いろいろな乗り物がある立山黒部アルペンルートは「東京ディズニーランドみたいな場所」

大観峰駅からの紅葉が美しい。「立山ロープウェイ」は動く展望台(立山黒部貫光提供)

「立山黒部アルペンルート」は、富山県と長野県を東西に貫く山岳観光ルートである。その一部である立山トンネル内を軌道とし、日本一高い場所にある駅・室堂(標高2,450メートル)と大観峰駅(同2,316メートル)を結んで走るのが「立山トンネルトロリーバス」。このバスの女性運転士第1号となる山本佳慧さん(31)は、約8分の運行中、アナウンスで立山観光の魅力を熱っぽく語っている。運転士になって3年目。秋の観光シーズン本番は、フル稼働の日々だ。

立山トンネルトロリーバス女性運転士第1号の山本さん(筆者撮影)
立山トンネルトロリーバス女性運転士第1号の山本さん(筆者撮影)

 立山黒部アルペンルートとは? 標高3000メートル級の北アルプスを望み、ルートの総延長37.2キロ、最大高低差は1975メートル。ほぼ全区間が中部山岳国立公園内にあり、立山黒部の雄大な大自然を満喫できる。富山県側の立山駅から東へ30.5キロメートル、長野県側の大町市扇沢駅から西へ6.1キロメートル離れた位置に黒部ダムがあり、同ダムを造るために築いたルートを、昭和40年代に整備したのが同ルートである。立山駅から扇沢駅まで、電車・ケーブルカー・バス・ロープウェイ・ケーブルカーなどを乗り継いで移動する。

立山黒部アルペンルートの概要(「富山県立山町」のホームページより)
立山黒部アルペンルートの概要(「富山県立山町」のホームページより)
立山駅と美女平駅を結んで平均勾配24度の坂を行き来する「立山ケーブルカー」(筆者撮影)
立山駅と美女平駅を結んで平均勾配24度の坂を行き来する「立山ケーブルカー」(筆者撮影)

 同ルートでは動力や仕組みの異なる多様な乗り物が次々と登場することから鉄道マニア、中でも「乗り鉄」に人気の場所だ。海外からの旅行客も増えている。成田空港から入国して都内を観光し、長野から同ルートを通って富山へ抜け、京都・奈良を訪ねて関西国際空港から帰国(またはその逆)という日本ツアーが人気を集めている。

美女平から弥陀ケ原、天狗平を経て室堂駅までの自然の中を走る「立山高原バス」(筆者撮影)
美女平から弥陀ケ原、天狗平を経て室堂駅までの自然の中を走る「立山高原バス」(筆者撮影)

 富山側から入って立山駅から黒部ダムの手前にある黒部湖までは「立山黒部貫光」、黒部ダムから扇沢までは「関西電力」が交通機関の運行を担っている。山本さんは立山黒部貫光の社員であり、観光シーズンは立山トンネルトロリーバスを1日15往復も運転する。

戦後の電源開発の歴史を今に伝える黒部ダム(筆者撮影)
戦後の電源開発の歴史を今に伝える黒部ダム(筆者撮影)
今年が運行最終年となる関電トンネルトロリーバス(筆者撮影)
今年が運行最終年となる関電トンネルトロリーバス(筆者撮影)

「涙と夢と希望の詰まったトンネル」

 勤務時間は午前6時半から午後5時半まで。ご来光を見る観光客に合わせて午前3時半に起き、出勤することもある。整備の手伝いや点検、改札・出札業務、事務も重要な仕事だ。2016年春に運転士となり、観光客を乗せて走っている間は、こんなアナウンスで立山黒部アルペンルートを紹介している。

「このたびは立山黒部アルペンルートにお越しいただき、ありがとうございます。このバスは○時○分に大観峰駅へ到着します。揺れますので、ご注意ください。立山トンネルトロリーバスは、電気で走っています。

 

 運転はハンドルで操作しております。最高速度は時速40キロで移動時間は約8分。最初は時速30キロ出すのも怖かったのですが、今は40キロも平気になりました。暴走運転こそいたしませんが、ずいぶん速度を上げて走行できるようになり、成長しました。

 

 バスの軌道は日本で最も高い場所にある駅を発着点としており、料金も高いです。残念ながら走行中、立山の景色は見えませんが、60年前に黒部ダム建設に携わった人の汗と涙と夢と希望の詰まったトンネルを走っていること、体感していってください」

 立山トンネルトロリーバスの運転士となるまでの道のりは? アナウンスに興味を引かれ、これまでの歩みを聞いてみた。

「女性も頑張れば、いろんな仕事ができる」

 山本さんは1987年2月生まれで、富山県上市町の出身。滑川高時代はソフトボールの選手として、全国高校総体に出場したこともある。高校を卒業後に2005年4月に交通機関の運行やホテル業務などを担う「立山黒部貫光」へ入社した。新人時代から7年間は土産物を販売する部署にいた。その後、立山トンネルトロリーバスの発着駅・室堂へ異動となり改札などの業務を担当。27歳ごろに「女性も頑張れば、いろんな仕事ができるはず」と思い、「ダメ元」で運転士を目指す決心をした。

