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【特別養子縁組】あっせん団体事業停止問題 養子の「出自を知る権利」どう確保すべき

若林朋子北陸発のライター/元新聞記者
昨年に事業を停止した「ベビーライフ」は養子縁組をあっせんしていた。写真はイメージ(写真:アフロ)

 養子縁組のあっせんをしていた一般社団法人「ベビーライフ」(東京都東久留米市)が昨夏に事業を停止し、代表との連絡が途絶えた問題を受け、日本財団は4月2日、緊急シンポジウムを開催した。養親は「将来、子どもが出自を知りたくても何も分からないのでは?」と語り、成人した養子は「出自を知ることは前向きに生きる材料」と述べた。生みの親の情報や縁組の経緯についての記録の保管・移管・開示に、どんな課題があるのだろうか。

日本財団は4月2日、養子縁組あっせん団体「ベビーライフ」の事業停止に関連して緊急シンポジウムを開催した(日本財団提供)
日本財団は4月2日、養子縁組あっせん団体「ベビーライフ」の事業停止に関連して緊急シンポジウムを開催した(日本財団提供)

養子縁組の成立件数は年々増加している

「特別養子縁組」とは何らかの事情で生みの親が育てられない子どもを、安定した家庭につなぐ制度である。実親との法律上の親子関係を終了し、血縁のない夫婦と新たに親子関係を結ぶ。半年以上の試験養育期間を経て、家庭裁判所が最終決定する。特別養子縁組の養子の戸籍は、子の福祉を積極的に確保する観点から、記載が実親子とほぼ同様の形式となっている。一方、主に「家」の存続や親のために行われる「普通養子縁組」の戸籍は「養子」「養女」と記載される。

 シンポジウムではまず、特別養子縁組についての現状が報告された。「あっせん」を担うのは児童相談所(児相)と全国20あまりの民間あっせん団体がある。民間の事業所によるあっせんでは、出産前から親の相談を受けて支援したり、養親の募集や研修、子を託した後のサポートも行ったりしている。この場合、費用の大半を養親が負担する。

 2016年施行の改正児童福祉法の成立や、2019年の特別養子縁組の民法改正で、子どもの年齢が6歳未満から15歳未満へ引き上げられたことにより、縁組の成立件数は年々増加している。

「社会的養育の推進に向けて」(2020年10月、厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課)より
「社会的養育の推進に向けて」(2020年10月、厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課)より

2020年11月12日現在、厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課調べ
2020年11月12日現在、厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課調べ

 日本財団は次のような点を課題として挙げ、シンポジウム開催の意図を説明した。

(1)養子縁組の公的な中央機関が必要ではないか。

(2)中央機関は以下の役割を担う。

  ・国際養子縁組のアセスメント、承認

  ・養子縁組記録の一元管理

  ・養子縁組記録のアクセス支援

  ・民間団体の監督・助言

  ・養親子への支援

「生みの母と子どものつながりが断たれてしまった」

 ベビーライフから養子のあっせんを受けた養親は今、何を思うのか。シンポジウムで発言した養母のヤマダマキさん(仮名)とサイトウチカさん(同)からは、あっせん団体の事業停止という想定外の事態に戸惑う様子が伝わってきた。

 ヤマダさんは「メールや電話での対応、子どもが病院に救急搬送され、遺伝的なことが分からないために不安を感じた際の支援は誠実だった」とスタッフへの感謝を語った。「この団体なら安心して子どもを迎えられると確信した」と話す一方で、「嫌な予感もあった」という。その後、生みの母とコミュニケーションが取れなくなってしまった。

「生みの母と一度だけ面会し『将来、子どもが成長したら会おう』と約束しました。団体を通じて成長を知らせるために写真を送り、楽しみにしてくれていました。つながりが絶たれてしまったことがつらいです」

 ここまで話し、涙声になった。あっせん団体が生みの母との架け橋だったと振り返り、「今もベビーライフを通して息子を迎えたことを後悔していない」と強調。東京都や政府に、事態を把握して養子縁組を取り巻く情報の管理と、開示についての整備を求めた。

「『人身売買』などの報道を子どもが見たときに不安」

 続いて4歳と2歳の子どもを育てるサイトウさんが、3月下旬にとりまとめた養父母63人からのアンケート結果について紹介した。「短期間にもかかわらず、回答率が高いことは危機感の表れである」とした。

Q1:ベビーライフがなくなったことにより、最も不安に感じていることは何ですか?

