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人気沸騰の「白えびビーバー」 27歳新社長“八村塁効果”に感謝

若林朋子北陸発のライター/元新聞記者
NBAのドラフト会議で日本人初の1巡目指名を受けた八村塁選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 

 米プロバスケットボールNBAのワシントン・ウィザーズから日本人初のドラフト一巡目指名を受けて入団した八村塁選手(富山市出身)が紹介したことで注目を集め、スーパーでは入荷待ちとなった「白えびビーバー」。北陸三県では、おなじみの米菓子である。製造元である北陸製菓(金沢市)を訪ねると、「現在、増産体制を整えています。1カ月ほどお待ちください」とのこと。社長の高崎憲親さん(表記は本来「はしご高」と「立つ崎」)は27歳で、就任7カ月のルーキーだ。思わぬ“八村効果”について聞いてみた。

“八村効果”で「白えびビーバー」は人気沸騰中。注文から発送までは現在、1カ月以上かかる。プレーンとカレーも好評だ(北陸製菓提供)
“八村効果”で「白えびビーバー」は人気沸騰中。注文から発送までは現在、1カ月以上かかる。プレーンとカレーも好評だ(北陸製菓提供)

 人気沸騰のきっかけは、八村選手が北陸三県限定販売の「白えびビーバー」をチームメイトにお裾分けしたところ、同僚のトロイ・ブラウン・ジュニアがインスタグラムに動画を投稿したこと。商品とともに「ルイはチームにきて2週間で俺たちを夢中にした」「これはめっちゃ、おいしい」などのコメントが地元メディアに紹介され、大きな反響を呼んだ。

「ビーバー」は北陸地方でおやつの定番

「ビーバー」とは、北陸産のもち米に細かく切った日高昆布を混ぜてつき、冷やし固めた後、小さく切って植物性油で揚げ、徳島鳴門の焼き塩で味付けした揚げあられである。北陸地方では「おやつ」の定番として愛されてきた。カリッとした食感と、米菓子ならではの食べごたえがある。

 ちなみに、商品名「ビーバー」の由来は、1970年に開催された大阪万博でカナダ館のマスコットになっていたビーバー。歯の形が、米菓子を二つ並べた形と似ているからであるらしい。

米菓子「ビーバー」の復活について語る北陸製菓の高崎社長。直営店で「白えび」は「売り切れ」となっている(筆者撮影)
米菓子「ビーバー」の復活について語る北陸製菓の高崎社長。直営店で「白えび」は「売り切れ」となっている(筆者撮影)

 高崎社長によると、発売当初の1970年は、ほかの企業が作っていたが、事業停止になったため2013年以降、「ビーバー」の製造は止まっていた。その後、「復活させてほしい」という地元の声に応えて、北陸製菓が14年5月に復活、プレーン(220円+税)を発売した。14年8月に「白えび」(同)、18年5月には高級志向の「のどぐろ」(600円+税)も登場している。

 高崎社長本人のプロフィールを聞くと、大学を卒業後に北陸製菓へ入り、2年間は工場に勤務して製造・包装・出荷を担当した後、経営に参画。昨年12月に8代目社長となった。代替わりを契機に「ビーバー」のホームページを一新し、SNSを始め、キャラクターの着ぐるみを制作して5月から北陸各地のスーパーでキャンペーンをスタート。キャラクターが金沢弁を話すLINEスタンプも作った。7月に「カレー」(220円+税)を新発売。県外に住む北陸出身者から「懐かしい」との声を聞き、プレーンを全国で販売し始めた。このタイミングで、“八村効果”により人気沸騰、社長業は予想を上回るスタートダッシュとなった。

「就任してから半年ぐらいかけていろいろ準備し、新たな試みを始めたところでした。『まずは北陸から盛り上げよう』と地道にPRするつもりでいたら、いきなりNBA発で人気に火がつきました。ただただ驚いています」

