知りたいのか。誰から、どんな場所で説明を受けたいのか。誰と一緒に聞きたいかなど、情報を開示していく過程を自らが選べることが望ましいと思います。また、誰にも言えず悩んでいる人にこそ支援が必要です」

「前向きに生きる力」になるような伝え方を

 養子の気持ちに沿って発言した後、周囲への影響にも配慮した見解を伝えた。この女性の場合は無我夢中で生みの親に会いに行ったにもかかわらず好意的に迎えられたが、「当時、相手の心の準備ができているかにまでは思い至らなかった」と話す。また、知り得た情報の中でDNA上の父についてはネガティブな内容も少なからずあり、受け止めるには負担が大きいと感じたそうだ。「前向きに生きる力になるような伝え方で情報を得られたらよかったのではないか」と振り返った。

 養子2人の体験発表を受けて、ほかの委員が質問し、意見交換した。石川さんは「相談窓口を立ち上げて活動しているが、相談してこない人にどうアプローチするかが重要な課題」とし、当事者と継続的に関わることができるサービスが必要であると述べた。

どういう情報を集めるかの論議を

 養親である弁護士の女性は、育てている子どもの審判書を見たところ「驚くほどシンプルだった。縁組したのが児相か民間団体かさえ書いてなかったことに不十分な内容だと感じた」と話す。また、法律家の立場から、個人情報の開示請求や保管する記録についての意見を次のように述べた。

「開示請求を受ける側は、請求者が未成年者だからといって開示の理由を聞いてはいけません。養子は『自分の情報だから必要』と堂々と請求していいのです。児相の担当者は開示請求される可能性もあると意識して記録を残していただければと思います。開示された書類は多くの部分が黒塗りになっていることもありますが、何を隠すかについてはもう少し工夫があっても良いのではないでしょうか。この研究会で今後、開示をどうするか、どういう支援が必要かを検討するにあたり、そもそもどういう情報を集めるかについての議論が必要だと感じます」

厚生労働省が作成した特別養子縁組をPRするポスター
厚生労働省が作成した特別養子縁組をPRするポスター

 行政側からの意見では、河野さんは「情報の請求先によって対応が変わることは、あってはいけないと感じる」と述べた。現状では本人の熱意や開示を要求した窓口、都道府県やあっせん団体によって得られる情報が異なる。また、生みの親に関する情報だけでなく縁組に至った経緯についての情報も大切だと感じている。「多数の縁組を希望する登録者の中から、なぜその親に委託したのかという事情は、子どもにとってはとても知りたいこと」と伝えた。開示する側としての悩みを「ケースによっては部分的に開示しない判断も必要だと思う一方で、相談員が知っている情報を当事者が知らないというのはおかしいとも思う」と明かした。

継続的に誰かが関わる支援を

 同じく行政側の福井さんは「開示請求された情報と伝えるための支援は別であるべきではないか。また、記録と伝える仕組み両方を検討すべきだと思う」と話した。伝え方も、伝える内容もありのままを伝えるという姿勢も重要だが、伝え方も重要だと感じている。継続的に誰かが関わり、養親もその人に頼っていろいろなことを伝えられる支援が必要だと述べた。

     ◇     ◇

 養子当事者2人はルーツ探しについて「エネルギーを使った」「自分でも驚くような行動力だった」と表現した。明らかになる事実と必死で向き合い、逃げなかった。「逃げられなかった」と言い換えてもいい。体験談からは「自分の人生だから逃げるわけにはいかない。何としてもルーツを知りたい」という覚悟と熱意を感じた。真実を追い求めた経験を語る2人の様子からは、人生の空白を埋めるためにルーツ探しがどうしても必要だったと伝わってきた。

 10代後半から20代前半にかけて、養子縁組という制度について調べ、勇気と知恵を振り絞って全力で大人と対峙し、自身が置かれた境遇を説明して情報を求めた。開示に際しては、行政窓口で誓約書を求められることもあったそうだ。孤独な戦いであり、自身の存在の根源に関わることだからこそ、突き詰めて考えてしまう真剣さも理解できる。だからこそ寄り添い、励まし、要望を代弁し、時には立ち止まって考えるよう促してくれる存在も必要だったように感じられた。