「関西電力が運行するトロリーバスに女性運転士がいることを知り、『女性でも、できるんだ。カッコイイな』と。以前から女性のトラック運転手を見て、あこがれてもいました。一緒に働く女の子から『まず、免許取ってみれば?』と言われたんです。家族は『責任が重くなる。やめとけ、やめとけ』などと言いましたけれどね……」

「立山トンネルトロリーバス」はトンネル内を約8分走行する(筆者撮影)
「立山トンネルトロリーバス」はトンネル内を約8分走行する(筆者撮影)
トロリーバス後部の制御装置。複雑に配線が行き交う(筆者撮影)
トロリーバス後部の制御装置。複雑に配線が行き交う(筆者撮影)
シーズンオフには立山トンネル内の補修作業も(山本さん撮影)
シーズンオフには立山トンネル内の補修作業も(山本さん撮影)

 2015年の観光シーズンが終わり、冬の長期休暇を前にチャレンジを開始した。上司に「大型2種免許」を取得したい意向を伝えると「冗談でしょ?」と言われた。「トロリーバスの運転手になれるかどうかはともかく、自分にとってマイナスにはならない」。無事、免許を取得して帰ってくると「本気だったんだ」とびっくりされたらしい。

「女性運転士第1号」の道を会社も支援

 山本さんの「本気度」を知り、会社も「女性運転士第1号」になる道を開いてくれた。上司は免許取得にかかった費用の半分を会社が負担するよう手配してくれた。

 大型2種免許を取得するだけでは、トロリーバスを運転することはできない。国土交通省が認定する「動力車操縦者運転免許証」を得るために2016年春から社内研修を受けた。4月からトロリーバスの練習をスタートし、規定の時間内は先輩の運転士が横について運転。乗客も乗せて実地で経験を積み、2カ月間の研修後、6月に試験をパス。7月からは1人で運転業務に当たった。

「大型2種免許は島根県内の教習所に合宿して取りました。とても楽しかったですよ。でも研修は緊張の連続。お客さんを乗せると肩に力が入り、最初はのろのろ運転だったのです。また、機械が苦手ですから点検の業務内容を覚えるのが大変でした」

 現在は後輩の女性運転士がもう1人誕生し、山本さんは指導する立場になった。「3勤1休」のローテーションで、駅に併設された社員寮で寝泊まりをする生活である。周囲の支援もあって、「女性初の運転士」ということをあまり意識することはないという。

「お客様から笑いが出ると嬉しい」

 観光客からは「女の子が運転しているんですね」と珍しがられる。車内アナウンスは、観光客の年齢層やどこから来たかなどに応じて、バリエーションを変えているそうだ。立山黒部アルペンルートの歴史について勉強し、戦後の復興を支えた電源開発や、観光ルートの整備についての経緯を分かりやすく伝えたいと工夫している。海外からの観光客が増えたこともあり、フィリピンへ語学研修に行って英語のスキルアップにも力を入れる。

車内アナウンスでは立山の電源開発やルート整備についても紹介する(筆者撮影)
車内アナウンスでは立山の電源開発やルート整備についても紹介する(筆者撮影)

「お客様から笑いが出ると嬉しいです。でも、すごく疲れておられる様子だと必要最低限のことしかしゃべらないようにしています。運転士ですがバスガイドも兼ねているようなもの。『もっとうまく話せればなぁ』とも思います。自分と会えることを楽しみにして乗ってくださるようになったら嬉しいですね」

 いろいろな乗り物を乗り継いで移動する立山黒部アルペンルートについて山本さんは「大自然と歴史ある乗り物が魅力の遊園地みたいなもの。東京ディズニーランド(TDL)に来たみたいに楽しんでいただきたいです」と話す。秋の観光シーズンは大観峰の展望台から見る紅葉は絶景。黒部ダムの堰堤から見る光景には迫力があり、室堂から見る夕日や、雄山から見る朝のご来光も「オススメ」とのこと。いろんな乗り物で移動しながら、魅力いっぱいの立山黒部アルペンルートを、ぜひ楽しんでいただきたい。

※以下の写真は山本さんが撮影。

▲雄山からのご来光
▲雄山からのご来光
▲満月の日のみくりが池から望む立山
▲満月の日のみくりが池から望む立山
▲室堂から望む富山平野の夕日
▲室堂から望む富山平野の夕日
▲大観峰駅からのご来光
▲大観峰駅からのご来光
▲大観峰駅からの雲海とロープウェイ
▲大観峰駅からの雲海とロープウェイ

※立山黒部アルペンルートについては、こんな記事も書いています。

立山黒部アルペンルート4月15日全線開通 「ずっと見ていたい」と思う雄大な風景

https://news.yahoo.co.jp/byline/wakabayashitomoko/20180408-00083691/

※「立山黒部アルペンルート」のホームページ

https://www.alpen-route.com/index.php