米菓子「ビーバー」をPRする人気キャラクターの「ビーバー」(北陸製菓提供)
米菓子「ビーバー」をPRする人気キャラクターの「ビーバー」(北陸製菓提供)
金沢弁を話す「ビーバー」のLINEスタンプ(北陸製菓提供)
金沢弁を話す「ビーバー」のLINEスタンプ(北陸製菓提供)

直売店には「白えびビーバー」を求める客絶えず

 高崎社長、実は小学校4年生からバスケットボールを始め、中学・高校と続けてきた。八村選手の弟・阿連選手が母校・東海大に在学していることから、八村兄弟には早くから注目しており、NBAの情報もこまめにチェックしていたところ、「白えびビーバー」の話題が飛び込んできた。「とにかく嬉しい」と笑顔で話す。取材中も直売店には「白えびビーバー」を求める客が絶えず、「1日でも早く出荷できるようにします」と対応に追われていた。

 富山市出身の筆者にとっても「ビーバー」は懐かしい味だ。何の違和感もなく「ビーバー、おいしいですよね」と言っていたが、「ビーバー」とは本来、動物の名前だ。埼玉県出身で企画開発部の尾澤ヨウジさん(49)から指摘を受け、ユニークなネーミングだと気づいた。

「動物の名前をそのまま商品名にするという無理矢理な感じが面白いですよね。ビーバーという動物のイメージがあるから、子どもたちにとって親しみやすいお菓子になったのではないでしょうか」

 アパレルメーカーに勤め、石川県出身の女性との結婚を契機に金沢市へ移り住み、北陸製菓に途中入社した尾澤さん。32歳で「ビーバー」を初めて食べたそう。「商品名が動物の名前だけという菓子は珍しい」と、ビーバーのキャラクターを広告塔にした商品PRを提案した。

北陸製菓の本社工場前で。企画開発を担当する尾澤さんは「商品名が動物の名前だけという菓子は珍しい」と話す(筆者撮影)
北陸製菓の本社工場前で。企画開発を担当する尾澤さんは「商品名が動物の名前だけという菓子は珍しい」と話す(筆者撮影)

 北陸製菓の直売店にはいろいろな商品が並んでいる。尾澤さんに聞いてみると、8割がビスケットやクッキー、カンパンなど小麦粉を使った焼き菓子で、戦前はJR金沢駅に隣接して工場があり、引き込み線があって、そこからカンパンなどを出荷していた。金沢市は戦災を免れたことから、戦後も同じ場所で製造を続けることができ、カンパンやビスケットを食糧難にあえぐ全国各都市へ出荷したそうだ。その後、1960年代後半に工場は現在の場所に移転した。

公式ツイッターで「テンションぶち上がりですぞ」

 北陸製菓は2018年、創業100年を迎えた。北陸が生んだNBAプレーヤーにより、米国発信で全国区になった米菓子「ビーバー」。人気沸騰を受けて7月13日、ビーバーのキャラクターの公式ツイッターを開設した。「白えびビーバーがNBA選手のみんなに食べてもらえたなんてめちゃめちゃうれしいですぞ!! テンションぶち上がりですぞ」とつぶやいた。高崎社長も「これからも八村選手を応援していきます!!」とテンション「ぶち上がり」。“八村効果”は、強烈な追い風となったようだ。

北陸発のライター/元新聞記者

1971年富山市生まれ、同市在住。元北國・富山新聞記者。1993年から2000年までスポーツ、2001年以降は教育・研究・医療などを担当した。2012年に退社しフリーランスとなる。雑誌・書籍・Webメディアで執筆。ニュースサイトは医療者向けの「m3.com」、動物愛護の「sippo」、「東洋経済オンライン」、「AERA dot.」など。広報誌「里親だより」(全国里親会発行)の編集にも携わる。富山を拠点に各地へ出かけ、気になるテーマ・人物を取材している。近年、興味を持って取り組んでいるテーマは児童福祉、性教育、医療・介護、動物愛護など。魅力的な人・場所・出来事との出会いを記事にしていきたい。

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