特別養子縁組 記録を保管する中央機関や法整備が必要では?

「ベビーライフ」の問題は特別養子縁組について考える機会になった。写真はイメージ(写真:milatas/イメージマート)

 日本財団は4月2日、特別養子縁組について「真に子どものための制度であるために何ができるか」と題した緊急シンポジウムを開催した。例えば、韓国には生みの親の情報や縁組の経緯についての記録を保管する中央機関があり、保管・移管・開示についての根拠法が整備されている。特別養子縁組あっせん団体「ベビーライフ」(東京都東久留米市)の業務停止と代表者と連絡が取れなくなっている問題を端緒に本来、制度はどうあるべきかを考えた。

※こちらより続く。

養子縁組のあっせん団体事業停止問題 養子の「出自を知る権利」どう確保すべき

https://news.yahoo.co.jp/byline/wakabayashitomoko/20210410-00231840/

縁組記録があると周知・啓発しているのは15%

 立命館大学准教授の徳永祥子さんは「日本における養子縁組記録のアクセス支援に関する調査について」と題し、2016年6月から12月にかけて調査協力に応じた民間のあっせん団体13からの回答を紹介した。

 記録の保管の形態は「紙」31%、「電子データ」8%、「両方」61%で、保管場所は「事務所内」85%、ほかは15%、保管年限は「定めている」67%、「定めていない」33%。養子からアクセスがあったのは3団体で、対応はソーシャルワーカー。ただしソーシャルワーカーは、ほかの業務も兼ねている。

 情報の開示範囲の決定は「組織内で検討して判断」74%、「担当者が判断」18%、未定が8%だった。開示の方法は「郵送で情報提供」39%、「対面で情報提供」23%、「再会支援を行っている」8%である。記録があることを周知・啓発しているのは15%のみで、85%は啓発していないと分かった。徳永さんは記録があることを当事者が知らない実情や、記録の書式がばらばらであることを課題に挙げた。

2016年に実施したアンケートに基づく記録保管及びアクセス支援の将来像についての暫定案(「養子縁組の記録とアクセス支援に関する報告書」より)
2016年に実施したアンケートに基づく記録保管及びアクセス支援の将来像についての暫定案(「養子縁組の記録とアクセス支援に関する報告書」より)

 追加のアンケートにより、どのような体制が望ましいかを検討し、(1)養子縁組に関して保管すべき記録の内容と開示方法について法律・規則で定める、(2)公的な中央機関の設立、(3)記録の永年保存義務化、(4)養子・養親・生みの親のプライバシーへの配慮、の4点を提言。記録については「既に義務化が実現している」と述べた。

知りたいのはどんな情報? 意見を聞くべき

 また、(1)養子縁組に関して保管すべき記録の内容については、3月26日に厚生労働省子ども家庭局が一定の方針を示している。プライバシーに配慮し、開示については「本人の同意を得て開示する」が原則ながら、子どもの生命・健康に関わることだけは例外としている。「出自を知る権利」を尊重しようとする動きはある。調査は5年前に行われており、徳永さんは「状況は変化している」としつつ、「子どもが知りたいのはどんな情報か。もっと意見を聞いてまとめるべきではないか」と指摘する。

「生みの親のID情報だけではなく、養子縁組に至った経緯などを知りたいはずです。マイナスの情報が出てくれば『自分が悪い子だから捨てられた?』と思うかもしれないので、ケアが必要。医療的な情報や、祖父母・子孫に開示する必要性もあるかもしれません」

 また、記録開示や肉親との再会については「プライバシーへの配慮が必要」とし、養子・生みの親・養親ら当事者同士が情報やり取りしてしまうよりは、仲介者や支援者が必要であると述べた。

韓国には法律と中央機関がある

 目白大学准教授の姜恩和さんは「韓国の養子制度:情報記録と保管、開示について」というテーマで、韓国の養子縁組の歴史や法整備について解説した。

 韓国は、1980年代から多くの子どもが海外で養子となり、成人して当事者運動を行ったことが法改正の原動力になった。「児童権利保障院(旧中央養子縁組院)」という国の機関が記録を管理し、情報は永久保存で、あっせん団体が廃業したら記録は児童権利保障院に移管される。養子はあっせん団体か児童権利保障院に開示請求する。ただし、未成年(18歳以下)ならば養親の同意が必要である。

 開示される情報は(1)生みの親の個人情報、(2)養子縁組に至った背景について、である。データベースがあり、ほかの行政機関と連携して出自をたどることができる。2012年からは海外養子については遺伝子検査も実施し、たどれない人については「縁故なしの者」として遺伝子検査も可能になった。とはいえ、課題もあるという。

韓国の海外養子縁組における情報公開請求の推移(姜さん提供、出典は韓国・児童権利保障院)
韓国の海外養子縁組における情報公開請求の推移(姜さん提供、出典は韓国・児童権利保障院)

「実の親が亡くなった場合に情報は開示されません。また、養子縁組に至るまでに面倒を見ていた里親のような人の情報や施設での成長の記録、遺棄児の場合は発見者の情報なども必要なのではないでしょうか。加えて、遺伝子などの情報を入手できることが周知されていません」

 まだ課題はあるが、情報管理・移管・開示についての仕組みや法律ができている点で、韓国は日本の先を行く。姜さんは当事者活動に携わった養子との対話から「たまたま、いい支援者に会って出自を知ることができたということではなく、法律があれば出自をたどる意味合いは大きく変わる。法整備こそが重要」と強調した。