 ・実親との関わりについて33%

 ・報道やそれに関連した人身売買などのコメントを将来、子どもが見た時の心理的影響20%

 ・報道による養子縁組への批判やイメージダウン18%

 ・養親同士、養子同士の交流について14%

 ・真実告知(子どもに生い立ちや養子縁組の経緯について語ること)について13%

 ・その他2%

Q2:ベビーライフの費用に関し、手数料について多くのメディアが取り上げていますが、それについてどう考えていますか?

 ・もともとのサポート内容を受け続けることができれば納得できる金額だったが、今は納得できない49%

 ・相当であると思う32%

 ・初めから納得できない、高すぎると思っていた10%

 ・どれにも相当しない10%

厚生労働省が作成した特別養子縁組をPRするポスター
厚生労働省が作成した特別養子縁組をPRするポスター

 Q1の回答に関連し、サイトウさんは「最も大きな不安は、子どもの出自を知る権利が担保されるかどうか」と述べた。また、費用負担を「人身売買」と結びつけて報じ、養子縁組そのものをマイナスイメージで捉える報道のあり方に不安があることを強調。続いて自身の配偶者が外国籍であることにも言及し、切実な思いを語った。

「将来、わが子があっせん団体に関わる報道を読んだ時、何らかの不正によってこの家庭にもらわれてきたと思うのではないかと不安です。(養親に限らず)国籍が多様化している状況で今後、あっせん団体が養父母を選定するのに国籍が限定されたり、国内在住の方しか養子縁組ができなかったりするのは、画一的過ぎると感じます」

「代表には失望と怒りでいっぱい」としながらも、スタッフに対しては「赤ちゃんにとって一番の幸せは何かを考えて行動してくれたと信じる」と語る。最後は「あっせん団体を叩くだけではなく、これを機に制度を改革することで養父母が力になれたら将来、子どもに対して胸を張っていけると思う」と述べた。

養子当事者「出自を知ることは前向きに生きる材料」

 特別養子縁組家庭支援団体 「Origin(オリジン)」 の代表理事で養子当事者のみそぎさん(ペンネーム)は、出自をたどった経験や、出自を知ることにどんな意味があるか、縁組記録を巡る制度への要望を述べた。

 みそぎさんは高校生のころ、自身が養子であると知り、大学生になって親元を離れてから出自をたどった。民間のあっせん団体に方法を聞くと、出身地の児相に聞くよう勧められたという。その後、戸籍をたどり、児相に個人情報の開示請求をして、自身が養子縁組に至った背景を知ることができた。

「あくまでも自分の経験と価値観に基づいた個人的な意見」と前置きした上で、養子が出自を知ることについて「生みの親の情報を知るだけではなく、自分の存在意義や、どうやって養親に託されたのか、乳児院でどのように育ち、愛情を注がれたのかなどを知ることで前向きに生きる材料になる」と述べた。一方で、「ルーツ探しに伴う負担は大きかった」と振り返る。

「自分がいた乳児院が分かり、担当した職員がまだ在職中で、ルーツ探しに帯同する記者が支えてくれたので自分は運がよかったと思っています。ですが、ほとんどの養子は1人では方法が分からないのでは? 全国の児相・民間団体、どこに相談しても出自にたどり着けるしくみがあってほしいです」

国内初の当事者団体「Origin」を設立

 みそぎさんは2020年4月に国内初の当事者団体「Origin」を設立し、講演会や養親を対象とした勉強会、養子当事者の交流会などを開催している。交流を通じて20代、30代の養子が体験や意見などを発信していることに触れ「特別養子縁組が、本当の意味で子どものための制度になってほしい」と話す。

