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福岡国際マラソン選手権が、今年12月の大会で終了

和田悟志フリーランスライター
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

陸上の世界遺産に認定されたばかりだったが…

 毎年12月に開催されている福岡国際マラソン選手権が、2021年の第75回大会を最後に終了することが、3月26日に発表された。

 男子のエリートレースでは、びわ湖毎日マラソンが今年2月28日の第76回大会をもって終了したばかりだったが、またしても伝統の大会が幕を閉じることになる。

 第1回大会は、日本マラソンの父といわれる金栗四三氏の功績をたたえるとともに、五輪で戦える選手を育て戦後復興の礎にしようと、1947年に「金栗賞朝日マラソン」として熊本で開催された。その後、香川、静岡、広島 などで開催され、第13回(1959年)から現行の福岡開催となった(1963年の第17回大会は除く)。

 国内外から数多の名ランナーが駆け抜けた福岡路では、世界最高記録は2度、日本最高記録は8度誕生した。

 第21回(1967年)では、デレク・クレイトン(オーストラリア)が世界で初めて2時間10分の壁を破る2時間9分36秒4をマーク(ちなみに、その前の世界記録保持者は福岡出身の重松森雄だった)。さらに、第35回(1981年)にも、ロバート・ドキャステラ(オーストラリア)が2時間8分18秒で世界最高記録を更新した。

 日本最高記録は、広島庫夫(旭化成)、中尾隆行(中京大)、寺沢徹(倉レ)、佐々木精一郎(九州電工)、宇佐美彰朗(桜門陸友会)、藤田敦史(富士通)の6人によって8度更新されている。

 奇しくも、2020年には陸上競技の発展に貢献したことが評価され、世界陸連から陸上の世界遺産「ヘリテージプラーク」を日本のマラソンレースで初めて贈られたばかりだった。

 大会最多タイとなる4度の優勝を誇る瀬古利彦氏(日本陸上競技連盟強化委員会マラソン強化戦略プロジェクトリーダー)は、次のように大会への思いを寄せた。

「福岡国際マラソンに育ててもらったという自負もあるので、この大会がなくなってしまうと私自身の歴史もなくなってしまうような気がして、すごく寂しいです。

5回出場した中で特に思い出に残るのは、モスクワオリンピック代表の座もかかった 1979年の、宗茂・猛兄弟と3人で競って平和台陸上競技場に入った大会。40キロから一度は宗 猛さん、茂さんに置いていかれて「もう負けたな」と思ったけれど、あきらめずに粘ったら追いついて優勝できた劇的な展開でした。あきらめてはいけないという『マラソンの真髄』を覚えたこのレースの経験が、後にもずっと繋がりました」

 マラソンランナーとしての瀬古が、世界に羽ばたく礎を築いた大会でもあった。

「エリートのみの大会」から「市民参加の大型大会」が主流に

 財政面など大会運営状況が今回の結論に至った主な理由だが、昨今のマラソン事情の表れでもある。

「世界のマラソンの主流はエリートから市民に移っている。エリートだけのマラソンは存続が難しくなってきた」

と、尾縣専務理事がオンライン会見で話したが、アボット・ワールドマラソンメジャーズの6つのマラソン大会(東京、ボストン、ロンドン、ベルリン、シカゴ、ニューヨークシティマラソン)は、いずれも一般ランナーも参加できる大規模な都市型マラソンだ。

 そもそも、30000人超が参加する人気大会の東京マラソンも、以前は、エリートランナーのみの東京国際マラソン(男子)と東京国際女子マラソンが開催されていたが、それらの大会と市民レースとが統合されてスタートした大会だ。「世界最大の女子マラソン」としてギネスに認定されている名古屋ウィメンズマラソンも、以前はエリート女子選手のみの名古屋国際女子マラソンとして開催されていた。びわ湖毎日マラソンが市民参加の都市型レースである大阪マラソンに統合されたのも必然の流れだったかもしれない。

 なお、福岡では11月に14000人規模の福岡マラソンが開催されており、福岡国際マラソンとの統合も検討されたが、コースの面など様々な事情から叶わなかったという。

 また、福岡国際マラソンは、びわ湖毎日マラソンとともに、オリンピックや世界選手権の選考レースとしても注目を浴びてきたが、参加資格記録を突破すれば、実業団や大学のチームに属さない一般ランナーでも出場することができた。

 特に福岡国際マラソンは、2004年の第58回大会から参加資格を緩和したBグループが設けられており、この大会を目標とする一般ランナーも多かった。もっともBグループの参加資格も年々高くなっており、簡単に出場できるわけではなかったが。いちランナーとして、大会終了を嘆く人も多いのではないだろうか。

 いずれにせよ、東京五輪が開催される年に、びわ湖毎日マラソンに続き、福岡国際マラソンの終了が決まったことは、スポーツを取り巻く状況が大きく変わる潮目と言えるかもしれない。

 今年2月28日に行われたびわ湖毎日マラソンは高速レースとなり、鈴木健吾(富士通)が2時間04分56秒の日本記録を樹立し、大会の最後に華を添えた。

 福岡国際マラソンはもともと高速コースとして知られるだけに、最後の大会では好勝負にも好記録にも期待したい。

フリーランスライター

1980年生まれ、福島県出身。 大学在学中から箱根駅伝のテレビ中継に選手情報というポジションで携わる。 その後、出版社勤務を経てフリーランスに。 陸上競技(主に大学駅伝やマラソン)やDOスポーツとしてのランニングを中心に取材・執筆。大学駅伝の監督の書籍や『青トレ』などトレーニング本の構成も担当している。

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