誰のための記録か? 当事者に対し「黒塗り」

 社会福祉法人「 日本国際社会事業団 (ISSJ)」常務理事の石川 美絵子さんは、「国際養子縁組の課題、ルーツ探しの取り組み」と題して語った。ISSJは2020年12月に養子縁組後の相談窓口を開設、2021年3月末までに13件の相談を受けた。相談者は20代、30代が多く、相談内容は(1)生みの親に会いたい、(2)養子に出された理由を知りたい、(3)自分に関する情報集め、となっている。相談者の心情を次のように代弁した。

「全ての人が生みの親に会いたいわけではなく、ルーツ探しは生みの親・養親の二者択一ではないということです。純粋に出自を知りたいとか、自身が親になったからルーツを知りたいなどの理由です。複雑な感情を抱えているので、誰かと気持ちを共有することが大切です」

ISSJによる養子縁組後の相談窓口について(石川さん提供)
ISSJによる養子縁組後の相談窓口について(石川さん提供)

 養子縁組はあっせんばかりが強調されるが、成人してルーツを探すことなどもプロセス全体として考えるべきであり、支援者が変わってもバトンを渡せる体制があることが大事である。

「誰のための記録か考えてほしいのです。現状、黒塗りの書類しか提示されないなど、養子自身の情報が第三者によって隠されているのは辛いことですし、不用意に開示されることに衝撃もあります」

 この4月にドイツでは養子縁組支援法が施行されたという。(1)包括的な相談、(2)より多くのアプローチ、(3)あっせんの強化、(4)機関を通した国際養子縁組、が挙げられている。

 石川さんは「日本においては国際養子縁組の定義付けが曖昧」と疑問を呈した。家族の中に外国籍の子が入ることと、海を越えて養子縁組が行われることが混在し、課題が整理されていない。また中央当局が不在のため、子どもが国境を越えると、足跡が把握できなくなる。ベビーライフの事業停止に伴う一連の出来事について「出自を知る権利と、国際養子縁組とはどういうことかを私達に考えさせる機会になった」と締めくくった。

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 シンポジウム終了後、日本財団公益事業部国内事業開発チーム・チームリーダーの高橋恵里子さんは「特別養子縁組を巡る法律は近年、充実してきたが、まだまだ課題はある。国が主導して一元管理をしてほしい。また、子どもの情報は子どものものであるという認識のもと、開示についてのガイドラインをつくってほしい」と述べた。

 緊急シンポジウムは、ベビーライフの一件を「特別養子縁組あっせん事業所の代表が責任を放棄した」と糾弾するだけに留まらず、「縁組記録については国も、その責任を担うべき」という方針で当事者・識者が論議を重ねたことに意義がある。養子当事者である筆者も「記録の保管・移管・開示のシステム全体を見直し、中央機関によって一元管理をする」というのがあるべき姿だと実感した。

 これまで宮城県石巻市の産婦人科医・菊田昇さん(1926年-1991年)の著書や、「菊田医師事件」に関する過去の新聞報道などを読み、1987年に成立、88年に施行された特別養子縁組は、生みの母のプライバシーを守ることを重視した制度であると理解している。菊田医師は「新生児を産んで託したことが戸籍に残ると、生みの母や養子のその後の人生に不利となる」と考え、養親の実子として出生届を出していた。さらには、この事実を明らかにすることで社会に問題提起し、養子を戸籍上、実子同様に扱うよう法整備された。

情報提供は男性も果たすべき責任

 特別養子縁組が制度化されて30年以上。にもかかわらず、この制度にたどり着けないで苦しんでいる女性が少なからずいる。独りで産んだ新生児を遺棄したり、殺害したりする事件は後を絶たない。

 まず何より、シングルでも出産・子育てできるよう、手厚い支援が必要だろう。その上で、出産しても子育てが難しい状況である場合、女性が特別養子縁組という選択肢を前向きに考えられる社会的土壌が必要だと考えている。そのためには、社会が「わが子を他者に託してもいい」と寛容になることも重要ではないか。

 ただし、子どもの幸せにとって必要な情報は「子に持たせて」、あるいは「いつでも提供できるようにして」養親に託す。生みの親には、記録の収集に協力することが一つのミッションであると思ってほしい。しかも情報の提供は女性にのみ強いるのではなく、パートナーの男性も果たすべき責任であると思うが、どうだろうか。

 もちろん、性暴力被害による妊娠や、10代の予期せぬ妊娠などによって誕生した子どものケースや、生みの親の現状によっては慎重な対応が必要である。すべて「子どもの知る権利優先」で進められない事情もあろう。だからこそ、開示にあたっては支援が求められる。「ある程度分かったら、自分の意志でルーツ探しをやめる」という決断をする養子もいるだろう。こういった気持ちに寄り添う専門職がいてほしいと思う。

 養親のヤマダさんとサイトウさんは、緊急シンポジウムで涙ながらに発言した。団体や代表への批判はあっても、相談に応じたスタッフに対する感謝の気持ちは変わらなかった。養子を迎え、子育てするにあたり、親身に支えてくれたスタッフがいたということは伝わってきた。いつか養子がベビーライフを巡る一連の騒動を知っても、「信頼関係があって縁組が実現した」と前向きに受け止められることを願ってやまない。(おわり)

※参考文献

・「養子縁組の記録とアクセス支援に関する報告書」(2017年4月、日本財団)

・「日本財団子どもたちに家庭をプロジェクト」ホームページ

https://www.nippon-foundation.or.jp/what/projects/nf-kodomokatei

・「社会的養育の推進に向けて」(2020年10月、厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課)