 養子・養親らの共通した見解は「当事者が知りたいと思った時に情報は開示されてほしいし、その内容は必要以上に隠匿されてはならないが、ネガティブな情報をそのまま伝えるのではなく、生きる力になるような真実告知がなされるといい。また、そうなるための支援が必要」ということである。家庭においては養子当事者が「(養子であることを)知らないふりをしなくていい。そして、家庭でも生みの親のことを遠慮せず聞いていい」という雰囲気作りも必要だろう。

 筆者は養子・養親、里子・里親、生みの親など当事者数十人の話を聞いてきた。「養子であることが人格形成や言動、考え方にどのような影響及ぼすか」ということは、人によって違いがあるように思う。養子であることを全く意に介さずに生きている人もいるし、悩んでいる人もいる。

 また、1人の人生においても、ある時期は深く考え、何かの出来事をきっかけに考えることをやめたり、悩みが解消されたりするなど、さまざま。考え方の変化や置かれた状況によって必要な情報は変化する。情報を集めるための一定の基準は必要だが、なかなか限定しにくいのではないだろうか。それでも普遍的なルールは何かを、当事者を交えて検討することに、この研究会の意味はあると感じる。

名前の由来を気にする養子は多い

 例えば、養子が子どものころは「生みの親はどんな人か?」など、風貌や人柄について知りたいかもしれない。きょうだいがいるかどうか、名前の由来などを気にする養子は多い。年齢を重ねたり、症例の少ない病気になったりすれば、血縁者の病歴が気になる。問診時に医師から尋ねられることもある。肉親と会いたいと全く思わずに成長しても、生みの親から「死ぬ前にひと目、会いたい」と言ってくるかもしれない。年齢を重ねて途切れた親きょうだいとの縁がつながる人もいる。養子の人生は、人それぞれである。

 2人の体験を聞き、ルーツ探しについては、どんなニーズがあっても情報をたどれる仕組みと、それを運用する専門家が必要だと感じる。それぞれの養子の人生に長く寄り添ってくれる人がいれば、養親との関係も安定するはずである。また、生みの親の情報が全くないケースもある。この場合も縁組時までに誰が子どもの養育に関わったかなどの情報を集めておく必要があろう。

※特別養子縁組に関するあっせん記録の保管・開示については次のような記事も書いています。

・【特別養子縁組】あっせん団体事業停止問題 養子の「出自を知る権利」どう確保すべき

https://news.yahoo.co.jp/byline/wakabayashitomoko/20210410-00231840

・【特別養子縁組】記録を保管する中央機関や法整備が必要では?

https://news.yahoo.co.jp/byline/wakabayashitomoko/20210412-00231900

※参考文献

・『実親に会ってみたい/英国の児童保護システムにみる養子・実親・養親のリユニオン』(ジュリア・フィースト/マイケル・マーウッド/スー・シーブルック/エリザベス・ウェブ著、大谷まこと監訳、田邊レイ子/進藤多代訳、明石書店、2007年10月)

・『養子縁組を考えたら読む本/これから親になるあなたに知って欲しい20のこと』(シェリー・エルドリッチ著、ヘネシー澄子監訳、石川桂子訳、明石書店、2019年5月)

・『「赤ちゃん縁組」で虐待死をなくす/愛知方式がつないだ命』(矢満田篤二/萬屋育子著、光文社新書、2015年1月)

北陸発のライター/元新聞記者

1971年富山市生まれ、同市在住。元北國・富山新聞記者。1993年から2000年までスポーツ、2001年以降は教育・研究・医療などを担当した。2012年に退社しフリーランスとなる。雑誌・書籍・Webメディアで執筆。ニュースサイトは医療者向けの「m3.com」、動物愛護の「sippo」、「東洋経済オンライン」、「AERA dot.」など。広報誌「里親だより」(全国里親会発行)の編集にも携わる。富山を拠点に各地へ出かけ、気になるテーマ・人物を取材している。近年、興味を持って取り組んでいるテーマは児童福祉、性教育、医療・介護、動物愛護など。魅力的な人・場所・出来事との出会いを記事にしていきたい。

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