「自分たちは大人の事情で養子に出されています。今回も(ベビーライフについて)大人の事情で事業を停止し、それらの資料は東京都に委託されました。今後も同様のことが起こる可能性はあると思います。子どもがあっせんする団体を選んでいるわけではないのですから、何が起ころうと出自を知る権利が担保されていることが大切です」

 ルーツ探しで困難を極めた自身の体験が、当事者活動の原動力になっていると話し「今後、制度が整備されていくだろうが、それまでは大人が養子の相談に乗りながら臨機応変に対応してほしい」と求めた。

    ◇         ◇

 筆者は生まれて間もなく母が病死したことから、乳児院を経て、養子縁組家庭で育っている。50年前、特別養子縁組という制度はなく、普通養子として迎えられた。戸籍には生みの親の名が記載され、肉親と交流があるので、あえて公的な文書にあたることはしなかった。

 30代になって体調不良から生みの母の死因や、生後間もないころの自身の健康状態を知りたいと思うようになった。40代の終わりに客観的な事実について詳しく知りたいと、家庭裁判所・児相・乳児院に問い合わせた。すでに記録の保管期限は過ぎ、児相の担当者は「現行の制度では永年保存になっているのですが……」と申し訳なさそう。「動き出すのが遅かった」と分かった。

 年齢を重ねて必要になる情報がある。また、人生経験を積んだからこそ受け入れられる事実もあると思う。先日、あっせんに関わる産婦人科医から「生みの親の情報や養子縁組の経緯以外に、どんな情報をどうやって伝えてほしいか」と問われ、次のように答えた。

「あっせんに関わる団体が可能な限り情報を集め、公的機関を含めた複数の場所で保管してあったらいいと思います。生みの親が望めば関わりを続け、医学的・生物学的データをアップデートしていってほしいです。例えば、きょうだいの存在や、肉親の病気・死亡などの情報は、とても気になります。縁組に至った経緯は、育ての親・再会した肉親いずれに対しても遠慮して聞けないかもしれません。だから相談・支援ができる第三者を通じて開示される仕組みがあるといいと思います」

ほしい情報はそれぞれ。変化もする

 ここぞとばかりに、いろいろな要望を伝えた。養子を取り巻く状況や個々の心情はそれぞれ異なり、1人の人生においても変化する。「手間がかかり大変だろうが、長期的かつ包括的に対応してほしい」と心から願っている。

 筆者は10年ほど前から養子数人と交流している。育ての親の介護や死に直面し、同世代の当事者や人生の先を行く「養子の先輩」と話をすることで救われた気がした。ホッとしたし、当事者同士だからこそ、助言を素直に受け入れることができたと感謝している。そういった意味では、みそぎさんのような当事者が団体を立ち上げ、発信することでネットワークが構築され、語り合う場が生まれた意義は大きいと感じている。(つづく)

※続けて、こちらもご覧ください。

・【特別養子縁組】記録を保管する中央機関や法整備が必要では?

https://news.yahoo.co.jp/byline/wakabayashitomoko/20210412-00231900/

北陸発のライター/元新聞記者

1971年富山市生まれ、同市在住。元北國・富山新聞記者。1993年から2000年までスポーツ、2001年以降は教育・研究・医療などを担当した。2012年に退社しフリーランスとなる。雑誌・書籍・Webメディアで執筆。ニュースサイトは医療者向けの「m3.com」、動物愛護の「sippo」、「東洋経済オンライン」、「AERA dot.」など。広報誌「里親だより」(全国里親会発行)の編集にも携わる。富山を拠点に各地へ出かけ、気になるテーマ・人物を取材している。近年、興味を持って取り組んでいるテーマは児童福祉、性教育、医療・介護、動物愛護など。魅力的な人・場所・出来事との出会いを記事にしていきたい。

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